身体強化
「お頭ァ、ラッキーでしたねぇ!」
「あぁ、今日は今どき超レアな女の人間手に入ったし、こりゃあ長い間お金に困らなくて済みそおだなぁ」
俺は軽々捕まってしまった。
そりゃそうだ、相手は亜人、パワーが違った。
そのまま俺は亜人に抱えられ馬車まで運ばれた。
「たす…けてよ」
!?
何か聞こえる…女の子の…声…?
泣き声に近いような気もする。とても寂しそうな声だ。
「うぅ…おかぁさん、おとぉさん」
「な!?」
そこには手錠にかけられ、裸にされ、何日もご飯を食べていないとすぐ分かる体型の女の子がいた。
「おっと、こっちは違ぇな。おめェはこっちの馬車だ」
俺は地面に放り投げられ、馬車に乗るように合図された。
だが俺は動かない。
「あ?なんだ人間?早く乗れよ」
「クズ共が」
「あ?」
「幼い女の子に手錠をかけて、なんのつもりだ」
「そりゃあよぉ、今から街へ行って売り払うからに決まってんだろぉ」
売り…払う?今までの亜人達の不可解な発言を思い出す。
そうか。
つまりこいつらはさっきの子や俺らを売り払おうとしているんだな。なんの罪もないのに。
その瞬間、俺は全身が熱くなる感覚を覚えた。
「させると思うか?」
「ごぉえ!?」
俺は腹に殴りを入れていた。
感情が抑えきれなくなったのだ。後悔しても遅い、もうこうなったらやるしかない。
一応格闘技をしていたことがあるし筋トレはよくしていたので少し自信がある。
あまり効いている感じではないので、
もう1発…
「人間がァァァァァァ!!」
亜人は叫びながら大振りの拳を降り下ろしてくる。
「そんな大振りじゃ、当たらない」
俺はかがみながら相手の懐に入り、相手の股間を膝蹴りで制圧した。
「ぐぇ…」
「動きがガバガバだ。お前ら身体能力が高いだけで知能が低いだろ」
ゾワゾワ
後ろから殺気の気配がして斧が俺に向かって振り下ろされていることに気がついた。前方に転がり込む。
間一髪回避出来たが、もう油断は出来ない。
目の前には複数人の亜人。そこにお頭とよばれてた亜人もいる。
「亜人が人間に倒されるなんて、この恥晒しがっ!」
「グァァァァア」
さっき倒した亜人に向かって斧を振り下ろし、悲鳴と共に息絶えた。
軽々仲間を殺す…のか
「この人間を侮るな!全員身体強化の魔法をかけろ!」
魔法!?
ある程度予想はしていたがやはり魔法は存在したのか。
「我が汝の共鳴とともに我が光の根源に写しき力よ。汝、有り余る力を我がものに!身体強化!」
「身体強化!」
「身体強化!」
「身体強化!」
「身体強化!」
一斉に敵全員が魔法を唱えた。
身体強化…?魔法で通常の何倍も身体能力を向上させる魔法というところか。
「売り物にする予定だったがこいつはもう生かしてはおけない。殺せ!」
1人の亜人が殴りかかってくる。
すぐその攻撃を回避しようと試みるが、
「がはっっ」
素早すぎて避けきれなかった。丸ごと当たった拳に耐えきれず体が悲鳴を浴び、後ろの木に激突する。
「ゲホッ……血…か」
なにか喉に溜まっている感じで、無性に咳をしたくなり、吐き出すように咳をしたら大量の血が口から出てきた。錆びた鉄の味が口の中に広がる。
これほど痛いものとはな。
「身体強化…厄介だ」
真似してみるか。
出来る確証はないが俺も試してみようなどと訳の分からない考えが俺を取り囲んだ。
「身体強化」
俺は全身に血を巡らせるような感覚で唱えた。
!?
全身に力が湧いてくる。まだよく分からないが成功したという確証はもてた。
「な、なんだこのオーラ!?」
亜人の1人が叫ぶ。
「あいつから出ているのか…?」
「に、人間が魔法を使えるだと…?」
「おい、しかも今の無詠唱じゃなかったか?」
「無詠唱?無詠唱で魔法が使えるなんて王国騎士の少数人か、上級エルフ様達くらいしか…」
「しかもなんだあの溢れ出るオーラ?あれほんとに身体強化か?身体強化は通常の身体能力の最大3倍までしか上げれないんだぞ?」
ざわざわと亜人達がどよめく。
「なにをビクついている!敵はたかが人間1匹だぞ?俺らが負けるわけなかろう!」
「ですがお頭、このオーラ…」
「黙れぇぇい!俺が今から究極魔法を打つ!お前らは俺の詠唱の時間を稼いでろぉ!」
「光悦なる守護神たちよ、我が尊敬なる神をお呼びたてたまえ・・・」
頭首の亜人は俺の前に立ち、唱え始める。
俺はそれを黙って聞く訳もなく、止めようと試みるが、亜人達が俺を取り囲み殴りかかってくる。
遅い…
びっくりするほど動きがスローモーションに見える。身体強化のおかげだろう。
俺は端から1人ずつ顔に殴りを入れ、そして1人ずつ倒れて行く。
「なんだこいつ、さっきとはまるで別人…グェエ!!」
あと、数人…
「後継なる火炎の支配者アモンよ。汝、神の裁く鉄砕を我がもとに廃滅せよ!ピラーオブフレイム!!」
頭上の空高く、巨大な魔法陣が描かれる。
間に合わなかったか…。
逃げる間もなく炎の光線が俺を貫く。
またあの寂しい空間に戻るのか。
せめて奴隷にされる女の子を助けたい。
あの子に寂しい思いはして欲しくないと、知りも知らない赤の他人なのにそう俺は強く願った。
その時だった。
「称号、【溢れる優しさ】を獲得しました。全属性の耐性が大幅に上昇しました」
!?
どこからか機械のような声が聞こえた。
気のせいだろうか…
そんな事を考えながら俺は光に包まれる、、、
光線は直撃するとともに衝撃波で森が揺らいだ。