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27 修羅場


 あたしに、セックスを、教えて・・・。


 普通のヤツなら、可愛い女の子にそんなことを言われたら昂奮しまくって勃起して暴発する。鼻血も出るだろう。


 もちろん、夏樹だってそうだ。さっきから勃起しっぱなしだった。


 しかし、その欲望のまま恵美とヤッてしまえば地獄が待っているのもよくわかっていた。それほど、幼いころからの記憶というのは重くて大事なものなのだ。


 たしかに奈美は可愛くなってしまったが、もし恵美とのことがわかってしまったらいったいどんなことになるのか、想像もつかなかった。殴られるとか一晩中詰られるとかならまだそのほうがいい。ハリツケ獄門だって、ガマンしてもいいくらいだ。


「裏切ったね。・・・死んでやる! 化けて出てやる!」


 もしそんなことになったら・・・。奈美の性格なら、十分にありうる。


 勃起しながら悪寒がした。身体中の毛が逆立つような気がした。こういうことってあるんだ。自分ならホラー映画観ながらエッチできるかもしれない、と思った。


 夏樹は反撃を開始した。


「あのさ、もしお前のお母さんがこのことを知ったらどうかな」


「・・・どういうこと」


 これ以上セマられるとマズいのに、恵美はグイグイ胸を押し付けながら夏樹に迫ってくる。


「ウソをついて来たんだよね、ママに。オレの母親がいるって。泊って行きなさいって言われたって」


「そうだよ」


「そうだよって、・・・あのさ、バレたらどうするの。相手の親がいるからって、安心して泊ってきなって言ってくれたんだろう。言ってみればさ、ママを騙して来たんだよね」


「そうだよ」


「悪いと思わないの? ママに」


「でも、言われてるんだもん」


「なんて?」


「早く体験しちゃいなさいって」


「・・・ウソだ」


「ホントだよ」


 恵美はつと立ってスポーツバッグからコンドームのパッケージを出して来た。彼女のバッグからはいろんなものが出てくる。ドラえもんのポケットかと思った。


 パッケージを夏樹に突き付けて、ポンとテーブルに置いた。


「ママがくれたの、これ。避妊だけはちゃんとしなさいね、って」


「絶対、・・・ウソだ」


「ウソじゃないよ。バージンなんて大事に取っておいても仕方ないから早めに捨てちゃいなさいって。だけど、相手は選びなさいって。これはって男の子がいたら、一度家に連れてきなさいって。ママがチェックしてあげるって。いつも言ってたの。ママも今のあんたと同じ歳にバージンを捨てて18であんたを産んだわって」


 ということは恵美の母はまだ31、2。若いはずだ。


「で、ちぃとケンカしたのもあったけど、ナツキが好きすぎて辛くて・・・。あんまり苦しいからナツキを呼ぼうかと思ったら来てくれた。あの時すんごい、嬉しかったんだ。


 で、ママに言ったの。あたし、ナツキが好きって。そしたら、いいわよ、あの男の子ならって。アタックしてタイケンしちゃいなさいって。だから、ナツキでタイケンしたかったの。そのために、来たの」


 あまりにもありえない展開に眩暈がしそうだった。


「・・・んん、マジか・・・」


「うん、まじ」


 頭の中が真っ白になった。これほどのヤツがこの世に、しかも同じ学校の同じクラスにいるなんてと。やっぱ、どう考えても、フツー、ありえない。コイツには、恵美には屈託というものが、全くない。おまけに相手の気持ちを思い遣るという心がない。美玖にも、奈美にもあるそれが、ないのだ。あるのは全部自分だけ。究極のジコチュー。しかも、親がそれを認めてるとは。


 まいったな・・・。


「あのさ、話は分かったよ」


「わかってくれた?」


「でもさ、無理だと思うよ」


「なんで?」


「オレのさ、大きすぎるんだって」


「え?」


「チンコ。大きすぎるんだってさ。だからスゲー、痛いんだって。ナミが言ってた」


「・・・」


 しめしめ。ショックを受けてるぞ。ここは一気に・・・。


「ナミの時だって何回かトライしてやっと、だったんだ。それでも最初スンゲー痛がった。した後もしばらく痛いっていってた。お前耐えられるかな。・・・無理だと思うな・・・」


 恵美がスッと身を引いた。怖くなったんだ。


 ふうっ・・・。世話が焼けるぜ。


 だがその時ふと思いついた。ずっとわからなかったことが閃いたのだ。


 何故、奈美も子供を産んだ美玖さえも夏樹のがおっきいと言っていたのか。


 たしかに友達と比べたことはある。だが当たり前だがそれは勃起していない時だ。例えば同時にエロ本を読みながらデカくして比べるようなことはしていなかった。


 そうか。膨張率が大きいんだ! だから勃起すると皮が突っ張って滅茶苦茶痛いんだ。


「そうか・・・。やっとわかった」


 長い間の疑問が氷解する喜びを、夏樹は噛み締めていた。


「・・・なにが?」


 ふと視線を感じて我に返った。恵美が見つめていた。


「あ、いや、何でもない」


 チンコのことで喜んでいる場合ではなかった。目の前の危機が消滅したわけではないのに・・・


「やめる? やめた方がいいよな」


 恵美は再びにじり寄って来た。


「じゃあさ・・・、見せて」


「え?」


「そんなにおっきいの、見てみたい」


 あちゃあ・・・。


 マズい。そうくるか・・・。もう、ヤケクソだな。キレたふりでもしようかな。


「見せれるわけないだろっ! 何言ってんだよ。見世物じゃないんだぞ、コレ!」


「ウソだからでしょ、本当はちっちゃくて、恥ずかしくて見せられないからでしょ」


「なんだって! ウソじゃねえよ!」


 キレたふりどころか、本当にキレそうだった。


「じゃあ、見せてよ。ウソじゃないって、証拠見せて」


 ちくしょう、このアマっ! 逆手に取りやがって!


「・・・そこまで言うなら、見せてやろうじゃんかよ!」


「何を見せるって?」


 ギョッとして振り向くと、高校のジャージ姿の奈美が階段を降りて来ていた。彼女は鼻の下が煤けているのをジャージの袖で払った。コイツ、どっから入って来たんだ。今までで最凶の目つき・・・。ヤバい。ハンパなく、ヤバ過ぎる・・・。たちまち勃起は縮んだ。


「な、ナミっ!」


 奈美はつかつかソファーまで来ると恵美に、


「あんた、ちょっとどいてて」


 そして夏樹を押し倒してその上に馬乗りになった。ガタイも体重でも上回る上に腕も抑えられて、完全に身動きを封じられた。


「んなーつきぃ・・・。どういうこと、コレ。説明してみ。ん?」


 般若に変身した奈美に見下ろされ、助けてと声を上げたかったが、恵美にそれを求めるのは、いささか無理があると思った。





 終電で帰宅した奈美の父は、まだ自宅のリビングの灯りが点いているのを不審に思った。


「ただいまあ・・・」


 いつものようにカギを開けて小さな声を上げた。リビングに妻だけではない、複数の人の気配があった。そおっと引き戸を開けると、長いソファーに三つの頭が並んでいて、その向かいに眉根を寄せた妻の疲れた顔を見つけた。


「なんだ・・・。どおしたの、これ?」


「ああ、お帰りなさい、あなた・・・」


 三つの頭は、娘とその幼馴染。そして初めて見る少女のものだった。





 風呂場から奈美の父の鼻歌が聞こえていた。それは陽気なアニメソングでその場の深刻な雰囲気にまるでそぐわないものだった。思わずプッと吹き出しそうになったがすんでのところでガマンができた。


「ナミ。あんた、自分が何をしたか、わかってるんでしょうね」


「だってさ、ナツキ、コイツ生意気に返信も寄越さないしさ・・・」


「そうじゃないでしょ!」


 とナミの母はテーブルを叩いた。


「何時だと思ってるの。どこの世界に夜中の十一時に他人様の家の二階によじ登って侵入する女子高生がいるの。あんたのしたことはね、りっぱな不法侵入なのよ。ハンザイよこれ。わかってるの? その自覚、あるの?」


「ンなの小さいころからしてたし・・・」


「あんたいったいいくつになったのよ! 近所の方に通報でもされたらどうなったと思うの。これからここに住めなくなっちゃったかもしれないのよ。わかってるの?」


「・・・はい」


 奈美はやっと萎れた。


「反省したのね」


「・・・はい」


「もう二度としないって、約束するわね?」


「・・・はい」


 ふうと息を吐き、奈美の母は今度は恵美に向き直った。


「エミちゃんね。あなたはナツキの家の親御さんがいないと知りながら、あなたのおうちにウソをついて泊まりに来た。これは認めるわね」


「・・・はい。でも・・・」


「でも、なあに?」


「ウチのママはナツキなら、ショージ君ならいいって」


「それは、おかしいわ」


 恵美は黙った。


「あなたのママとはお会いしてないけど、同じ親として親のいない家に娘を泊まりに行かせるなんてありえないと思う。仮にナツキならいいと言ったとしても、相手の親という責任者がいるから、万が一のことがあってもちゃんとした大人がいるからいいと言ったんだと思うわ。そこをウソをついていたなら、その時点でナツキならいいという言葉は無効よ。それにウソをついて人を騙すのはよくないわ。わかるわね」


「・・・はい」


「いいわ」


 奈美の母はうふ、と笑った。


 奈美の父がパジャマ姿で風呂から上がって来た。


「おう、ナツキ! お前、なかなかヤルじゃないか。二人の女からセマられるなんてよォ、うーらやましいなあ・・・」


「あなたは黙ってて。早くお夜食食べて寝ちゃって。おやすみ」


「・・・おやすみ」


 奈美の父はたちまち消沈してスゴスゴとキッチンに引き上げていった。


 そうして再び恵美に向き合って言った。


「娘の部屋に布団敷いてあげるから、あなたは今夜はウチに泊まりなさい。あなたのお家には黙っていてあげる。もう、ウソをついて親を騙すようなことをしてはダメよ」


 そしてナミを促して二人を二階に、布団を延べに行かせた。


 そして、さて、と言った。


「お父さんとは連絡取れるの?」


「・・・はい」


「じゃあ明日にでも電話して。ウチに電話してほしいって」


 奈美の母はそのふっくらした頬に笑みを作り、深い溜息をついた。ホントに、しょうのない子ねェ、とでも言うように。


「ナツキ・・・。考えたんだけどね、あなたは中学を卒業するまでウチにいなさい。ウチに下宿するの。わかる?」


 夏樹は下を向いた。


「どう考えても、中学生がたった一人で暮らすというのはおかしいし、よくないわ。まず健康面。勉強の面。それから今回のような価値観や情操面でも、あなたはちゃんとした大人と一緒に暮らすべきよ。ウチはそう考えてるって、あなたのお父さんに言いたいの」


「そんな・・・」


「だって、もう・・・。見てられないんだもん」


 奈美の母の困ったような笑顔が胸に沁みた。

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