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非科学的潜在力女子  作者: ゆずさくら
非科学的潜在力女子
8/42

(8)

 困惑する亜夢の肩を叩き、振り向かせ、両肩に手をかけエレベータの方へ押しはじめた。

「……」

 亜夢は洗濯場を振り返りならがらも、押されるがままにエレベータに向かった。

 亜夢は準備を終えると、清川に連れられて加山と中谷の待つ会議室へ行った。

 加山から、今日調査する場所と方法について語られた。

「……ということで、この地区を捜査する。乱橋くんがもし映像の人物を特定した場合は、一人で追いかけたりしないように。必ず私か中谷に言うんだ」

「清川さんは?」

「むろん、清川巡査に言ってもらっても構わん。とにかく乱橋くんの単独行動は厳禁だ」

 亜夢は「はい」と言ってうなずく。

「では出発だ」

 四人が立ち上がると、亜夢の正面にいた中谷が話しかけた。

「昨日は寝れた?」

「はい。このキャンセラーのおかげです。これ、どっかで売ってないんですか?」

 中谷が何か話だそうとしたところを、加山が手で口を抑えた。

「乱橋くん。悪いが、このキャンセラーについては他言無用だ。捜査協力が終わったら、中谷の方で預からせてもらう」

 亜夢は清川にたずねる。

「(他言無用ってなんですか?)」

「絶対、言っちゃダメってこと」

「なるほど」

 四人は警察署の裏手の駐車場に移動し、一台のパトカーに乗り込んだ。

 清川巡査が運転し、亜夢は後ろの真ん中に、両脇に加山と中谷が座った。

 亜夢はあることに気がついた。横に並ぶ車のドライバー、乗客がこちらをチラチラみてくるのだ。

「加山刑事、何故皆こちらを見るんでしょう」

「警察車両が珍しいんだろう。気にするな」

「……」

 中谷の口元が動いたが、何も言わなかった。振り返ると加山が中谷をにらんでいた。

「とにかく気にするな。すぐに慣れる」

 車が大通りを外れて路地に入ると、加山が言った。

「そこらへんでいったん下ろせ。ここらだと、あのお寺さんに言ってとめさせてもらえ」

「わかりました」

 清川が返事をする。

「さあ、降りて」

 亜夢は周りをみながらパトカーを降りた。

 高層ビルとはいかないが、路地側にもビルが並んでいるオフィス街だった。

 車が走っていた表通りとは違い、人影もまばらだった。

 加山について歩くと、路上の隅でタバコを吸っている男たちがいた。

「あ、あの、こっち睨んでます……」

「気にするな。パトカーから降りると目立つから見ているだけだ。お前、ヒカジョじゃ喧嘩の女王らしいじゃないか。何ビビってんだ」

「ビビってません」

 ムッとした顔つきになり、加山の前をすたすた歩き始めた。

「そっちじゃない」

 加山に言われて道を戻り、またその後ろをついてあるいた。

 そのまま裏通りを歩いていると、見たことがある風景が目に入ってきた。

「あっ、ここ」

 亜夢の声に、加山が答える。

「そうだ、昨日の映像の場所だ」

 しばらく歩くと、道を撮っている防犯カメラも見えた。

「なんとなく焦げ跡がありますね」

「カメラは交換してつけなおしているんだが、周りまではきれいにならなかったようだな」

 亜夢は映像の中心に映っていた人物が立っていた場所に進む。

「ここから……」

 カメラの側を振り向く。

「ということは」

 そう言って、カメラの向こうを見ている。

「何か見えるの?」

 中谷が亜夢の後ろに回る。

「遅くなりました」

 清川巡査がやってきて、加山に頭を下げる。

「寺の住職には言ったか?」

「はい」

 加山はその場で真上を見上げる。

 亜夢が見ていると思われるところを見つめるが、何があるのかわからない。

「何を見ているのか、言ってくれるか?」

「……」

 亜夢は何も答えない。

 場の全員が亜夢の答えを待っていた。

「捜査の協力をしてもらうために来てもらったんだが」

「まだぼんやりしたイメージだけなので。すみません」

 亜夢は両手を前で重ねて頭を下げる。

 加山の目尻が少し上がった。

「この新しいカメラにしてからの映像は見れますか?」

「中谷。頼む」

 加山は中谷の肩をポンと叩き、内ポケットからタバコの箱を取り出しながら路地の後ろへ消えた。

「お願いすれば見せてくれるはずだよ。行こう」

「加山さんは?」

「……」

 中谷は何も答えなかった。

 かわりに清川が亜夢の手を引いた。

「亜夢ちゃん、ちょっと」

 少し中谷と距離を取ると、

「あなたがさっきのことに答えないから、加山さんがすこしイライラしてるみたい」

「そうでしたか」

 亜夢は首を小さくうなずいた。

 中谷がビルの裏口から入り、警備室の人と話をしている。

 すぐに話しがついたようで、中谷が手招きした。

 小さな部屋に幾つかのモニターが並んでいた。

「椅子が足りなくてすみません」

 警備員は済まなそうに言った。

「いつぐらいの映像をごらんになりますか?」

 中谷は部屋のカレンダーをみて言った。

「新しいカメラつけたのはいつでしたっけ?」

「事件の二日後です」

「ここか」

 中谷はカレンダーの日付を抑え、亜夢の方を見た。

「じゃあ、そこから六倍ぐらいで」

「六倍?」

 警備員はリモコンを見ながらボタンを押すと、映像の再生が始まった。

 そもそも秒なんコマも撮っていない映像が、六倍で再生されると、何が映っているのかはっきり認識が出来なかった。

 朝夕や、天候の変化で、急に明るい画像になったり、暗くなったりするのがかろうじて分かる程度。

 亜夢はそれをじっと見ている。

「止めてください」

 慌てて警備員がリモコンを操作する。

「すみません、リモコン借りてもいいですか?」

「いいですよ。操作わかりますか?」

「わかりません。時刻の指定のしかただけ教えてください」

 亜夢はリモコンを受け取り、言われたとおりに操作しながら、時刻を打ち込んだ。

「ちょっとここをみてください」

 映像が再生される。

 中央に、昨日タブレットで見たような位置に人物が歩いてくる。

 中谷が気がついたように声を上げる。

「あ、こいつ、昨日の……」

「え、何なんですか?」

「清川巡査は見ていなかったか」

「ほら、カメラに気づいたようにうつむいて」

「事件の後も、ここにくる、ということか?」

 中谷は亜夢からリモコンを取って、画像をもう一度再生した。

「顔が、良く、映ってないな」

 亜夢は、後ろで見ていた警備員に話掛けた。

「あの、警備の方ですよね?」

 警備員は姿勢を正した。

「あの人、見かけたことないですか?」

 警備員は落胆したような顔になり、首をふった。

「何度か警察の人にも聞かれているんだけどな」

「そうでしたか。すみませんでした」

「何度かきている、ってなれば、話は別、ってことはないですか?」

「うーん、けどこの映像じゃあわからないね。この時間帯だとビルの中の巡回とかしているからな」

 亜夢は唇を指で触りながら、何か考えている風だった。

 清川が、中谷に話しかけた。

「これ以外の角度のカメラないんですかね」

「どうだろう。たしかこっちはこのカメラだけだったような」

「なら、仕掛けるか」

 清川と中谷が一斉に振り返り、言った。

「加山さん!」

「中谷、同じ場所の低い位置にモバイルカメラを設置しろ」

 亜夢は立ち上がる中谷を止めた。

「またここを通るかは疑問です」

「乱橋君、何故そんなことを言う」

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