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目を覚ましても、そこはまだ夢の中だった。
…長い夢だなぁ。
泣きすぎたせいでなんだか少し熱っぽい。というか、小さな子供ってすぐに熱を出すんだよね。
だからこれ、多分泣きすぎたせいで発熱してます、はい。
でもまぁ、長い夢も痛い夢も、結構あるものだ。
リアルな夢を昔からよく見てたし、不思議ではない、筈。
なんだけど、なんだかやっぱりちょっと普段とは勝手が違う気もするのも事実。
だって、こんなにも夢だと自覚している夢があっただろうか?
自覚している割にはなんだかままならないことばかりだし。
だって、私は誰?からだよ??
どこの記憶喪失…いや、頭打ってたしな、記憶喪失設定か…これはまた微妙なのきたなぁ。
せっかくのファンタジー世界なんだから、もっとこう、ラブロマンス的な?のとか。
魔法とか、魔獣とか。いろいろあるでしょ、って話で…
「はぁ…」
吐いた息もなんだか熱っぽい。
額がひんやりするから、誰かが様子を見に来て、濡れタオルを載せてくれたみたいだけれど…
ありがたいけど、うぅぅん。
せっかくの夢の世界なのに、私は何もできていない。
何でもできるはずなのに、ほとんどぼーっと寝てばかり。
目の前には楽しそうなものが沢山あるのに。
熱のせいか今はどうにも体がだるくて何もできそうにない。
そういえば私昨日から全然食べてないんだよなぁ。
さすがにちょっとお腹空いた気もするし、何か欲しい。
でもちょっと喉が痛いし…アイス食べたい。
申し訳ないけどこの、ベル鳴らしてメイドさん呼ぶしかないかなぁ。
ほら、すっごくお嬢様っぽいじゃない?
今の私は正真正銘のお嬢様な訳だけれど。まぁ、夢ですけど。
よっしゃやってやんよ。
だるい腕をどうにかあげて、どうにかベルを手に取りゆっくり鳴らす。
チリン
お、いい音。昨日は気づけなかったけどこれは結構いい素材つかってるのかな?
100均とかで聞くのとなんか違う気がする。ははー、さすがは大臣様のお嬢様ですなぁ!!
くそサイテーおやじだけど!!!!!
「お呼びでしょうか」
鳴らして本当にすぐ。
もしかしてドアの外にでも控えてたのかな?って速さでメイドさんが現れる。
っていうか、あれ?この人
「おはようございます、あの、お腹が空いてしまって…」
もしかしなくても、昨日のメイドさん、だよね?
でも、あれ??なんか、モブ顔から成長してない??
いや、美形とはいえないんだけどなんかこう、目鼻立ちがしっかりしたというか…
そもそもの私は我儘お嬢様。
昨日まぁ散々泣きつかれたわけだけど、やっぱり元を知ってるわけだし、ちょっと慣れないのか、目をハチハチと瞬かせてからメイドさんはにっこりと微笑んだ。
「おはようございます。すぐに何かご用意しますね」
そう言って、そばに置いてあった水の入った盥を手に取り部屋を出ていく姿を見送る。
・・・・・やっぱりなんか変わってない?
見た目もそうだけど、声もなんか、こう、豪華になったみたいな。
凄い有名声優じゃないんだけど、なんかよく聞く声だよねー、みたいな。
っていうか、うん、あれ???
コンコン、という音と共に戻ってきたメイドさんは、ホテルでよく見るあのカート?ガラガラを引いていた。
ベッドの上に小さなテーブルを載せて、そこに並べられていくのは、よくわからない匂いのスープとカットフルーツ。
見たことがある気もするけど、日本のもの…いや、地球のものとはちょっと違うような??
体を起こされて、首周りにナプキンをかけられる。
「…いただきます」
ここの作法とかわからないし、とりあえずいつも通りに言ってみたけど、やっぱりおかしいのかメイドさんはきょとんとしてる。
あ゛ーーー、この夢長いのならやっぱそういう作法とか学んだほうがいいんだろうなぁ。
まぁ今は熱でちょっと錯乱してますよ。で済ませるからいいとして。
右手に銀の、これまたお高そうなスプーンをもってこの謎スープからいただく。
確か大昔に受けたマナー講座だと、奥から手前にスプーンを動かして、それで音がでないように…
ズズッ
「・・・・・・。」
・・・まっず。
音が鳴ったとか、マナー間違ってるかもとかどうでもいい。
なんだこれ。
まっず!!!!!
えっ?何はいってんのこれ??
苦いの?甘いの?すっぱいの????
匂いもわけがわからない。するんだかしないんだか??
牛乳っぽい気もするし、なんか魚っぽいような気もするし…
気持ち悪い…やばい、吐きそうかも。
なにこれ、もしかして嫌がらせ?ってレベルなんだけど、でもなぁ…
この国の飯事情がわからないから…うぅん。
食材には申し訳ないけど、ごめんなさいしてスプーンを置く。
フルーツもたぶんフォークとナイフとかいっちゃうんだろうけどそんなん知らんわ。と手でいきますよ手で。
見た目はかわいらしくカットされたフルーツ。
うん、まさかこれは大丈夫でしょう。
…うん、まぁおおむね一緒。
まずくなはいんだけど、何だろう。
やっぱり何かおかしい味。知らない味。だけどまぁおいしいのもあるし。
イチゴかな?桃かな??っていうね。
でもやっぱりアイス食べたいな。
「…あの」
「はい」
醜態を見せてきたとはいえど、やっぱり知らない人だしね。
いや、本当は知ってるんだろうけど今の私は知らない、し。
「アイスクリームとか、ありますか?えっと、なければシャーベットとか…」
「ございますよ。少々お待ちください」
おっ、あるのか。やったね!!
すみません。と日本人の習性で謝ればやっぱりちょっときょとんとして、それでも笑ってくれる。
あー、この人可愛いなぁ。
本当に不思議。
昨日とは全然違う気がするのに、一緒で。
名前なんてわからないはずだったのに、今はなんとなくわかる気がする。
設定が増えてくのかな?夢あるあるかしら。
戻ってきたメイドさんがくれたアイスは、これまた豪華な器に入って、ひんやり冷たかったけど。
…アイスにも、まずいってあるんだなぁ…。と私は知ったわけで。
いや、好き嫌いは割とあるんだけど。そうじゃないんだよなぁ。
バニラアイスは嫌いじゃないんだけど、なんでか口当たりがなんか・・・?
味もなんかこう・・・?もしかしてこの国食糧事情がよろしくないのかな?
砂糖とかあんまり手に入らない系?まぁそれなら仕方ないのかな?っていう、味。
それでもスープよりは全然ましなので、ぺろりと平らげてごちそうさまでしたをして。
ナプキンを外せば、まぁたぶん伝わるだろうとちらりと見れば理解してくれたらしい。
ささっと食器とテーブルを片付けて、そうして私をまたベッドに戻して額にはひんやりしたタオルを置いてくれる。おっかなびっくりの手つきはまぁ日ごろの行いなんだろう。
「…昨日はごめんなさい。」
照れくさくなってきて、そうっと布団を口元まで引き上げる。
リアルな自分がやっても気持ち悪いだけだけど、夢の私はきつめ美少女!まぁ許容範囲でしょ。
私の声にメイドさんは一瞬ビクッとしたけれど、でも私の言った言葉を理解してやっぱりふんわり笑う。
優しい顔。
「いいえ、大丈夫ですよ。ゆっくりお休みになってください」
恐る恐る頭をなでてくれる手がうれしくて、すり寄れば、やっぱり驚きながらも笑ってくれる。
「ありがとう、アン」
「!!…いいえ、いいえ、お嬢様」
そう、思い出したのか、付け加えられたのかわからない。
でも、このメイドさんの名前”アンミラなんとか”あぁこのなんとかは私がいまいち理解できてないところだから名前じゃないんだけどね。長い横文字とかほんといきなり頭に出てきてもそもそもがこの私が理解する気がないっていうか、覚えるつもりがなかったんだろうなってかんじに思い出せないんだよね。
そんなわけで、申し訳ないんだけど愛称みたいになっちゃいましたごめんなさい。
こんなのに対しても嬉しそうに笑ってくれちゃってて本当にすみませんありがとうございます。
アンめっちゃ優しい。こんな人になりたかった…この子は嫁にいくの早いぞーってかんじ。
きっとまだ20代…いや、もしかしたら10代後半くらいかもしれないのにめちゃくちゃ人間できてる…
ぺこりと頭を下げて退室したのを見届けてから、目を閉じてなんとなくこの世界について思いをはせる。
もしかしたら、思い出そうとすればいろいろわかるんじゃないかな、ってね?
この世界は、せめてこの国?土地?は何て名前なのか。
何があるのか、あの食事は普通なのか。
目をつむって自問自答である。
現実だったら考えすぎて眠れなくなるところだけど、小さな体は考えすぎると熱をだして、体がついていけずに眠気がくるらしい。
真っ白になっていく頭にあらがえず、また眠りに落ちた。