ゆきねえさんのひとりごと
あたしらは《女優》なんだって。
お店の席……「シート」は《舞台》。
ひとときの《癒し》をお客さんに味わってもらうためのお店で、《夢》を売る。
上手も下手も味のうち。
そんなあたしらの仕事は、いわゆる
《風俗嬢》ってやつだ。
この仕事はオモシロイ。
リーマン、土建屋、バイト、教師、ヤクザ、スポーツ選手、公務員、ニート、社長、芸人、etc、エトセトラ。
フツーじゃ縁のないような、様々な職種のいろ〜んなオトコたちとの出逢いがある。
夜のお仕事情報誌でみつけたお店に一日体験入店して、それからずーっとこの仕事をしている。
キッカケは年末にお金がなかったこと。
この仕事をしてるコはみんなそんなモン。
昼間のやっすい給料じゃやってけない理由ありなコばっか。
顔だけが取り柄のダメ男に惚れちまって、財布になってる娘。
リストラされた親と未成年の弟妹の生活費を一人で稼いでる娘。
亡き母のかわりに病気で入院した父親の介護しなきゃなんないのに、兄貴がニートで頼りにならず、懸命に家族を支えてる娘。
お金のかかる夢をかなえるため、昼間学校行きながら高額な学費を夜働いて稼ぐ娘。
ブランド物が好きで、給料の安い昼間の仕事だけじゃ全然足りなくて、夜も働いてる娘。
ダンナが稼ぎ以上に買い物や趣味に金を使う奴で、ローンやらなんやら借金が増えて、返済のために夜の店で働き始めた人妻。
嫁ぎ先で離縁して、頼れる親兄弟も友人知人もない土地で、カラダ張って稼いで子育て頑張る、バツイチ子持ち女。
ホント、いろんなコがいろ〜んな理由でこの仕事してる。でも、そんなの客には関係ない。いわば《舞台裏》は客に見せるモンじゃないから。
《舞台裏》を知りたがる客の《夢》をできるだけ壊さないように、上手に上手に騙してあげる。嘘にホントを織り混ぜて。
お客さんはみんな店にお金を払って、ひとときの《夢》を買いに来る。
ホンモノじゃない、だけどホンモノみたいな、
ひとときだけのぬくもりという《夢》を。
長年連れ添った愛妻を亡くしたおじーさんは、妻のぬくもりを。
単身赴任のおとーさんは、離れて暮らす妻子のぬくもりを。
法が許す18の誕生日を迎えて、いわゆる適齢期になったおにーさんは、まだ見ぬ彼女のぬくもりを。
30過ぎても40過ぎても、なかなか縁がなくて独り身のおにーさんは、いつか出逢う嫁のぬくもりを。
そして、心の奥底では、幼い頃に抱きしめてもらった母のぬくもりを。
みんなみんな、求めてる。
だけど、もう小さな子供じゃないから、母親に甘えて抱きしめてもらうなんて、照れ臭くて恥ずかしくて、できなくて。
でも、ふとさみしくなったとき。
嫌なことツライコトがあったとき。
どーしても我慢できない、ひとりじゃ耐えられない!ってほどのよっぽどのことがあったとき。
人は誰かのぬくもりが欲しくなる。
ひとりぼっちはさみしいから。
ひとりぼっちで冷えた心を、誰かに温めて欲しいから。
誰かの温かいカラダで抱きしめられて、
ひとりぼっちじゃないって教えてほしい。
誰かの温かいカラダを抱きしめて、
ひとりぼっちじゃないって知りたい。
だから「愛する誰か」の身代わりに、私たちが抱きしめてあげるの。
ひとりぼっちでさみしい彼らを、温めて癒してあげる。
それが私たちの仕事。
人はひとりじゃ耐えられないから。
ひとりぼっちじゃ、いつか心が壊れてしまうから。
心が壊れてしまったら、愛するもの大事なものが一つも無くなってしまったら、
人は生きていけないから。
だから、死なないため
生き続けるために、
ホンモノじゃなくても
カンチガイでも
身代りでも
誰かのぬくもりが必要なんだって。