5話目
午前10時。
グラングドラン城、謁見の間にて。
この城の主であり、グラングドラン国7代目女王であるシャリュオル=ドレッドノーヅ女王。
その傍らに佇むのは侍女のジーク=アルドレイドさん。
そして、玉座の前に並ぶ4人のリバーサー。
私、姫宮 朱音と、三珠 叶さん、桜 紅葉ちゃん、花乃つぐちゃん。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます。」
ジークさんの優しげだけど、どこか緊張感のある声が、広い謁見の間に響く。
「それでは、作戦会議といたしましょう。
まず、私共の世界での『歌』というものは、主に詩人により書き起こされた詩歌をリズムに合わせ読むものとなります。
そこで、せっかくですので、リバーサーの皆様の元いた世界のことも加味した上で歌の特訓をしていきたいと考えております。
皆様の元いた世界でも『歌』はございましたか?」
「そうだね...歌ならたくさんあったよ。たぶんこの世界...グラングドランより歌の種類も多い。」
三珠さんが淡々と答える。
歌か...恥ずかしながら、アイドルソングばかり聞いていたので他の種類、JPOPとかバンド系とかは疎い...。
「てかさ、あたしたちって皆、日本人だよね??
皆はどんな曲を主に聞いてたの?
紅葉はねー、流行のJPOP!!」
ヴッ!!
痛い質問がきてしまった...!
「わ、わたし、は、クラシックを、よく...きいてた。」
つぐちゃんませてるなぁ!!
「そうね...私はけっこう色々聞いてたかな。
特に何が好きだったとかは無いかな。」
「へぇー、なるほどねぇ。朱音さんは??」
紅葉ちゃんの純粋な視線が私を捉える。
恐らく、というか確実にこの中で1番歳上なのは私だ。
アイドルソングなんて言ったら引かれるのでは...。
でも、こんな理由で自分の『好き』をねじ曲げるのはどうかしている。
そんなの、昔の私と同じままだ...。
私は変わらなくちゃ。
ちゃんと、自分の意見を口に出せるようにならなくちゃいけないんだ...!
「わ、私は、けっこうアイドル系の歌を聞いてたかなぁ。」
「ほぇー、朱音さん意外だなぁ〜。でも、紅葉もけっこう聞いてたよ!」
「私も聞く機会は多かったかな。なんだかんだ1番聞いてたかも。」
よかった...皆もけっこう聞いてたんだ...。
三珠さんも聞いてたのは少し意外だったけど、とにかく自分の意見をちゃんと言って正解だったかな...。
「その、アイドル、というものはどんなものなのじゃ??」
聞きなれない単語に興味を示し、碧眼の綺麗な瞳を爛々と輝かせるシャリュ女王が質問する。
「簡単に言うと、歌って踊る、って感じかな...あ、ちょっと部屋に戻ってもいいですか?見せたいものを取ってきます。」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」
そう言い残し三珠さんは謁見の間から出ていく。
見せたいものってなんだろう...。
しばらくして、三珠さんが謁見の間へと帰ってきた。
その手には見慣れた四角い物体...。
「「「ケータイ!!」」」
私、紅葉ちゃん、つぐちゃんの3人が声を合わせて口に出す。
三珠さんが見せたいものとはケータイのことであった。
「もったいないから電源切って保管してたんだけど、たぶん使い道なさそうだし。
これで動画を見せた方が早いかなって思って。」
「三珠さん、こっちの世界に来た時に手ぶら、というか、裸じゃなかったの...?」
「は、裸...!?い、いえ、私は出かけてる途中に転送?されて、荷物を持ったままだったから...。」
し、しまったぁ!
私が裸だったのはお風呂に入っている途中だったからだったのか!!
「あ、あはは!な、なんだぁ、そ、そういうことかぁ〜!」
ううっ、三珠さんの視線が痛いよ...!
「ま、まぁとにかく。ダウンロードしてあるアイドルのライブ映像あるから、これなら電波なくても再生できると思う。
シャリュ女王、ジークさん、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「うむ。...しかし変わった物体じゃのぉ...。これはなんなのじゃ?魔法か??」
「魔法じゃないですよ。科学です。なんて説明したらいいのかな...こう、色々な情報をこれ一つで集めることが出来るというか...。
とりあえずこれでアイドルがどんなものか、お見せ出来ますよ。...再生っと。」
聞きなれたメロディーが流れ出す。
この曲...。
「神崎 輝星ちゃん...。」
私の1番大好きで、憧れのアイドル。
きっとこの人がいなかったら私はまだ自分の殻に閉じこもったままだった。
今だってまだ十分に自分を変えれたとは思えないけど、それでも変わりたいってきっかけを私にくれた、私の中でかけがえのない存在。
「あ、あかね、ちゃん...だいじょうぶ?」
つぐちゃんに言われ、ハッとする。
気づいたら涙が頬を伝っていた。
「あ、あれ?おかしいな...えへへ、ごめんね。1番年長だし、しっかりしなきゃなのにね...ご、ごめんね...。」
「年長だとか、そんなの私は関係ないと思うよ。
急にこんな状況になって不安にならない訳ないと思うから。
この世界で同じ境遇なのは私たちだけなんだから、もっと頼って?」
「み、三珠さん...ごめんね、ありがとう...。」
「ううん、大丈夫。あと、三珠じゃなくて、叶でいいよ、朱音さん。」
「うう、叶さん〜!」
なんだか嬉しくて、すごく嬉しくて。
こんな世界にまできて、やっと初めて、誰かに大丈夫だよって、そのままでいいんだよって、言われるなんて...。
今まで周りから距離を取られていたんだと思っていた。
誰かに近寄ってもらうのをずっと待っていた。
でも。
そうじゃない。
私から近寄れば、少しでも近寄れば、向こうも歩み寄ってくれる。
自分の殻に隠れてたら、誰も見つけられないから、私はここにいるよって、少しでも伝えられたら。
世界はこんなにも、優しくなるんだって、初めて知ったよ...。
「こ、これじゃ...!これしかないのじゃ!!」
私たちが話している間もずっとケータイを見ていたシャリュ女王が口を開く。
「皆の者!!時代は、歌と踊りじゃ!!!!」
この度は「ジョブ:異世界系アイドルで伝説の竜に勝てるのか!?」を読んでいただきありがとうございます。
作者のSonokaと申します。
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