19話 〝悪逆無道・梟雄〟
≪亮SIDE≫
『しぶとい坊やだね。普通の人間ならとっくの昔にバテてるところだよ。
なのに一昼夜戦い続けてもまだ動くのかい』
「はっ、それはお互い様だ。長時間戦い続けても平気な面してるんだから堪ったもんじゃないぜ」
いくら手加減して殺さない様にしているからと言って、【魔女が紡ぐ物語】でも人間の姿をしているなら体力切れになってもいいだろうに。
『いい加減くたばりな。〝国盗り〟!』
「またそれか」
斎藤道三の能力の1つ、〝国盗り〟はどうやら味方を召喚する類のものであるようで、これを発動すると瞬時に味方であるスケルトン達が大量に湧き出してくる。
もっともいくら呼ぼうが関係ない。
所詮雑魚だし一撃で倒せるのだから、ろくに時間稼ぎにもならないのは分かってるはずなんだが、また使うのか。
「まとめて消えろ。[身体強化][腕力強化][刀術][瞬間ブースト][斬撃強化][先読み][思考加速][ダメージ貫通][一閃]」
スキルの重ね掛けに加え、【フランケンシュタイン】の【魔女が紡ぐ物語】を倒した時に手に入れた、自身の側頭部に突き刺している大きなねじを俺は回す。
このねじ、〔つぎはぎだらけの優れた肉体〕は頭に刺している間肉体改造できる能力があるので、攻撃前に頭に突き刺したねじを回して斬撃を放つ事に特化させた肉体に改造して攻撃した。
普通の[一閃]ならば刀の先からせいぜい10メートルほどの範囲の敵を薙ぎ払う程度であっても、スキルと〔つぎはぎだらけの優れた肉体〕の合わせ技で50メートルの範囲をまとめて倒す事ができるほどの強烈な斬撃となる。
その結果は当然目の前の敵がまとめて倒れる事になるわけだ。
しかし先ほどから直接戦うか、スケルトンを召喚してくるからそれを薙ぎ払うかの繰り返しだったんだが、今回は違った。
『ワシが何度も効かない手を打つはずないだろ?』
「なんだと?」
『ワシの異名、それをとくと味わわせてくれる! 〝悪逆無道・梟雄〟!!』
先ほどまでの戦闘や以前戦った時には使用してこなかった能力か。
一体どんな力なんだ?
赤黒いオーラに包まれた道三がこちらに向かって駆けてくる。
が、そのスピードが今までとは段違いだった。
「速い!?」
『かかっ、当たり前じゃ!』
俺は振り下ろされた刀をなんとか受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだのだが先ほどまでと違い明らかに力も増しているのが分かる。
一体どうなってる?
『〝悪逆無道・梟雄〟は自身が犠牲にした味方の数に応じた全能力向上じゃ。
坊やが長時間かけて倒し続けたワシの味方、そやつらはワシの楯としてどのくらいの数犠牲になったかの?』
「くそがっ!」
戦闘を遅延したかったのは向こうも同じだったって訳か。
こっちを確実に殺せるくらい強化されると判断して、今〝悪逆無道・梟雄〟を使ってきたんだろうが厄介な。
「〔柳は幽霊の住処〕!」
『かかっ、今更こんなもんに捕まるわけなかろうて』
先ほどまでは半透明の手を避けるのに精いっぱいだったくせに、今は悠々と避けてこちらに攻撃を仕掛けてくる余裕までありやがる。
『いい加減くたばるがよいぞ。ワシも坊やの面にはもう飽き飽きじゃ』
「勝手な事言うんじゃ、ぐっ!?」
ちっ、強化率が半端ないな。
致命傷はなんとか避けてある程度攻撃を受けるのは仕方がないと諦めているが、これはキツイ。
「[貯蔵庫]で傷は癒せているが、この攻撃を受け続けるのは無理か」
俺のユニークスキル、[貯蔵庫]は食べたものや飲んだものを体内に吸収させずにそのエネルギーや水分を保管しておけるから、当然それはポーションも有効だ。
受けたダメージは前もって飲んでいるポーションで傷を癒せているが、即死するような攻撃を受ければどうしようもない。
「……仕方ないか」
『ん? おおっ、諦めたのかの? ならば苦しませる事なく一太刀でその首を切り落としてやろうではないか』
俺のつぶやきを聞いて諦めたと判断したのか、正面からニコニコと笑みを浮かべながら近づいてきやがった。
馬鹿が。
「ああ。お前がな」
『なんじゃ、と?』
呆気にとられた道三の首が地面へと落ちていった。
まるで斬られた事に気が付いていないかのような、何が起きたのか分かっていない表情のまま道三は死んでいった。
「お前を殺すのなんていつでも出来た。ただ時間を稼ぐためだけに戦闘を長引かせていたにすぎない」
〔つぎはぎだらけの優れた肉体〕で速度特化にし、更に人間が本来せいぜい30%ほどしか使用していない筋肉のリミッターを取り払い、スキル[瞬動][瞬間ブースト]などの重ね掛けで、道三が認識不可能な速度で斬りにいった。
ただそれだけの事だ。
「ぐあっ、……やっぱりキツイな」
ただそれだけの事とは言え、できればやりたくなかった。
それはもちろんこれ以上の時間稼ぎができないのもあるが、何よりも――
「全身がめっちゃ痛い」
もう泣きたくなるくらいに痛い。
ポーションで癒せるからといって、痛みを感じないわけではないのでこんな奥の手は使わなくて済むなら使いたくなかった。
今被ってる狐の面がもっと戦闘に有効であればこんな目に遭わなくて済んだだろうに……。
やっぱり【典正装備】が使える物が出るかは運次第だな。
俺以外誰もいないからこんな醜態見られることもないので、痛いな痛いなと愚痴りながらドロップした道三の印籠を拾うと、先に行ったあいつらを追いかけるため全速力で移動を始めた。
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カクヨム様にて1話先行で投稿しています。