30話 強制加入
またミノタウロスが周囲に異様な圧を与えて、召喚した“取り込まれた生贄”を食べようとした時だった。
城壁が突然フッと消えてミノタウロスと“取り込まれた生贄”が空中に放り出されて地面に落ちてくる。
『『ブモー--?!』』
地面が揺れたかと錯覚するような地響きを上げたミノタウロス達は、落ちた衝撃のせいか突っ伏したまま動かなかった。
「ナイスだ省吾! ここで一気に畳みかける!」
省吾さんの傍に智弘さんがおり、どうやら智弘さんの指示で城壁を消させたようだ。
城壁を崩壊させて瓦礫による攻撃方法を見たことがあったし、徐々に小さくして消したりしていた事もあったけど、まさか瞬間的に消す事も出来るとはね。
「ボクはカードを1枚生贄に捧げ、[蟻地獄]を発動させる。続けて[効果時間延長]を発動。
向こうの動きを止めている今の内になんとかミノタウロスに攻撃を……!」
智弘さんが発動させた[蟻地獄]により、ミノタウロスは体の左側が地面へと埋もれて完全に身動きが取れなくなり藻掻いていた。
お陰でミノタウロスが隙だらけの恰好を見せていて、今こそミノタウロスを倒すチャンスだ。
「[狐火]、〈解放〉!」
「カードを1枚生贄に捧げ、[クリムゾンバーナー]を発動させる!」
しかし残念ながらミノタウロスの異様な圧のせいでその場から動けないため、遠距離攻撃の手段を持つ人間しか攻撃できず、その人物が限られているためミノタウロスを倒しきれない。
『〝神撃〟を撃つしかな、い?』
『でもそれで倒しきれず復活されたら、咲夜先輩抜きであのミノタウロスと戦わないといけませんよ』
『さっきまで攻撃は咲夜頼りだったことを考えると、ここで咲夜が抜けるのはかなりキツイよね……』
冬乃が[狐火]と同時に〔籠の中に囚われし焔〕を使い、智弘さんが火炎放射器で炎を射出しているようなスキルでミノタウロスを攻撃し続けるけど、炎の中苦し気に呻いているだけで倒しきれそうな気配がない。
『ブモオオオオオオ!!!』
ただ巻き込まれていた“取り込まれた生贄”は死んだようで、ミノタウロスが再び“取り込まれた生贄”の召喚を――って、圧がかなり強くなってないか!?
『く、苦しい……』
『“取り込まれた生贄”を食べるのを邪魔すればするほど、圧が増していくとか厄介です……!』
まるで重力が増したのかと錯覚するほどの圧に立ってることが出来ず、息をするのもやっとな状態だ。
『くっ、ダメ……! これじゃあ〔籠の中に囚われし焔〕を持ち上げていられないから、撃つ事も出来ないわ』
冬乃はそう言いながらも[狐火]で攻撃し続けているが、威力が足りないのかミノタウロスはおろか“取り込まれた生贄”に致命傷を与える事が出来ていなかった。
ミノタウロスが自身を捕らえる罠から徐々に這い出てきて、召喚した“取り込まれた生贄”に手を伸ばして捕食しようとしており、それを食べて回復してしまうのも時間の問題だろう。
どうする? 一か八かに賭けて、咲夜に〝神撃〟を撃ってもらって倒しきるのに賭けるか……?
『食べさせないよ。派生スキル[ファンクラブ強制加入][推しからの命令]〝その子を食べちゃいけないよ!〟』
ステージの上から矢沢さんの声がスピーカーを通して聞こえてきた。
何かとんでもないスキル名を言っていたけど、そのスキル名通りミノタウロスは謎のTシャツを強制的に着させられており、その背には大きなハートが描かれその中に“恵推し”と書かれていた。
それに加え、“取り込まれた生贄”を食べようと伸ばしていた腕を不自然な場所でピタリと止めていてプルプルと震えている。
『あまり本人の意思に反することは長く効かせられないから、急いで!』
「そうか。ならここで決めるしかない! 派生スキル[スキルサーチ]を発動。手札を全て捨てる代わりに、デッキからスキルを1枚サーチ。ボクは[ディヴィニティーケルビム]を手札に加える。
さらに派生スキル[ライフコスト]を発動。カードを生贄に捧げる代わりにHPを50%生贄に捧げ、[ディヴィニティーケルビム]を発動する! ぐっ……」
発動を宣言した瞬間、智弘さんが苦しそうに顔を歪めていた。
模擬戦の時と違って、智弘さんの体が多少傷ついていたので“食われし残骸”に手傷を負わされてたのかもしれない。
その状態でHPが50%も減れば、残りのHPが大分少なくなるだろう。
だけどそれをしてでも今が倒すチャンスだと判断しての行動であり、智弘さんが持つもっとも強力な手札を切ってきた。
『みんな、ここで一気に畳みかけよう! 今までみんなに付与してきたバフの効果を倍にするよ。派生スキル[アンコール]!』
それに合わせて矢沢さんも今まで使ったことのない派生スキルを使用しだす。
矢沢さんの言った通り先ほどよりも体に活力が湧きだし、ミノタウロスの圧が軽くなったように感じる。
『■■■■』
それと同時に智弘さんが召喚した4枚の翼をもつ白い衣服をまとった女性、智天使が僕らの前に現れた。
「穿て、ケルビム!」
『■■■■■■!』
智弘さんの命令により智天使は光で描かれた幾何学模様を出現させると、そこから光線がミノタウロスへ向けて射出された。
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お、終わりが見えてきた……。
早く倒すんだお前ら! もういい加減、迷宮の中の話を書き続けるのは疲れたんだ!
(作者の心からの叫び)