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1章ー11:試作型魔法増幅装置の仕組みと、すっきりしたメイア

「結晶から放出された精霊を、空間に戻さず留め置くとは……確かにこれであれば、精霊魔法の増幅に使えるでしょうね?」

「ああ。本来精霊は、魔法使用者の魔力に呼応して、その場の空間から導出されるが、実際に魔力へ溶け込み、精霊魔法の原料として使えるのは、導出された一瞬で魔力に取り込めたごく一部だ。魔力によってその場の空間から精霊を導出しても、そのほとんどは使われぬまま、元の空間に戻ってしまう」

「しかしこいつは相当の時間、精霊を空間に戻さず対流させていた。精霊は魔力に呼応する性質があるから、剥き出しのままで一定時間でも対流していれば、精霊の近くで魔法現象が発生するだけで、精霊が自ら魔法現象へと集束し、魔法現象を増幅してくれる。いやはやおったまげたね~」

 【精霊本舗】の幹部社員3人が口々に褒めそやし、箱型の魔法機械の周りに集まる。

 その様子を見て、メイアが勝ち誇るように命彦の方を見た。

「ふふふ、もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「分かった分かった。確かに驚かされたよ。これって多分、意思結界魔法を使ってるだろ?」

「さすが命彦、意思魔法系統の申し子と呼ばれるだけあるわ。初見で気付かれちゃったか、ご明察よ、命彦にちょこちょこ教えてもらってた意思魔法系統を応用して、精霊を閉じ込める魔法防壁を構築する意思結界魔法を作り、その魔法が、この魔法機械には封入されてるわ」

 メイアが箱型の魔法機械の電源を落として語る。

「〔魔工士〕の常ってやつでね? 昔から私は、より効力の高い精霊魔法を、どうやったら機械に封入できるだろうかって、ずっと考えてたの。誰でもすぐ考え付くのは、封入する魔法に費やす魔力を増やす方法よね? でも、それだと自分が疲れてしまうし、失敗したら多くの魔力を失って、自分が回復するために開発工程が相当遅れることが予想された」

「だから、より多くの魔力を費やす方法以外の、精霊をより多く魔法に費やす方法を考えた、と?」

 舞子が問うと、メイアは苦笑して答えた。

「ええ。魔力で精霊を空間から引きずり出す方法も、結局は魔力頼みよ。もっともっと楽をしたかった私は、店の職人達が魔法具制作の過程で出してしまう精霊結晶という廃材に着目し、精霊結晶から精霊を取り出して利用する方法を考えていたの。精霊結晶は、異世界資源である[結晶樹の樹液]を用いた魔法具の制作では、ほぼ毎回確実に発生する余剰物。この余り物を利用すれば、もっと楽して精霊をより多く集められると考えたのよ」

「ふむ。着眼点はいいと思いますね?」

「ああ。1度使えば壊れる消費型魔法具の魔法結晶は、[結晶樹の樹液]を使う魔法具の代表例だ。しかも、毎日量産される魔法具でもある」

「その上、[結晶樹の樹液]に魔法を封入する過程で引き出された精霊達が、勝手に樹液に溶け込んじまって琥珀状に固まり、副産物の精霊結晶が確実に生じる魔法具でもある。ウチの店だけじゃねえ、魔法具を作ってる店や研究所じゃ、精霊結晶は常に山盛りで有り余ってらあ、かかか」

 幹部社員達の言葉に笑みを返して、メイアが言葉を続けた。

「そう。それだけある精霊結晶を使えば、より効力の高い精霊魔法をきっと構築できる筈。私はそう考えたんだけど、でもね、精霊結晶から精霊を取り出して利用する方法を確立するのは、物凄く難しかったわ。何せ結晶を粉砕して、低位次元世界の空間に放出された精霊達は、一瞬で空間に融けちゃうからね? ほんの数秒でも融け込むのを待ってくれれば、魔法に幾らか吸収して、精霊を再利用できるのに、利用する時間がほぼゼロだったわけ」

「そこで、精霊をこの世界に止め置く方法を考えたと?」

 箱型の魔法機械をしげしげと見ていたダークエルフの女性が問うと、メイアが肯定するように縦に首を振った。

「ええ。魔力を使って多量の精霊を一気に誘引し、こちらの空間に引きずり出せても、精霊を魔力に吸収するには若干の時間差があるから、吸収できる精霊は限られる。精霊は、こっちの空間に出た瞬間から元の空間に戻ってしまうから、ひき出した全ての精霊を魔力に吸収するのは難しい。精霊を魔力に吸収する時間をどうにか作る手段が必要だったわけ。その手段を見付ければ、精霊結晶に封入された少量の精霊でも、結晶をまとめて粉砕することで、多くの精霊を得られる。魔法にも利用できるからね?」

「そういうことか。メイア嬢の言う、魔法増幅装置のきっかけというのは……」

「精霊を空間に止め置く方法、それ自体のことだったわけですね?」

 獣人男性とエルフの女性が得心した様子で言うと、メイアが我が意を得たりと笑顔を浮かべた。

「そうよ。精霊魔法は精霊を原料に構築する魔法だから、精霊魔法系統の結界魔法じゃ、精霊そのものを閉じ込めることは無理だと私は考えた。何せ完全密閉した魔法防壁の内側でも、精霊魔法を使えるからね? でも私は、命彦から意思魔法系統の基礎を教わってる。そして意思魔法系統は、自らの想像力と魔力次第で、多種の効力を作り出すことが可能だった。意思魔法系統の結界魔法であれば……」

「もしかして精霊を閉じ込め、その場の空間に留め置ける魔法防壁が作れるかもしれんと、そう思ったわけだ?」

 意志魔法の新しい可能性に気付かせてくれたメイアへ、命彦がどこか嬉しそうに問うと、メイアがくすぐったそうに頬を少し染めて、誇らしげに答えた。

「ええ。精霊結界魔法の一種であり、物体や霊体を捕らえる捕縛系の結界魔法を参考に、色々自分で試してたら、できちゃったのよ。短時間であれば、引きずり出した精霊をこの低位次元世界に止め置く、捕縛系の意思結界魔法がね?」

「うむ。新しい魔法を作るのは高位魔獣たるミサヤの専売特許とばかり思っていたが、メイアもやるじゃねえか。さすが天才と呼ばれる才女だ」

 命彦が拍手をメイアに送ると、命彦の左右に座る命絃とミサヤの悔しそうに口を開いた。

「ウチの家が代々探究する魔法系統を……まさかこういう風に使うとは、ぐぬぬぬっ!」

「してやられた感じですね? 精霊を意思魔法で捕まえる。完全に盲点でした。まさか精霊を吸着するが如き意思結界魔法を、メイアが自分で作っていたとは。私にもその発想があれば、容易く作っていた筈の魔法……歯痒いとはこのことです」

 悔しそうに拳を震わせる命絃とミサヤに、メイアが言う。

「ふふん、どうよ! さすがに魔法的素養では、ミサヤに負けるけど、発想力では私も結構凄いでしょ? 誰かさん達よりも、確実に命彦の手助けができるのよ。むふふ」

「ええ、誠に素晴らしいと思いますよ」

「認めよう、メイア嬢。その箱は良い物だ。精霊結晶も魔法結晶も、結晶が砕けると内部にある精霊や魔法が放出されるが、魔法結晶の場合、結晶の異相空間にあらかじめ構築した魔法という現象を封入しているが故に、結晶が砕けた場合でも内部に封入された魔法が放出され、効力を発揮するが、精霊結晶の場合、結晶の素材的性質として精霊という力を閉じ込めているだけだ」

「当然素材である結晶が砕ければ、素材内に閉じ込められた精霊は放出されちまって、精霊の性質上、この世界にすぐに溶け込んで消えちまう。つまり魔法結晶と違って、精霊結晶はどうあがいても廃材だった、今までだったら……」

「それがこの魔法機械を使えば、一瞬で消える筈の精霊が取り出されて、しかも分単位で対流する。その場の空間に残るわけですもんね? 魔法への再利用も可能と、ほえ~」

 幹部社員達や舞子からちやほやされ、メイアも嬉しそうに言う。

「ふふふ。精霊は、魔力や同じ概念情報を持つ精霊に反応して集束する性質があるわ。対流する精霊の傍で精霊魔法を構築したら、構築した精霊魔法に対応する性質を持つ精霊達が勝手に集まって来て、自動的に精霊魔法の効力を増幅してくれるわけよ」

「ということは、材料である精霊結晶をより分けて、使う魔法ごとに投入する精霊結晶を選択すれば、簡易とはいえ、本当に精霊魔法の増幅装置として機能するわけか?」

「そういうことですよね、あれ? これもしかして、相当凄い発明というか発見では?」

 命彦までメイアを褒めたことが決定打だったのか、それとも舞子の発言に打ちのめされたのか。

 メイアを小馬鹿にしていた2人、命絃とミサヤが頭を抱えて、認めがたい現実に苦悩する。

「きいいいいい~! メイアのくせにいいいいっ!」

「私よりも主の役に立つだと? あり得ぬ……あり得ぬっ!」

「姉さん、ミサヤも、ここは抑えて抑えて。実際、今回はよく出来てるし、メイアにも手を貸してもらおう? こいつは本当に使えるモノだ」

「「ぐぬぬぬぬっ!」」

 自分達が一番命彦の役に立つに考えていた2人が、嫌々と頭を振るが、命彦の考えはもう決まっていた。

 そのことを察し、メイアがすっきりした顔で言う。

「ぷぷぷ、恐れ入ったようね! あぁ~気持ちいいわっ! してやったりって感じね!」

「「こむすめえええっ!」」

「メイアも煽るんじゃねえっての!」

 怒れる命絃とミサヤを抱き締めて落ち着かせつつ、命彦がメイアを叱った。

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