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「ご、ごめんなさい」


反射的に謝り、声のする方向へと顔を上げる。

昔の貴族がつけるような片眼鏡に、なんていうのかな、玉ねぎ頭?

紫色の髪の毛を玉ねぎみたいにこうぽよんってして上に小さくお団子。

鏡餅みたいな感じにした、妙齢の女性。

うーん、外国の方って年齢わからないんだよな。

30代…いや、もしかしたら20代??

いじわるな家庭教師、っていう絵に描いたそのままのような怖い顔した女性がそこにいた。


「…いいでしょう。いえ、まったくよくありませんけれど。

 病み上がりなのですからベッドにお戻りください。」


謝罪の言葉に一瞬目を丸くして、それから深いため息をついて、その人は私の腕から手を放して頭を下げた。

病み上がり、の言葉に、そういう設定だったのか。でも私全然体調悪くないんだけどなぁ、あ、でも起きたときはなんか頭痛かった。なんて思いながらもベッドのあったであろう方向へ進もうとしたが、そちらではありません。とすぐにまだ腕をつかまれてしまった。

うん、方向音痴なんですよ。ましてや初めての場所ですしね?




ベッドに寝かされ、御用がありましたらそちらのベルを、何てベッドサイドのベルをさされる。

おぉ…これまた憧れアイテム。

豪華な部屋に、広い庭。

たぶんこの人は使用人かなにかなんだろう、お嬢様とかいってたし。


さっさと下がってしまったけれど、正直私は全然眠くないし。

体調も悪くない。

そうなると暇で仕方ない。あぁ、そういえば夢なのに痛かった。

起きたら私腕に青あざできてるんじゃないかな、と思うと少しおかしかったけど、それでもやっぱり一人じゃつまらない。


せめて何か面白いものないかなぁ・・・と見える範囲で探して。

そうして、このサイズの子供にしては大きな、執務室?とかで見るような机と椅子、それから本棚が目に入った。

うん、これはこの世界を知るチャンスだろう。

さっき来たんだからもうしばらくはこないだろうなんて勝手に推測してそろそろベッドを抜け出す。

立派な机にはいくつか引き出しがあって、一番上は鍵がついていてあかなかった。

どうなってんのよ、夢の私~!と少しばかりムッとしていたら、何だかふっと思い浮かぶものがあった。



そうだ、鍵はサイドチェストだ。


夢といえど私だものね。思い出すこともある。

わくわくしながらサイドチェストからアンティークな鍵を取り出して、鍵のついた引き出しを開く。


「おぉ…日記とか…」

出てきた分厚い本。

そぅっと開けばまぁ1ページ目から強烈である。

きったない絵でハートとか花とかかきなぐって真ん中には、”リュゼの日記帳”ときたもんだ。

子供らしいっちゃ子供らしい。けど、うん。三十路にはアイタタタタターですよ。

こいつぁ黒歴史!まぁでも私であって私じゃないからね!見よう。


っていうか、あれだね。私リュゼっていうのかー、へー。なんかどっかで聞いた名前。


そう思いながら、ぺらりとめくる。

〇月×日

お母さまが亡くなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいったたたたたたた!!!!!

なんだこれ、いきなりディープだな!!

きっつい、うそでしょ!?えっ、何?この子母親いないの??????

えぇー、うそやん…?ちょっとびっくりしすぎて日記閉じちゃったよ…


いやいやこれは見られちゃまずいわ、ベッドに戻りましょうそうしましょう。

うんうん。と自分に相槌をうって、日記をかかえてベッドに戻る。

そうしてこっそり読み進めた事にはなんというか……


『お父様が帰ってこない』

『捨てられた、何て嘘よ。』

『あいじん?なによそれ、うそ』


あああああああああ…。うわぁあ…。

しかもページをめくるごとに回想入るんですよ勘弁してくださいよこの子めっちゃ不憫じゃないですかヤダー!!!!


もうね、思い出しちゃったよね。

夢の中の私の名前は”リュゼ・パーガトリ”

いいとこのお嬢様だろうなーとは思ってたんだけど、侯爵家のお嬢様だったのね。

侯爵様がどんなもんか知らんけど。うん。いやほら、ゲームとかすきだけど階級とかわからんし。

なんとなーく、偉そう。みたいな、ね?

んで、ここがまた…お母さんのほうが、いい家柄らしいんだよねー、亡くなってるけど。

政略結婚?的な?愛はなかったのか、そもそもあんまり家に帰ってこなかったみたいなんだけど

更にそれが悪化してるっぽくてだなー。両親が喧嘩してる姿もたびたび目撃してるっぽいしなぁ。

もともと実力があったんだろうけど、おうちの力もあって現大臣がこの子のお父様みたいだしまぁ、忙しいだろうけどさー。使用人も隠せよー。

明らかに冷遇されてんじゃんこの子…。

いや、大分こじれて、いやいやでも子供だしなぁ。

聞きたくないことを嘘だと断言して、父親がいないのをいいことに使用人首にしてるしなぁ…


お母さん、亡くなってるのかぁ…

頼るべき父親は帰ってこない、そもそもきつい人だったというかわがままだったんだろうなぁ

母親共々この子はどうやら使用人から嫌われてる。


しかも、だ。

回想から得た感じだと、喧嘩の内容とか噂話、これ。


とうちゃん浮気してますわ。




つか、子供作ってますわ。


くっそサイテーじゃねぇか!!愛がなくても結婚した以上ちゃんとむきあわんかい!

好きな人がいるにしたってセーフセックス!大事!!こちとら処女だけどなぁ!!気本やで!!


はー、なんかむかむかしてきた。

…嫌な夢。


しかもなー、この、頭なんだけど。

階段から、落ちたらしいんですよね。


どこぞのパーティで。



大臣様ですからねーお父様が。

そらパーティとかもいくわ、で、うん、そこに、王子様がいたわけですよ。

絵にかいたような王子様。

ちょっと大人びた優等生タイプの金髪青い目正統派王子っていう、もうねー凄いお人形さん。

お伽話だわあれは。


小さくても女性を虜にする魔性系な感じでね、例にもれずこの子もぽーっとなっちゃうのよ。

そんで、大臣の娘じゃろ??そりゃ、挨拶するやろ???

他の子よりもちょっと特別扱いされて、ふんぞり返るやろ?



…突き飛ばされましたよね?



うん、びっくり。突き落とした手は覚えてるんだけど顔はわかんないな。

大人の、女性の手だった。

まぁ、邪魔ですよね。わからんでもないけど、でも子供に怪我させるとかやっぱわからんですわ。

わかりたくもない。


そこから記憶がないから、そういうことなんでしょうねぇ。

しかしだよ。自分の!娘が!階段から落ちて怪我してるっちゅーに会いにこねぇ父親はどういうこった!

まったくもう!ありえません!ありえない!!


むんず、とベルを掴み小さく鳴らす。


そうすると暫くして、今度はなんかちょっとおとなしそう?おどおどした感じのメイドさんが来た。

顔がぼんやりしてる。これは…モブ顔!!


「ど、どうなさいました?お嬢様」


普段この子わがままお嬢様だからねー。苦労してますねー、ごめんねー。

と内心謝るけど、まぁ口には出せませんよ。


「…お父様は?」

「旦那様はお仕事で…」


「どうして会いに来てくれないの?」


一つここで泣いてやろうと思った。

うん、ウソ泣きのつもりだったんだけど、なんか体にひっぱられたのかな?

本当に悲しくなってきて、弱々しい声が出たし、本当に涙が出た。


ひゅっと息をのむ音が聞こえて、メイドさんがびっくりしてるのがわかる。

普段どんなに我儘なクソガキでも子供なんですよ。その辺わかってくれると嬉しい。


「お父様は、リュゼが、嫌い、なの…?」


だから、帰ってこないの?

会いに来てくれないの?


私なんかいらないの?


ひっくひっく、しゃくりあげながら必死に言葉を紡ぐ。

あーー、他人事ながら胸が痛い。なんだよもーっ!こら!くそおやじ!大臣だかなんだか知らんけど

自分の家族も大事にできないような男が政治にかかわるとかふざけんなっつーの!!!!


「お嬢様…」


普段からは考えられない行動にメイドさんは戸惑いながらも、そうっと頭をなでてくれた。

おっかなびっくりの、けど優しい手で。


「そんなことはありませんよ、旦那様だって心配しておられます」

「…でも……」


「お忙しい方ですから、会いにはこられないかもしれません。ですが、ちゃんとお父様はあなたを愛しておりますよ」


大丈夫大丈夫。だから安心しておやすみください。

そういいながらやさしい手が頭をゆっくりゆっくりなでる。


それがとても気持ちいい。

うぁー、いい人。モブ顔だけど凄くいいひとじゃんこの人。

ぽろぽろ涙はこぼれて止まらないけど、でも、瞼が重くて目を閉じる。

大丈夫。そう言ってくれる暖かい声を聴きながら、夢の中だっていうのに私はゆっくりと意識を落とした。


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