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骸の巨神は名を得る。【短編】  作者: 東 日輪斎
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初めての体験



 …この珍しい生き物はいったい何なのだろうか。


 俺は今、異界に地にて奇妙な体験をしていた。


 その元凶は俺の周りをうろちょろとしながら、執拗にアプローチをしてくる、人という生ゴミのメス。


 「ねぇねぇ、なんでそんなに大きいの?」「ここでなにしてるの?」


 そのメスは先程からこの様な疑問を延々と俺に投げ掛けてくる。前の世界ではあり得なかった現象。摩訶不思議とはこの事だ。


 俺は死そのものであり、全生命から疎まれ、拒否される存在だ。故に今の今迄に俺へと興味を向けた命は一つたりとて有りはしなかった。


 しかしこのメスは何だ?何故に俺へと好奇の目を向ける?何故にこの俺を恐れない?


 いや、あぁそうか…


 恐らくはこのメス。生命の本能である死とゆう概念すらも分からぬ程に知能の低い生ゴミなのだろう。ならば『死』であるこの俺が直々に思い知らせてやる。


 『…オイ』

 「ん…?なぁに?」

 

 メスは興味津々といった様子で俺を見上げる。そして俺は頭上に羽ばたく鳥という虫共に視線を向けた。


 瞬間、虫共の命は枯れ果て。抜け殻となったその身が大地に降り注ぐ。丁度良いことに、その内の一つがメスの目前に落下した。


 「わわっ!鳥さんが…死んじゃった…」


 どうやら死を理解したらしい。生ゴミのメスは死した虫を抱えながらに悲壮の面持ちとなった。


 『…此処ニイレバ、貴様モソウナル。即刻立チ去レ』

 「っ!な、なら、あなたもいっしょに逃げなくちゃ!」

 『ハ…?』


 何を言っているのだ、この馬鹿は。何故、この俺が逃げる必要がある?


 「だって!ここいたら死んじゃうんでしょ!?だったらあなたもこのままじゃ死んじゃう!!」


 …ほ、ほう…この能無しの蛆虫にも劣るメスは、この俺に対して死すと申すか…


 ………ハハ、面白い、この様な皮肉を口にされたのは誕生以来初めてだ。


 しかし俺はその時、己が内に秘めたる、あるモノの変化に気付いた。


 それは、怒り。


 今、俺は確かに、己が心に怒りの炎が灯ったのを感じた。

 

 しかも、それを与えたのがこの、矮小でちんけな有象無象の一つでしかないメスだ。

 

 奇妙だ。不思議だ。そして腹立たしい。


 しかし怒りに任せて殺してしまうのは簡単に過ぎる。この俺をコケにしたまま簡単に死なれては、俺の存在が、全身全霊が決して許しはしない。


 故に俺は考えた。


 よかろう。此奴には俺という死を完膚無きまでに教え込んだ後、最上級の死を馳走してくれる。そしてその死をもってこの世の破滅の刻としようではないか…!


 そんな俺の心情とは裏腹に、この小娘はまだ俺を恐れていない様子だ。


 「ねぇ、どうしたの?はやく逃げよう?」

 『…必要ナイ』

 「え…?」

 『必要ナイト言ッタノダ小娘』


 少し語調が強くなってしまった。怒りとはこの様に身体的にも影響を与えるものなのか…。

 しかし小娘は怯んだ様子も無く続ける。


 「コムスメじゃないもん!あたしはアリスだもん!」

 

 この俺を前にして随分と威勢のいいモノだ。やはりこの小娘には恐怖というモノを充分に理解させてから殺す。

 

 すると小娘は何かを思い立ったかの様に口を開く。


 「あ、そういえば、あなたお名前は?」

 

 名前…?あぁ此奴ら有象無象は数だけには取り柄がある故、個々の判別に名を用いるのだったな。面倒な種族だ。

 しかし丁度良い、此奴に俺という存在と有象無象との違いを思い知らせてやろう。


 『俺ハ死ヲ司ルタイタン。唯一無二ニシテ、貴様ラ生命ノ死ヲ管理スルモノダ』

 「…???…タ、タン?…タランッ!あなたの名前はタランっ!」

 『……』


 全然、全く、森羅万象全てが間違っている。やはり此奴は阿保の類だったか…。これはマズい、とてもマズいな。此奴に死の恐怖を与えるには先ず、理を解する知能を育まねばならんという事だ。

 

 なんて面倒なのだ。世界に滅びを与えた時でさえ、この様な手間は無かったというのに…。


 しかし『死』という絶対的存在である俺に『逃げ』などという言葉は存在しない。


 故に俺は決意する。


 あぁ、精々足掻くがいい…。どの道、この小娘が進む先の未来には絶望が待つのみ。何故なら、この俺が全知全能の駆使して、圧倒的絶望を体現させてやるからだ。

  

 そう遠くない未来を楽しみにしているがいい……



 そうして、俺と少女の奇妙な関係が始まった。


 

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