少女を助けるために
あれ?なにも感じない…?熱く…ない?
俺は確かに光線をまるごと食らったはずなのに。
あぁそうか、俺は死んだんだ。だから何も感じないんだ。
てことは、またあの無の空間に……
「お頭ァ!さすがです!これで解決ですねぇ」
「あぁ、全くめんどくせぇガキだったなぁ、おれに究極魔法を使わせるとはよぉ」
え……声?
どういう事だ、死んだ後には聞こえないはずなのに。
あれ、もしかして俺死んでないのか?
俺は手や足を動かしてみるが、特に異常なく動く。
俺は確かにあの時……
「さぁ、あとはこいつを王都まで運ぶだけだな」
そうだ。
こんな事考えるのは後だ。早くあの子を助けなければ。
亜人の話し声に俺は我に返った。
さて、
「お前ら、あれで本当に俺を倒せたと思っているのか?」
なりきるのは得意じゃないが、これが一番効果的だ。
「な!?」
亜人達はまるで幻影を見ているかのような反応だった。
未だに燃え続けている火だるまの中から出てきたのだ、無理もない。
「 て、てめぇ…なぜ生きてる?俺の究極魔法は骨まで焼き尽く…し……ぐえっ!?」
「俺は待つのが好きじゃない…くたばれ」
身体強化中の威力で頭首を殴り飛ばした。
何十メートルも離れた木に激突し、軽く内臓が飛び出ていた。
今こうしてる間にもあの子は怯えているはずだ、早急に助けてやりたい。
「こいつ…!!おらァ!!」
他の亜人共が殴りかかってくる。
「だから遅いって言ってんだろ」
敵の攻撃速度が遅すぎて話にならない。
俺は一人一人確実に殺す為に首をねじり回して引きちぎった。
おまけにこっちの残酷みがある方がある効果を期待できる。
「な、なんなんだこいつ…本当に人間なのか?姿を変えた龍種とかじゃないよな?」
「お、お頭だってやられたんだ!もう勝てっこねぇよ!!」
「死にたくねぇよ!俺は逃げるからな!」
「お、俺も逃げる!」
一人が逃げ始めると生き残っている全員が逃げ出した。
予想通りだな、やはりこういう時は圧倒的な差を見せつけた方がいい。
さすがに全員を相手していたら危なかったかもしれない。
この身体強化の魔法がいつまで続くか分からないからだ。
だんだんカラダ中の燃え盛るような魔力みたいなモノが少しずつ減っているのが分かっていた。
無理もない。
俺は辺りを見回した。
そこには大量の死体と何十本もの木々がなぎ倒され、地面に無数の深い窪みがあった。
「派手にやっちまったなぁ」
人間と亜人の戦いの跡というにはあまりにも異常すぎた。
だから魔力がごっそり抜き取られる訳だ。
威力調整が必要だな、今後の課題にしよう。
と、そんな事を考えている場合じゃない。
あの少女が入ってる馬車は…
「あそこか」
俺はその馬車の荷台に駆け込んだ。
そこには震えながら俺を上目遣いで見る少女がいた。
少女は腰辺りまで伸びている鮮やかな金色の髪に、十歳ほどと予想できる幼い顔立ち…そして恐怖の感情が滲み出ている真紅の瞳が印象的だ。
「だ……れ…?」
「俺は涼我、君を助けに来たんだよ」
怖がられないように俺は笑顔でそう言った。
「う…そ…」
「ん?」
「また…そうやって私を…私を騙すんだ……!」
「……え…?」
気付いたら俺の腹に短剣のようなモノが刺さっていた。
途端に激痛が込み上げてくる。
原因を探るがその必要はない、短剣の柄を掴んでいるのは少女だった。
「どう…して…」
俺は痛みを堪えながら必死に言葉を発した。
「あ…あなたも…私を騙すつもりなんだ、、、そうに決まってる…!!」
「ごぉえッ」
少女が腹に刺さった短剣を抜いた途端、大量の血が喉に込み上げて来た。
その場で我慢できずに吐く。
ゴポゴポと腹の流血も止まらない。
だんだん寒くなってきた。
(あ、これ本気でヤバいかも…)
その場に倒れ込む。
俺は大量の血が流れて行くのをただただ眺めていた。
わずかな微力で少女を見上げる。
自分の血で視界がボヤけていたが、少女の顔ははっきり見えた。
少女の瞳には恐怖と罪悪感に満ちている。
「お……れ…は」
そんな顔をさせたかったんじゃない。
俺はこの子を…
その瞬間、プツリと意識が飛んだ。