表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

1章ー9:武闘派社員の帰還と、【精霊本舗】の幹部

 メイアの精霊儀式魔法《空間転移の儀》によって、【精霊本舗】の店鋪棟屋上に一瞬で移動した命彦達。

 虹色に輝く空間の裂け目に飲み込まれ、一瞬で暗転した視界は、自宅の日本庭園から洋風庭園のように整備された屋上を映していた。

 魔力を多く消費したメイアが、その場で屈むように膝へ手をついて言う。

「あー……この人数でも、長距離空間転移はやはり疲れるわね?」

「お疲れ様です、メイアさん」

 メイアのすぐ横にいた舞子が労うと、命彦達が口を開いた。

「お前が店で説明するって言うからだろう?」

「そうよ、へばる前にとっとと魔法増幅装置と精霊結晶の関連を説明してよね?」

「そうですよ、私達よりマヒコの役に立つのでしょう?」

 メイアの疲労もガン無視して、急かす命彦達。

「命彦はともかく、命絃さんとミサヤは、さっきの私の発言を完全に根に持ってるわよね? まあいいわ。説明してあげますよ、私の開発室でね? そうすれば命彦も気付くでしょう。そこのポンコツ姉さん達よりも、私の方が断然役に立つと」

 疲労の顔を引っ込めて、余裕のある表情に戻ったメイアが、命絃と人間形態のミサヤへ勝ち誇るように言う。

「この私をポンコツ姉さんですって、小娘!」

「命絃がポンコツというのは私も認めるところですが、私も一緒にポンコツ扱いされるのはひどく不愉快です!」

「認めてどうするの、あんたどっちの味方よ!」

「私は徹頭徹尾、マヒコだけの味方です!」

「ふふ~ん、2人の視線が心地いいわ」

 3人でいがみ合う命絃達に、命彦が呆れていると、舞子も苦笑した。

「話が全然進まねえや……」

「そうですねえ。しかし、メイアさんもああいう態度を取られるとは、ふふふ」

「落ち着いてるように見えて、実はメイアも案外子どもっぽいところがチラホラあるんだよ。舞子もまだ付き合いは浅いが、幾度か見てるだろ、アイツのそういうとこはさ? ……ふむ? それはそうと、誰か来たようだぞ?」

「え! 誰でしょうか?」

 接近する人の気配を察知し、命彦が振り返るのにつられて、舞子も背後を見ると、突然屋内に続く階段の扉が開いて、エルフの女性営業部長、ソルティアが現れた。

「これは。屋上からメイア様の魔力と空間震動を感じたと思えば、若様達もご一緒でしたか?」

「ああ、ソル姉だったのか。少し邪魔するよ?」

「はい、若様。ごゆるりとお過ごしくださいませ。……ところで若様? 会長や代表のお姿が見えませんが、ご一緒ではありませんか?」

「あ~……えっと~」

 エルフ女性が問いに言葉を濁していた命彦に代わって、すかさずメイアとギャンギャン言い合ってた命絃とミサヤが、サッと答えた。

「お祖母ちゃん達は、今追いかけっこしてるわよ!」

「またぞろトウジがやらかしたのですよ、ふうー……」

「あ、そういうことですか。お察し致します。姫様、ミサヤ様」

 命絃とミサヤの渋い表情で全て察したのか、舞子を1度見てエルフの女性営業部長は苦笑を浮かべた。

 そして、苦笑しつつ言葉を続ける。

「お2人からは、自宅に戻って若様達のお顔を見たら、すぐ店に戻ると聞かされていましたが、はてさて、いつ戻って来られるのやら……困ったモノです」

「ふむ? 困ってるのか、ソル姉?」

「実は……」

 エルフの営業部長が口を開こうとした時だった。

 命彦と命絃、ミサヤが人の気配を察して、屋内に続く階段の扉に目をやる。

 すると、扉が乱暴に開かれ、妖精人種魔獣の【影木霊人(ダークエルフ)】族の女性と、獣人種魔獣の【人狼】族の男性が現れた。

「若様!」

「若!」

 突然の出現者に、命彦は楽しそうに笑顔で応じる。

「おお! ルリ姉にグル小父(おじ)も! 〔採集士〕小隊の皆まで、関東から帰ってたのか!」

 背広姿の命彦を見て、褐色の肌に紅い髪を持つダークエルフの女性が抱きついてくる。

 ふさふさした狼というより犬顔の獣人男性も、命彦の顔を見てホッとした様子だった。

 ダークエルフ女性のマフッとした豊乳を押し付けられ、思わず顔が緩む命彦だったが、背後から突き刺すように見る命絃と人間形態のミサヤの視線を感じ、慌てて表情を引き締める。

 その命彦の様子を見ていた、エルフの女性営業部長が苦笑しつつ言った。

「会長達と同時に、調達部の〔採集士〕小隊も全員店に帰っていたのですよ。ただ、関東で狩った多数の魔獣の素材や、採集した異世界資源の分別と搬入で手が離せず、皆で素材倉庫にこもっていたのです。その作業が終わりそうだったので、会長達に最終確認をしていただこうと思い、私はお2人の帰りを待っていたのですが……監督していたルイネリスやグルタンがここにいるということは、作業自体はすでに終わったようですね?」

「ああ、もう搬入は終わったぞ、ソルの姉御。あとは、会長達に見てもらうだけだ」

「後片付けを部下達に任せて、私はグルタンを連れてソルティアを探していたのだ。そしたら、不意に屋上の方で若様と姫様、ソルティアの魔力を感じたから、急ぎ屋上へ来た」

 獣人男性とダークエルフの女性が答え、エルフの営業部長が笑った。

「ふふふ、ルイネリスの魔力感知は探査魔法に匹敵しますからね?」

「当然だ。それが私の最たる特技故に……」

「ごほん! ルリ姉の特技はよく分かったから、そろそろ命彦を放してくれる?」

「そうです、ルイネリス。くっつき過ぎですよ?」

 命彦を抱き締めたままであるダークエルフの女性へ、いつも通りに嫉妬心を湧き上がらせた命絃とミサヤが言うと、ダークエルフの女性は苦笑して答えた。

「おお! これは申し訳ありませぬ姫様、ミサヤ様。しかし若様、そして姫様も、よくぞご無事で。関東の方で、関西でも【逢魔が時】が発生したと聞き及び、居ても立ってもおられませんでした」

「せめてルリの姉御と俺だけでも、関西に戻れねえかって会長達に何度も進言したんだが、会長達は若様達に任せろって言うばかりでよ? 現地の自衛軍や警察から任務も任されちまって、戻るに戻れねえで、こっちは気が気じゃねえって話さ。でも、若達が無事でよかったよ」

「ああ。ルリ姉も、そしてグル小父も、無事に帰って来てくれて、安心したよ」

「ありがとうございます、若様」

「ありがとよ、若」

 命彦が笑って言うと、ダークエルフの女性と獣人の男性も、柔らかい笑顔を浮かべた。


 突然現れた亜人達と命彦達の会話に、すっかり取り残されていた舞子は、同じく取り残されていたメイアに、周囲に聞かれぬよう小声で問うた。

「メイアさん、メイアさん? あの亜人さん達はどちら様ですか? 【精霊本舗】の関係者ということは分かるんですが?」

「ああ、舞子は初対面だったわね? あのダークエルフの女性は、親方やソル姉達と同じく店の最古参の亜人で、結絃さんの懐刀とも言われる経理部の部長、ルイネリス・マルリカ・アテンフェさんよ? 隣のジンロウ族の獣人男性は、異世界資源を集める調達部で〔採集士〕小隊を束ねる部長の、グルタン・ヴァルルーさん。命彦はルリ姉やグル小父って親しげに呼んでるけど、凄い人達だからちゃんと敬意を払うようにね?」

「は、はい! ……具体的にどう凄いか、聞いてもいいですか?」

「そうねえ、2人とも〔採集士〕の学科魔法士資格以外に、他の学科魔法士資格を持ってるわ。ルイネリスさんは〔採集士〕の他に〔武士〕の学科魔法士資格を、グル小父さんは〔採集士〕の他に〔闘士〕の学科魔法士資格を持ってる。どっちも学科位階が6で、相当の腕利きよ? お店でも筆頭格の武闘派ね?」

「命彦さんと同じく学科位階6! 9段階ある位階で上位に付ける、高位の学科位階でおまけに武闘派……」

「ええ。特にルイネリスさんは、外見年齢が30代前半に見えるけど、実際は200歳を超えてるらしくて、実戦経験が異様に多いから、結絃さんも一目置いてるらしいわ。【精霊本舗】の財政管理を行う、経理部を任せてるくらいだもの。信頼も相当ね? 経理部は、代表取締役社長の結絃さんと取締役の魅絃さん、ルイネリスさんと財政管理用の人工知能だけで構成されてて、ルイネリスさんを敵に回すとお給料は減るし、部局の予算まで減らされるから、他の部長達よりも特別に畏怖されてるわ」

「ほえ~……すんごいですね?」

「ええ。ルイネリスさんは結絃さんの秘書的立場で、戦闘力も異様に高いわ。調達部にも頻繁に出入りしてて、結絃さんが欲しいと言った素材を調達するために、単独で迷宮に入ったり、グル小父さん率いる〔採集士〕小隊を動かしたりもしてるのよ。ふふふ、怒らせたら舞子も即減給されるかもね?」

「ふえええ~! そ、それは困ります!」

 涙目の舞子の背後から、声がかけられた。

「そうだぜ~、ルリの姉御はケチでお堅い人だから、新人社員でも容赦しねえんだ。気を付けろよ、嬢ちゃん?」

「グルタン、新人に要らんこと吹き込んでると、毛皮を刈るよ?」

「げげ! そ、そいつは勘弁です、姉御!」

 気付けば、ダークエルフの女性と獣人男性が舞子とメイアのすぐ後ろに立っていた。

「うひゃ! あ、あの、初めまして! う、歌咲舞子です」

「メイア嬢から聞いてたようだが、一応自己紹介しとこう。私は経理部長のルイネリスだ。店の皆には、マルリカ部長と呼ばれてる。グルタン達アホ共には姉御とかも呼ばれてるが、あんたも社員だったらマルリカ部長で通しとくれ、いいね?」

「は、はい!」

「アホってひでえぜ。まあいいや。俺は調達部長のグルタンだ。俺は気さくだから、グル小父さんでいいぜ? メイア嬢達にもそう呼ばれてるしよ?」

「了解です、マルリカ部長、グル小父さん! よろしくお願いします!」

 ピシッと背筋を伸ばして頭を下げる舞子に、フッと頬を緩めたダークエルフの女性が、命彦達の方を見て問うた。

「ところで若様、どうして屋上へいらしたのですか?」

「ああ、そうだった! ソル姉、祖父ちゃん達には俺の方から言っとくから、こっちの用事を先に済ませていいか?」

「ええ、構いませんが?」

「よし。メイア行くぞ」

「やっと開発室に行けるわね?」

 命彦達はその場の全員と共に、開発棟にあるメイアの部屋へと移動した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ