You Never can change the Future.
午前6:00
俺の2019年での監視生活2日目。
「ふあぁ〜……どうしても朝だけは苦手なんだよなぁ……」
そう、俺は朝が絶望的に弱いのだ。何せ20代前半の頃はニートだったしな……そこから大学の先輩の好意に甘えて警察学校教えてもらって猛勉強したっけ……
「癖って怖っ……」
ガスガスと見窄らしい身なりのまま頭を掻いている自分は角度を変えてもS.T.C.H.のトップには到底見えず、生活がなってないおっさんそのものだった。
「おいおい……しっかりしろよ特務総監……」
そう自虐気味に吐きながら朝飯を食っているとインターホンが鳴った。
「っんだよぉ〜……朝っぱらからぁ〜……」
寝起きの俺にとって不条理というか思惑通りにいかないことは悪でしかない。
舌打ち混じりに来客を確認すると……圭吾だった。
「康介ぇ〜、ごめん!ちょっと康介のこと話しちゃったら親が会いたいとか言い出しちゃってさ……」
「ほう……寝起きに襲ってくるとは……!」
「悪かったってば!てっきり5時ぐらいに起きてんのかと思って……」
圭吾が無駄に的確な警察モードの出勤時間を言ってきたため吹き出しそうになっているのを見られまいと床に落ちたものを拾うフリをした。
「いきなりはムズイから部屋に上がって待ってろ。行く分には行く。」
「しゃあ!」
正直この職業からかけ離れた生活模様を見せるのは嫌だったが今更キャンセルもできない……
「うわっ、きったねぇ……俺の方が整理できてるわ……」
人ん家に上がり込んできての一言目がこれである……だが、清掃を放棄したのは紛れも無く俺なので反論する気も起きなかった。
「うるさい……片付け苦手なんだよ昔っから……ちょっと前までヒッキーだったし……」
最後のこの言葉を圭吾は聞き逃さずに「え?マジで?ヒッキーから警察?そりゃ癖になってるわけだわwww」と食いついてきた。目敏いやつだ。
「悪かったな、昨日のイメージひっくり返すような生活感で!」
自棄になって吼えると、今度は「だとしたらもっとスゲーよ。ちゃんと仕事のキャラとオフのキャラ確立してるってことじゃん!」と慰められた。……虚しい……
「フォローなのかそれ?」
「ちょっとdisってるw」
「お前なぁ……」
「……いろいろ見ていい?気になりすぎちゃって……」
「仕方ないな、POLICEって書いてあるの以外な。」
「機密事項ってやつか……了解であります!」
圭吾は俺に了承を取るや否や物色を始めた。
数分後、何か持ってきた。
「genius noteってビデオ見つけたけど……POLICEってないから捜査記録じゃないよな?」
「あっ、それは……いいけど……」
genius noteというのは個人的に撮影できたあるいは時効映像の中でジーニアスの行動パターン、殺害方法、逃走方法を分析したデータベースだ。
意気揚々と圭吾はディスクをデッキに入れる。
そんな様子を危惧しながらも許してしまう自分にも危なげなく思いながら俺もディスプレイを見つめた。
半分ぐらい見終えた後、圭吾からこんなことを言われた。
「なんかジーニアスって殺し屋の癖に怪盗っぽい動きするな。」
自分のこととはいえ眼がいいな…と感心気味に俺も頷く。
「本人だろお前!……確かにこうした方か足跡もつかないし、手袋してれば指紋も残りづらいしな。」
「決めた、俺がちゃんと更生できたらサッチに入って康介と仕事する!」
「はぁ⁈」
あんまり突拍子もないことを言われたせいでビールを零しそうになってしまう。
「だってあんな高難易度なこと軽々出来るようになんだろ?迅速な方が任務に使いたくない?」
それを聞いて一瞬躊躇ったが彼の瞳孔は細まっていた。これは本気のサインだ、よく知っている。
「はぁ…言っておくが、S.T.C.H.は厳しいぞ……付いてこれるか?」
「お?トップからの内定もらえた?……頑張らせていただきます!」
圭吾の笑顔は眩しすぎるほどに輝いていた。本当にやる気なんだろう。でも、それを信じるということは彼の更生が必ず成功すると根拠なく過信することになる。俺はまだ自分の知り得た未来の残像が邪魔をして疑いを拭い去る意思は見いだせないでいた。
「そろそろいい時間だし、俺ん家行こ!」
圭吾に促され、窓を見てみるとちょうど夕方らしかった。
「おう…わかったから引っ張んなって!」
「母さん、帰った〜!」
圭吾がインターホンを押すとすぐさま彼の母親が顔を出した。
(うわっ……お母さん綺麗だな……)
思考と口が同時に動きそうになるのを抑える俺。
「昨日は息子がお世話になりました、これからよろしくお願いしますね。櫻島さん!」
彼女は俺に優しく微笑みかける。
「あっ、えっと……まだ慣れてない新参者ですけど、こちらこそよろしくお願いします!」
「えwww照れてんの?www」
「照れてないっ!褒められ慣れてないだけだ!」
横槍を入れてくる圭吾につい大声を出してしまう。
「あっ……すんません……」
「いいのいいの!コイツやんちゃ坊主だからどんどん叱ってやって!」
挨拶もそこそこに、リビングへお邪魔する。
「呼び方はどうすればいいかしら?年も近いし迷ってたのよ。」
「全然呼び捨てとかで……そういうの気にしないんで!」
「じゃあ、お言葉に甘えて康介くんにするわね!康介くんはなんでここに?」
いきなり答えにくい質問が……流石に本当のことは言えないし……
「短期赴任です……1年間ほど。俺も急に言われたんで整理ついてないですけど……」
「あらそうなの!大変ねぇ……でも最近物騒なことも多いって聞くし、警察官の方が近くにいてくださると助かる!分からないことがあったらなんでも聞いてちょうだいね!」
(親子共々割とグイグイ来るな……)
「はい、任せてください!」
世間話しをしていると、「母さん、今日カレーでいい?」と台所から圭吾が確認しているのが聞こえた。
「ちょっと!康介くんにも聞きなさいよ!」
「あぁ、お気遣いなく。俺カレーめっちゃ好きなんで!……普段の料理も圭吾くんが?」
「ええ、私料理点でダメで……いつも圭吾に任せっきりなの。どこで覚えてきたのかしら……きっと死んだ夫のレシピを盗んだのね。」
「そうなんですね……」
30分ぐらい経って圭吾が戻ってきた。
「普段は仕込みとかしないけど、今日は康介が来るから気合い入れた!」
「さんをつけなさい、さんを!」
「ははっ、いいっすよ……」(だって同い年だし……)
試しに一口運んでみる。
「……なんだこれ……うめぇ!」
確かにめちゃくちゃうまかった。……才能あんだな……
完全に胃袋が人質に取られた、弁当これから圭吾に作ってもらおうかな……?
「へへっ、ガキが作ったと思って甘く見てたろ?ざまぁみやがれ!」
「……いや、本当に見くびってた……すまん。」
……結局あの後いろいろよくしてもらって俺は上機嫌で柏原宅を出た。
「マル秘の家でのんびり親睦会とは職務怠慢もいいとこだな……特務総監。」
途端背後から聞き馴染みのある声がした。振り向くと逆立った赤髪をいじりながら鋭い緑の目で俺を見る男がいた。
「九條……⁈なんでお前が……!」
男の名は九條寛二。捜査一課のエリート総監である。
「忘れたか……?最近一課の方にもアンタの部署の回しモンからトラベルシステムが支給されたんだよ。……最近特務総監のお姿が見れなかったからどこで何をしていらしたのかなぁとな……」
コイツは警学時代から頭が切れる。今回の任務のこともお見通しだろう。
「ふざけんな!これは任務だ!」
すると、彼は死んだ魚の目でこう言った。
「知ってるさ……お前がジーニアスと1秒でも長く過ごしたいがためのエゴからできた任務だろ?」
「……!」
俺が怯んだのを見てさらに猛追をかける。
「最初はちゃんとマル秘を憎んでた。でも途中からお前はあいつとの追っかけっこに意味を見つけた、楽しくなっちまった……なのに先に勝手に死なれて生き甲斐を失ったから遺言を使って彼との関わりを繋ぎとめた。……違うか?」
「断じて違っ……」
「お前がどう思おうが関係ねぇが、未来はどうしたって変えられない。例え柏原圭吾の更生がうまくいってもあの殺人鬼は必ず現れる。しわ寄せが来んだよ。仮に少年のお前がジーニアスになっちまう……とかな。」
「……」
「これ以上突っかかるとオレのクビがどうなるかわからん。今日はこの辺で勘弁してやる。最後に一つだけ言うとな……アイツは友達でもライバルでもない、どこまでいっても処罰対象なんだよ。それをお忘れなきよう、特務総監殿……」
「待っ……!」
九條はそれだけ言って去っていった。
「絶対にいい方向に向かう……向かわせてやる!」
そう決心したものの、九條の言葉が気になって今日は寝つきが悪かった。




