河原の石積み
そこは暗い、とても暗い裏路地。
青い空に向かって、一生懸命に建物が背を伸ばした裏側に、黒い子供たちはいました。
子供たちに記憶はありません。
自分がいつからここにいるのか、すぐに忘れてしまったのです。
気が付くと一人増え、二人増え、たまに何人かが消えて、いつもだいたい同じくらいの人数がいました。
子供たちはなんとなく、ビルを挟んだ向こう側、たくさんの人が歩く、明るい道に。
昼のうちはそこに行ってはいけないと、全員が思っていました。
誰かに見つかってはいけないのだと、全員が知っていました。
夜になり、やがてあたりから人がいなくなると、子供たちはゆっくりと道まで出ていきます。
誰もいない道の灯の下を、黒い影のような子供たちは歩き、朝になると路地に戻っていくのです。
夜は子供たちの世界でした。
酔い潰れた大人をベンチへ運び、道に落ちたゴミを拾い、捨てられた動物を道路や線路から離します。
そうして自分たちの住んでいる路地から見えるあたりを綺麗にすると、子供たちは連れだって歩き始めました。
子供たちが向かうのは住宅街。
灯が消え、カーテンが引かれた窓を、子供たちはじっと見上げます。
一つの家の窓を見上げては立ち止まり、しばらくすると次の家へ。
たまに怒鳴り声が上がったり、泣き声のする家の前では、他よりも長く立ち止まって、窓を見つめているのでした。
ある夕方に、子供たちの路地の近くで、交通事故がありました。
ランドセルを背負った子供が跳ね飛ばされて、道路に転がりました。
黒い子供たちはじっと、その子供を見ていました。
誰かが路地へ出ていこうとしましたが、他の子供たちが止めました。
やがて事故に遭った子供は、救急車で運ばれていきました。
その夜、子供たちは道路に集まってみんなで泣きました。
そこだけ黒ずんだ道路を囲んで、朝になるまで泣きました。
その夜は誰もそこから離れず、ずっとずっと泣いていました。
あくる朝。
一人増えていることに、黒い子供たちの誰かが気付きました。
増えた一人を、みんなが抱きしめて、そして子供たちは笑いました。
頭を撫でて、手を握って、みんなで悲しそうに笑いました。