表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

それから数日は熱が下がらず、ぼうっとベッドの中で自問自答をして過ごした。

正直思い出せた事はほとんどなかったし、食事がとにかく不味くてほとんど取れなかったものだからずっと空腹状態。

よく寝てれば治るなんていうけれど、栄養も必要だよね、うん。


どうにかこうにか回復した私が最初にすることにしたのはマナーの勉強だった。

よくわからないけどやたらとこの夢は長いのである。

ちょっと変わったゲームだと思って日々鍛錬あるのみ、というか、このままだと正直浮いちゃってしんどいってのがある。

いじめられっこ人生だったものだから、人と違う事が怖いんですよ…

だからこれは自分を守るため。


本でも読めばいいかな、幸いにして字は読めるし、と思っていたのだけれど

この夢を見てから最初に出会ったあの玉ねぎ頭の女性、やっぱりというかなんというか、教育係みたいなものだったらしくて、お勉強の時間です。って部屋にきたから丁度いいやとマナーの勉強がしたいのだけれど…としおらしくいってみたら、アンみたいにびっくりした顔して、ぱぁっと破顔。


あらやだ可愛い。


「お嬢様もやっっっっっっっとお勉強の大切さを理解してくださったのですね!」

ってめちゃくちゃご機嫌にいってくれたんだけど。


「マナーも大事ですが、まずはこの国の歴史から。前回のおさらいを…」

サラッと流されたよね。

おさらいも何も、なんにもわかってないしね。


だからもう、正直お手上げ。

参考書何ページを~なんて言われて、あのでっかい執務机に座らされたものの、羽ペンの使い方がまずわからない。

何を準備したらいいかもわからないもんだから、されるがまま、用意された分厚い本を開いてどうにか指定のページを開いて・・・、その字の小ささにびっくりしたよね…

えっ?ナニコレ???文字小さすぎない?びっしりすぎない??

挿絵は??えっ…この子まだ小さいよね?子供の教科書ってもっとこう文字が大きくて絵がいっぱいあるもんじゃないの?貴族だから??えぇー…。


「で、あるからして…。ここまでで何か質問はありますか?」


あまりの事に呆然としていたんだけど、玉ねぎさんは授業をしていたらしい。

まったく聞いてませんでした。が、それ以前なんですよね…。


「はい。」


スッと右手を挙げる。これも作法的にはどうなのかはわからないけど、どうぞ。と玉ねぎさんが普通に返してくれたから多分大丈夫?


「大変申し訳ないのですが、まったく理解できません。…というのも私どうやら記憶がないようで、この国の事も、自分の事も殆どわかっていないのです。」


席を立ち、まっすぐに玉ねぎさんに告げる。

理解できない。ってところで、は?って軽く切れてらっしゃるようだったけれど、最後まで言い切った私にそれをぶつける事は無く、じぃっと眇めた目で見つめられ、それから掌で熱を測られました。

あぁ、まだ熱があるのかな?って事かな。やっぱりこの人可愛いな。

何ふざけた事いってるんですかって切れられるか思ったのに。


「熱は…無いですね。」

「はい。体調は悪くありません。」


少し困惑してる感じの玉ねぎさんに私ははっきりと言葉を続ける。

小さな声で、確かにここ数日…、まさか、でも…と何やらごにょごにょ繰り返したのち、頭を軽く振って私を真っすぐに見つめ。


「貴方のお名前は?」

「リュゼ・パーガトリです。日記を見て思い出しました。」

「お父様のお名前は?」

「わかりません。」

「お母さまは?」

「わかりません。」

「この国の名前は?」

「わかりません。」

「…では私の名前は?」

「………ごめんなさい、わかりません。」


暫しの問答の後、玉ねぎさんは何度か、そんな馬鹿な、あり得ない。とまたブツブツ呟いてから大きなため息を吐いて、キリッとした顔をこちらに向け


「協会に行きましょう。」

「え」


「協会に仕える神官様方に見ていただければきっと原因がわかる筈です。」


神官、とは……?

えっ、突然出てくるねファンタジー要素。

記憶無くしたら協会いくの?えっなにそれドラ〇エ??

おお勇者よ、どうして死んでしまったんだ。って????

はい?いや、そういうの好きですけど?でもいきなりだね?医者とかいないの??


「直ぐに面会の手続きをしてまいります。直ぐにお会いはできないでしょうから、それまでは…」

「はい!マナーの勉強がしたいです。」

「…ではこちらの本を読んでお待ちください。」


失礼いたします。そう言い捨てて玉ねぎさんはササーッと出て行ってしまった。

残されたのは新しく出してくれた分厚い本のみ。


多分マナーの本なんだろう。

ありがたく読ませてもらうけど、さっきの質疑応答の答え教えて貰ってないんだよね。

玉ねぎさん名前何て言うんだろう?後で教えてくれるかな。


まぁとりあえずこの分厚いの読みますか。

むん、と気合を入れなおし本に手をかける。



そうして手に入れたマナー知識だけれども…。

テーブルマナーはたぶん基本は一緒。

ナプキンの使い方だとか、フィンガーボールだとか。

カトラリーは基本的に外側からだとか。

ナイフとフォークの持ち方に、フォークでさせないものは背にのせるだとか…。

うーん、正直テーブルマナーの授業したのかなり昔だからうろ覚えな所も多い。

日本は箸の国だしねぇ。ちゃんとしたお店でもない限り中々テーブルマナーなんて気にしない。

ちなみにスープの飲み方は逆でした。ヒェッ

手前から奥かー。音を立てるのはやっぱり駄目で、熱いからって息を吹きかけるのも駄目。

食事の挨拶は特に無し…。うーん、違和感。

でも基本はたぶん大丈夫?なのかな??

なんか中世あたり?騎士とか貴族とかそういう時代のイギリスっぽいようなフランスっぽいような。

日本人の憧れの詰まった、ご都合主義な世界って感じ。ありがたいけど。まぁ夢だし。

私にそんな知識ないから、なんとなくだったり、記憶の奥底にある昔習ったマナーだったりの塊なんだろうな、多分。



お風呂とかトイレとか、そういうのも猫足のバスタブだったり凄く広かったりと素敵だったけど、普通に現代な感じだったし。電気と水道は少なくともあるんだろう。ガスはまだわからないかなぁ。

どうやって発電してるのかだとか仕組みわからないし。これから先それを知る機会があるかもわからない。

マナーの本をとりあえずペラペラと眺めつつ、玉ねぎさん遅いなぁ。と時計を眺める。

そうそう、時計もあるんだよね。アナログの奴。時計っていつの時代からあったんだっけ?

時計の見方が多分同じなのもありがたい。玉ねぎさんが出て行ってから2時間は経っている筈。

正直ちょっと集中力が切れてきている。昨日までずっと寝込んでたからお庭にも出れていない。

今日は久しぶりにとアンがお仕度してくれて、何だかとってもかわいいドレスを着せてもらっているし、外に出てもいいだろうか。


ちらりと見た窓の外は、快晴で、ぽかぽかと暖かそうで。


…いいよね?ちょっとくらい。


よし。出よう。


読みかけの本に、適当にその辺にあった栞っぽいものを挟んで立ちあがる。

戻ってこないうちに、と足早に扉まで移動していざゆかん、とドアノブを握った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ