6話目
「ワン、ツー、スリー、フォー!ワン、ツー、スリー、フォー!」
ジークさんの掛け声に合わせ左右にステップを踏む。
よくアイドルのダンス振り付けで見るサイドステップというものだ。
「ヒメミヤ様、少々テンポが遅れておりますよ。」
うっ...最年長補正が早くものしかかる...。
いや、私だってまだ21歳...この程度の動きついていける!
「あ、あれ?あれれ??...うわわっ!」
盛大にしりもちをついてしまったぁ...。
「だ、大丈夫?朱音さん...?」
叶さんが心配そうにこちらへ駆け寄る。
レッスン用に綺麗な黒髪をお団子にまとめて、いつものストレートなロングヘアの時と雰囲気が違い、妙にどきっとしてしまった。
これが美少女というやつか...うっ、まぶしい...。
「...本当に大丈夫?」
「えっ!?あ、や、あっ、だ、だいじょうぶだよ~!」
なんだろう。
考えが勘付かれたのか、2回目の「大丈夫?」は若干ジト目気味だったような...。
「本日はここまでといたしましょう。さ、お夕飯のお時間ですよ。
私は用意をしてまいりますので、皆さまは食堂にてお待ちくださいませ。」
シャリュ女王がピーンときた『アイドルの歌と踊り』をとりあえず真似てみようということになり、
ジークさんによる約3時間のダンス指導を私と叶さん、紅羽ちゃん、つぐちゃんの4人で受けていた。
「いやぁー、けっこう疲れるねぇ、ダンスって!
ひっさびさに体いっぱい動かしたから、紅羽さん張り切っちゃったよ~。」
「張り切りすぎてジークさんから何回もテンポ早いって突っ込まれてたけどね。」
「で、でも元気なのは紅羽ちゃんの、とてもいいところ...。」
紅羽ちゃんに鋭く突っ込む叶さんとフォローするつぐちゃん。
確かに何回か紅羽ちゃんはジークさんに注意されてたな...。
でもあそこまで動けるなんて、元々活発な子だなぁと思ってたけど、期待を裏切らないこの活発さ。
ちょっと茶色がかったショートヘアに引き締まった体。
元の世界だったら間違いなく運動系の部活をやっていたに違いない。
叶さんは普段はクールだけど、一番周りや全体を気にかけてくれている。
指導中もつぐちゃんを心配してあげたり、さっきはジークさんからとは言っていたけど、何回か叶さんからも紅羽ちゃんにテンポの注意してたし。
あと私がこけた時も駆け寄ってくれたし。
すらっと伸びた脚に無駄のないボディライン、まるでモデルみたいに容姿端麗。
これが美少女というやつか...うっ、まぶしい...(2回目)
つぐちゃんは二人に比べ比較的おとなしいタイプだ。
みんなの輪に入るのは苦手だけど一歩引いて見守るような、小柄な体とは正反対な寛大さを感じる。
急に話かけられるとおどおどしてしまったりするけれど、自分の意見はしっかりと話せる子だと思う。
控えめな身長と大きくぱっちりとした目、全体的にふわふわした印象からお人形さんのような印象を受ける。
...そういえばみんなと初めて顔を合わせた時、一番最初に話したのはつぐちゃんだったな。
「朱音さん...つかれちゃった?」
つぐちゃんがふと私の顔を覗き込む。
優しげな彼女の声にダンス指導の疲れも吹き飛ぶというものだ。
「うん、ぜんぜん平気!大丈夫だよ、つぐちゃん。」
私はつぐちゃんににっこりと笑ってみせ元気アピールをする。
つぐちゃんも答えるように、にっこりと微笑み返してくれた。
「あ~。お腹すいたー。早く食堂いこう~?」
「そうだね。シャリュ女王もたぶんひとりで退屈しているだろうし。
...あ。朱音さん。」
「ん?どうしたの、叶さん。」
叶さんは、紅羽ちゃんとつぐちゃんの後ろから少し距離を置いて私を呼ぶ。
なにか秘密話かな...?
「今日の夜、朱音さんの部屋に行ってもいいかな...?
話しておきたいことがあって。」
叶さんが珍しく、しおらしい態度と上目づかいでそう切り出す。
...珍しいと言ってもほんの2、3日程度の仲だけど。
というか、この展開はあれなのか?もしかしてあれなのか??
いやいやでも私達、女の子同士だよ!?
いやでも叶さんレベルの女の子にそんな言われたらもう性別なんてどうでもいいけどね!?
い、いけない、叶さんが返事を待ってる...。
心中穏やかではないが、ここはなるべく冷静を装い返事をしなくては...!
「い、いいい、い、いいよぉ~!?」
いや変態みたいになっとる!返事が下心丸出しみたいになっとるよ!!
落ち着けよ私!!!!
「ふふっ。ありがとう、朱音さん。
...私たちも早く食堂に行こう。紅羽に全部食べられちゃうよ?」
「あ、う、うんっ!」
叶さんの余裕の微笑みに昇天しそうになりつつ私たちも食堂へ向かうのだった。
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食堂にて、ある議論が巻き起こっていた。
「よいか?わしはな、好きなものは先に食べたいのじゃ。わかるか?」
「いーや!紅羽にはわかんないね!好きなものは一番最後だよ!」
「「ぐぬぬぬ...。」」
シャリュ女王VS紅羽ちゃんによる『好きな食べ物、先?後?どっちなの!』対決が繰り広げられていた。
「「つぐはどっち!?」」
そしてつぐちゃんにも火の粉が降り注ぐ...!
「えっ....え、と、つぐは、途中...かな。」
まさかの新勢力を増やしてしまったぁ!!
「途中とはなんじゃ、途中とは!はっきりせんか!!」
「食べてる途中なんかに食べたって食べた気になんかなんないじゃんかー!」
「ふぇぇ...。」
困惑するつぐちゃんに2人による怒涛の猛攻...!
新勢力の出現は、両者ともに許せないようだ!
「じゃ、じゃあ、先...かな。」
「はっはーん!どうじゃ紅羽!だから先だと言うとるじゃろうが!」
「く、くっそー...。こうなったら、朱音さん!好きなものは後だよね?最後だよね?そうだよね??」
私にも火の粉が!!
「あはは...私も実は後派かなぁ。」
そうです、私は後派です!
好きな食べ物を一番最後に食べてしめるのが一番なのです!
「これで引き分けだね~、女王様~??」
「くっ...こしゃくな。...おいカナエ!お主はどっち派じゃ!?」
現在、先派がシャリュ女王とつぐちゃん。後派が紅羽ちゃんと私。
ちょうど2VS2...叶さんの答えが勝敗を決するのか...?
「....先に少し食べて、途中でちょっと食べて、最後に全部食べる。」
「「ぬがぁぁぁぁっ!!」」
叶さんの返答に両派代表たまらず悶絶!!!
「なんなんじゃそれは!カナエは欲張りさんか!?欲張りさんなのか!?」
「あたし達にそんなハッピーエンドはもう残されてないんだよ叶さん!!」
「だ、だって。...好きだから早く食べたいし、でもすぐ無くなっちゃうのは嫌だし、最後は好きなもの食べたいし。」
確信したけど、もし私が男だったら叶さんに完全に落ちてるわ。
いやもうなんなら現時点ですでに9割落ちてるわ。
「この不毛な勝負はカナエ様の勝利ですね。
...皆さま、お食事の用意が出来ましたので、どうぞお召し上がりくださいませ。」
いつの間にか並べられていた豪勢な食事と共に現れたジークさんが勝敗の審判を下す。
これにて『第一次好きな食べ物、先?後?どっちなの!大戦』は終戦を迎えた...。
この後、先派代表のシャリュ女王、後派代表の紅羽ちゃんは、
それぞれの好きな食べ物を先に少し食べ、途中でもちょっと食べ、最後に全部食べた...。
なお、つぐちゃんは自分の本当に好きな『途中に食べる』という食べ方で美味しそうに食べておりましたとさ。
めでたし、めでたし。
この度は「ジョブ:異世界系アイドルで伝説の竜に勝てるのか!?」を読んでいただきありがとうございます。
作者のSonokaと申します。
当作品では感想、評価どんどん受け付けております!
辛辣なものでも構いません!作品の糧にいたします!!
そして、少しでも先が気になりましたらブックマーク等よろしくお願いいたします。
がんばって作品を完成させます!!
~そしてここでキャラ紹介のターン その①~
『姫宮 朱音(ヒメミヤ=アカネ)』
本作の主人公。21歳。一人称は『私』。
元の世界では営業マン(3年目)。
内気な自分を変えるべく高校を卒業したのち、単身上京し就職。
しかし、あまり内気な部分を変えることが出来ず、いわゆるコミュ症をこじらせている。
好きなことは歌うこと、本を読むこと。嫌いなことは怖い取引先と話すこと。
グラングドランに来てからは最年長として頑張ろうと決意するもコミュ症が相まってなかなかうまくいかない。
果たして、彼女は無事に主人公を務められるのだろうか...!
次回は『女王様』をご紹介いたします!!