死
「あ〜〜寝みぃ…」
登校中の学生達や出勤前の会社員たちで溢れる中、俺はスマホをいじりながら地下鉄のホームでひとり呟いていた。
俺の名前は倉田涼我。16歳の高校2年生だ。
学歴はそこそこで、高校も良い所に通っている。
ちなみに、付き合った経験はないが、告られた経験なら何度かある。
と、そこに
「よっ!なんでそんな眠そーなんだ?今日学年末テストだからって徹夜したのか?」
突然話しかけて来たのは友達の智也だ。
軽い茶髪に第1ボタンをつけてない見た目が少しチャラ男。
一見性格悪いやつに見えるが中身は結構良い奴だ。
「俺が徹夜する訳ねーだろ。学校以外勉強なんてしねーよ」
俺の返答に智也はため息を一息つくと、
「いいよなぁ…。お前は。努力しなくても点数がとれるんだからさぁ」
「点数とれるって言ったって俺らの高校そこまでレベル高くないだろ?」
智也は鼻で笑うと、
「毎回テストは学年一位、全国模試だって上位の成績。俺らのレベルの高校ではこんな人材快挙だぞ?」
「あー。」
たしかに成績は上位かもしれない。
だが俺は勉強とか青春とか部活とかぶっちゃけどうでもいい。
なぜなら…
「てか、結局寝不足の理由はなんなんだ?」
「アニメ漬けしてた」
なぜなら俺はなかなかのオタクだからだ。
腕利きのゲーマーでもある。
どうやら俺はゲームの才能もあったらしく、サバゲーとかは特に得意だ。
「オタクライフもいいけどさ、お前は努力すれば将来大きな権力を持てる可能性があるんだぜ?
もったないとは思わねーのか?」
「権力もいいかもしんないけど俺はもっと肌で感じたいんだよ」
「珍しいよな。お前ってやつは。羨ましいよ…」
そんな話をしているとトンネルの奥から電車の音が聞こえた。
俺はいじっていたスマホをポケットにしまい、すぐに入れる準備をした。
電車が見えてきたとこで俺は大きなあくびをしながら、今日の授業中に寝るとしようなどと考えていると、
「お前が悪いんだ」
後腰あたりに軽い衝撃が走った。
その衝撃により俺はバランスを崩し、、、、
おいおいおい、まじかよ
キィィィィィィィィィィィイイイン!!
電車の音が鳴り響く。
こんな終わり方…あるかよ…。
俺を落とした智也は今どんな顔をしているんだろ。
ああ、そんなのどーでもいいか。
初めて「死」を意識した。
そして…
誰かの女性の悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、倉田涼我はこの世界での幕を下ろした。
あれ…俺どうなったんだっけ…?
何も感じられない。
まるで無の空間に居るようだ。
しばらく俺は思考に時間を費やす。
あ、そうだ。俺死んだんだ。
否、殺されたんだ。
あーあ。俺のグッズ達が…
そんなことを考えていると、俺は今更ながら気づく。
あれ?なんで俺意識があるんだ?
だって俺死んだよな?
………!
もしかして死んだ後って意識残るのか!?
ま、まさか意識があるままずっとこの無の空間に閉じ込められるのか?
そんなのは…酷過ぎる。
どうする?
どうすればいいんだ。
何か方法は無いのか?
これだと永久にこのまま…
嘘だ…。そんなの嫌だ!
考えても、考えても、何も変わらなかった。
俺はついに、考える事をやめてしまった。
何百年の時が過ぎただろうか。
俺の精神状態はこの周りの空間と変わらない無だった。
あ、俺どのくらい経ったんだ?
そういえば、なぜ俺の意識は老化しないんだ。
まぁ、そんなのどうでもいいか。
……死後ってこんなにも寂しいものだったんだな。
どっか……どっか別の世界に転生したいな。
今度は学力とかゲームだけじゃなくて、全てにおいての才能がある状態で転生したい。
ふいに俺はそんな事を思った。
その時だった。
「いっっ!?」
声?
これ、声なのか?
何百年ぶりに聞いた誰かの声。
そんなことより何だこの感じ。
何かの刺激が伝わってくる。
そうだ!
「これは!痛みだ!!」
久しく忘れていたこの感覚。
俺は大声を出した。
「この…声、俺?なのか?」
「こ、声が出てる!声が出てるぞ!!」
てことは…?
視力もあるのか?
しかし、俺はまぶたを開ける時の感覚を忘れていた。
適当に色々な所に力を入れてみる。
「うぁ…眩しいな」
そこには一面の青い空。
そして美味しい匂い。
「五感が…ある?」
だとしたらどういう事だ?
急になぜ五感が戻ってる?
まさかあの転生したいという欲望が叶ったのか?
「いっってぇ」
何かに噛まれたような急激な痛みが全身を襲う。
情報を整理している時間はない。
とりあえず今俺はどういう状況なのかを把握しなければ。
今見えているのは空。
つまり俺は地面に寝転がっている状態。
とりあえず色々な所に力を入れてみる。
「よし。動いた」
視界の場所が変わる。
つまり俺は動いているという訳だ。
「よ……っと」
俺はとりあえず立ち上がってみる。
ここら辺の感覚はなぜかすぐ思い出す。
何百年間も感覚を忘れていたはずなのに。
そして俺は首の辺りに力を入れてみた。
そして辺りを見回してみる。
俺は服を着ているようだ。
なんの服か見覚えがないが、村人が着てそうな服と言ったところだ。
さらに視界を見渡す。
そして見えた光景に俺は驚愕した。
「なっ!?」
俺の視界の先、そこには複数の小さなネズミのような生物達が俺を睨んでいた。
なるほど。
痛みの原因はこいつらか。
「今は俺がどうなったかより、こいつらを倒す方法を考えないとな」
異世界転生だ。
何かとてつもない力を持っているというのがお決まりのはずだ。
試してみよう。
俺は地面に向かって大きく拳を振りかぶった。
ドス。
「え?これだけ?」
もし、地面が砕けて足場がなくなったらどうしようなどと考えていたが、そんな心配は一切いらなかったらしい。
どうしようか。
他にも適当に試してみたが、特に普通の人間と変わる様子はないようだ。
ついにネズミに似ている生物も俺が無力だとわかったらしく、俺の周りを取り囲んだ。
逃げようとも思ったが、追いつかれる可能性が高いだろう。
俺は何か起きることに希望を抱いて、急いで色々所に力を入れてみる。
頭、目、口、耳、鼻、頬、首…そしてお腹辺り。
その瞬間、周りの生物達が一気に叫びを上げ、逃げ回った。
「え…?」
しばらく俺はぽかんと口を開けて呆然としていた。
その時だった。
何か大きな音が近づいてくる。
そして音が止む。
「クゥゥルルルル」
その正体は何台かの馬車だった。
だが馬車を引いているのは馬じゃなくよく分からない、ごついモンスターだ。
「ここら辺からじゃないのか!?膨大な魔力の発生源は!」
よく分からないモンスターに乗っていた1人の男が叫ぶ。
否、人間ではない。
よく見てみると耳や尻尾、たくさんの毛が生えている。
「亜人…なのか?」
俺はボーッと眺めていると
「おい!そこに誰かいるぞ!」
「全軍警戒態勢!」
ゆっくりと亜人達が近づいてくる。
「とりあえず話し合ってみるとするか」
幸い、言葉は聞き取れるし、たぶん俺の言葉も通じるだろう。
「すいません、私は敵意などありません。少し話し合いをしませんか?私も今色々と混乱してて」
「お前、人間か?」
「え、そうですけど」
「はははははは!!」
どっと亜人達が大声で笑い始める。
その光景に俺はさらに混乱する。
「下等種族の人間がぁ、なんでこんな所にいるんだぁ?」
1人の亜人が笑いながら言ってくる。
下等種族?
どういう事だ?
「お頭ぁ、こいつも奴隷として売り払いましょうよ。少しは高値で売れると思いますよ?」
「そうだなぁ、おめェら!とっととその人間を捕まえろぉ!」
「へい!!」
複数の亜人達が襲いかかってくる。
「はぁ…めんどくせぇな」
俺はこの世界で初めて倦怠感を覚えた。