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現代むかしばなし  作者: かなで四歌
3/4

迷い家

 あるところに、ことりちゃんという女の子がいました。

 ことりちゃんの家では、少し前に赤ちゃんが生まれて、今日はみんなでおばあちゃんの家に来ています。

 ことりちゃんは、赤ちゃんのことは好きでしたが、みんなが赤ちゃんのことばかり構って、自分の話は聞いてくれないので、すっかりふてくされてしまいました。

 お家を出て、ことりちゃんは散歩を始めます。



 おばあちゃんの家の周りは、ことりちゃんの家の周りと比べると、とても木が多く、道も多く、そして虫も多いところでした。

 ことりちゃんはしっかりしているので、家に帰るときに迷わないように、何度も後ろを振り返っては道をしっかり覚えていました。



 少し歩いたところで、ことりちゃんの頭に何かが落ちてきました。

 手を伸ばして触ってみると、もぞもぞと動いていて、なんだか柔らかくて、そう、これはもうイモムシだということが、ことりちゃんにはしっかりとわかってしまいました。

 ことりちゃんは悲鳴をあげて芋虫を頭から落とすと、そこから一目散に走っていってしまいます。



 ことりちゃんがもう走れなくなったころ、周りを見てみると、全然知らないところに来てしまっています。

 道は途中までしかおぼえていなくて、それなのに、周りには何本も道があります。

 ことりちゃんは迷子になってしまったのだと思って、めをうるうるさせながら、とりあえず、走ってきた方に戻り始めました。



 あっているのかどうか分からない道を歩いていくと、一軒の古ぼけたお家がありました。

 ことりちゃんは、そこで誰かに、お母さんかお父さんを呼んでもらおうと思って、チャイムを探します。

 けれどチャイムはどこにもありません。

 ことりちゃんはしかたなく、古ぼけた扉をノックします。

 けれど返事もありません。

 ことりちゃんはしかたなく、怖い人がいたらどうしようと思いながら、お家の中に入りました。



 お家の中は、あたたかくて、なんだか甘い、わたあめのような、とてもいい匂いがします。

 ことりちゃんは靴を脱いでしっかり揃えると、おじゃまします、と声をかけて、お家の人を探し始めました。



 おうちの人は見つかりません。

 どこかに行ってしまったのでしょうか?

 家の中には黒い猫ちゃんだけがいて、古いけれど綺麗な、飴色のテーブルの上に丸くなって、ことりちゃんのことをじいっと見つめていました。

「猫ちゃん、わたし、迷子になっちゃったの」

 黒猫はにゃあ、と答えるように鳴きます。

「ここのおうちの人はいないのかな…」

 ことりちゃんは不安な気持ちで、猫ちゃんの背中に触ります。

「あなたはおるすばんなの? おうちの人はすぐ帰ってくる?」

 黒猫は気持ちよさそうに撫でられながら、声を上げずに黙って尻尾を振っています。



 ことりちゃんが猫ちゃんのいるテーブルをよく見てみると、美味しそうなパウンドケーキや、まだ湯気のあがっているオムライス、そして何故か、美しい洋服を着たお人形や、兎のぬいぐるみなどが載っています。

 ことりちゃんは急に、お腹が空いてきたような気がしました。

 ことりちゃんは急に、綺麗なお人形も欲しくなってきてしまいました。

 机の上には、もう一つ載っているものがありました。

 写真立てに入れられた、ことりちゃんくらいの年頃の女の子の写真です。

 くるみちゃんは写真を見ると、はっとして、机の上のものに伸ばしかけていた手を止めます。

「猫ちゃん、ここのものはこの子のものなのね」

 黒猫は、にゃあ、と短く鳴きました。

「わたし、人のものをとっちゃいけないの、知ってる」

 ことりちゃんが少しテーブルから離れると、黒猫がすっと床に降りて、歩き出します。

「猫ちゃん、どこ行くの? 置いてかないで!」



 ことりちゃんは黒猫を追いかけます。

 家の外へ出ていってしまう猫ちゃんを、急いで靴をはいて追いかけます。

「まって、まって!」

 猫ちゃんを追いかけて、追いかけて、追いかけて、やっと猫ちゃんが立ち止まったところで、周りを見ると、その道には芋虫が落ちていました。

「ここ、さっきの場所?」

 猫ちゃんが寄ってきて、見ると、口に何かをくわえています。ビニールで包装されたあめのようです。

「わたしにくれるの?」

 ことりちゃんが手を出すと、猫ちゃんはそこに飴玉を置いて、かわりに芋虫をくわえて、かけていってしまいました。



 ことりちゃんはそこからの道をおぼえていたので、お家に帰ることができました。お家に帰ると、すぐにお父さんとお母さんが出てきて、ことりちゃんを抱きしめます。

 お父さんとお母さんは、ことりちゃんがどこかに行ってしまったので、心配してくれていたようです。

 ことりちゃんはちゃんとごめんなさいをして、けれど少し嬉しくなって、笑いました。

 口に入れた飴が、とてもとても美味しく感じました。



 おばあちゃんの家からの帰り道。

 お父さんに手を引かれて、ことりちゃんは駅まで歩きます。

 駅に行く途中、大きなポスターで写真が貼ってありました。

 あの黒い猫ちゃんの家で見た写真と、同じ顔の女の子の写真でした。

「お父さん、これ、なあに?」

「この子、迷子になっちゃったみたいだね。ポスターを貼って、みんなに探してくださいってお願いしてるんだよ」

「ふうん……」

「ことりも気をつけるんだよ」

「うん!」

 あのいい匂いのするお家は、この女の子のお家だったのかなと、ことりちゃんは思いました。

 おいしい飴の味と、抱きしめてくれたお父さんとお母さんを思い出して、ことりちゃんはニコニコしながら自分のお家に帰りました。

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