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非科学的潜在力女子  作者: ゆずさくら
非科学的潜在力女子

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39/42

(39)

 清川が叫ぶ。

「中谷さんが犠牲になってくれるそうです。すみませんが、合図をするので背中を押しながら立ち上がりましょう」

「おお」

「あい」

 亜夢は中谷と清川の状態を確認して、合図を始めた。

「行きますよ、せぇーの、はい!」

 背中をぶつけあい、よろよろと三人は立ち上がった。

「じゃあ、中谷さん、思い切りひぱって引きちぎります。力を入れて耐えてください」

「ああ」

「せぇーの!」

 手錠の金属が触れる部分を硬質化させる。一瞬、鋭角にとがった亜夢の腕が、金属を裂き、輪を砕いた。

「やった」

「まさかそこまでやるとはね」

 フェイスマスクをした女性が鉄の階段の上に立っていた。

「あなたがあの時のライダー?」

「そうよ。やっぱりさっき仕留めておけば良かったかしら?」

 亜夢は言った。

「あなたは本当の悪党じゃない。だからさっき私達を殺さなかった」

 階段をゆっくりと降りてくる。

 亜夢は清川側の手錠の鎖部分を見て、そこを指でつまんだ。

「!」

 ライダーの足が止まった。

「あなた、どこまで非科学的潜在力(ちから)があるの?」

 パチン、と音がして、亜夢が触れていた鎖が切れた。

「局所的に熱を作って、鎖を切るなんて、なかなかやるじゃない」

 両手が自由になった亜夢は、清川と中谷のアイマスクを取り去った。

「今度は局所的に風をおこした…… どこまで出来るの? 頭がいいのかしら」

「?」

 亜夢は女が言っている意味が分からなかった。

「学校で習わないだろうけど、非科学的潜在力(ちょうのうりょく)って普通、特定のことを克服するために発達するのよ。あなたのように万能じゃない」

 女は階段の奥を振り返り、何かぼそっとつぶやいた。

 そして、階段から身構えると、言った。

「けど、万能であるがゆえ、一つの事は不得手なはず。だから身体補助能力であれば私の方が上」

 弾むように素早く跳躍すると、空中で前転した。亜夢が振り返る前に、その背後に着地してしまう。

「!」

 そのまま、女は蹴りを繰り出す。

 亜夢は、肺が飛び出したのではないか、と思うほど強く背中に当てられる。

 足で踏ん張らず、宙に飛び、体をひねり、回転させながらその力を流す。

 片足ずつ順番に着地し、しゃがみ込むと、払うような回転蹴りを右、左と交互にまわす。

 女はバックステップして、右も左もかわしてしまう。

 亜夢は急いでバック転して、女と距離をとる。

「やるじゃない。なんか習ってるの?」

 亜夢は首を振る。

「何にも。特撮ヒーローを見て覚えただけよ」

 女は亜夢の話を聞いて大声をだして笑いだす。

「何がおかしいのよ」

「いや、関心してるのさ。見ただけでおなじようなワザがだせるなんて…… それこそ漫画だな」

「あなただってさっきのクルクル前転するやつなんか、漫画みたいなことできるじゃない」

「あれは非科学的潜在力(アシスト)があるからだ」

「なら私だって」

「さっきも言ったろ? 万能な非科学的潜在力(ちょうのうりょく)はありえない」

 亜夢は自分の存在を否定されたような気がした。

「自分は頑張ってこの力を得たのに」

 女は左拳ををすーっと伸ばしてきた。

「あの時の」

 清川がつぶやくように言った。

 非科学的潜在力(ちから)比べをしようというのだ。

 お互いの拳と拳をぶつけ合う。超能力込みのパワー対決。

「全力よ」

 亜夢はうなずき、相手の左拳へ、そっと左拳を合わせに行く。

 ちょん、と触れ合うと、互いにバックステップして、得意の拳を後ろに引き、それを突き出す。

 高速で繰り出される拳が触れ合うか、という瞬間。

 ドン、と音がすると、陽炎のように空気が歪んだ。

「うわっ」

「きゃっ」

 亜夢と女は右手と右手を突き出したまま動かないのに、清川と中谷は吹き飛ばされたようにしりもちをついていた。亜夢と女の拳を中心として、波紋ができたように見えた。

「中谷さん。二人はまだ、やってるってこと?」

「表情からすると、そんな感じだね」

 力と力の勝負。

 女の額からは玉のような汗が落ち、一瞬目を閉じた。

「えっ?」

 そのまま女は前のめりに倒れ、亜夢が慌ててそれを抱きとめた。

「亜夢ちゃん、どういうこと?」

「おそらくですが…… 私の最初のインパクトが堪えたみたいです」

「えっ、死んじゃったの?」

「死ぬことはないと思います。呼吸もしていますし、鼓動も感じます」

 亜夢が、ゆっくりと女を床に寝かせた。

「けど、しばらくは目を覚まさないでしょう。早くこのことを伝えないと」

「伝えるのもそうだが……」

 中谷は清川の制服を見て、銃やパトレコがなくなっていることを確認した。

 今度は亜夢の方を見て、その首に『超能力キャンセラー』がかかっていないことに気付いた。

「まずいな…… 銃とか、パトレコとか抜かれてる。乱橋くんはキャンセラーを取られてる」

「あっ!」

 清川と亜夢は、今気づいたように手で体を確認する。

「絶対に探して取り返さなきゃならない。俺は探すから、二人はこのことを伝えて」

 亜夢は女のパンツのポケットからプラスチックの札を取り出した。

「それなら、この52番の札でホテルのクロークにあずけてあります」

 亜夢はそう言うと、札を中谷に投げた。

「えっ?」

「さっき、この女の人が考えていたことを読んだんです」

「わかった。じゃあ、今度は、本部にこのことを伝えて」

「はい」

 亜夢は清川の手を引いて鉄の階段を上った。

 ステージ裏の暗い通路を走っていると、前方に光る車輪が見えた。

 亜夢は、車椅子と思って警戒した。

「どうしたの?」

「さっき、あそこに車椅子の車輪が見えました」

「誰かいるってこと?」

 亜夢はうなずく。

 ゆっくりと通路を進んでいく。車輪の見えたあたりにくるが、誰もいない。

 二人はそのまま壇上を降りて会場を走り抜けようとした。

「待て」

 壇上の反対側にスーツの男が立っていた。

 今回の製品発表会の主役であるCEO。男は、ゆっくりと二人に近づいてきた。亜夢は清川の手を投げ出すように放して、会場の奥、緩やかに上がった先にある、出入り口を指さした。清川は必死に走り始めた。

「待て、と言ったはず……」

 スーツの男が、飛び上がろうとするところに、一瞬で滑るように移動した亜夢の蹴りが飛ぶ。

 男は飛び上がらずに、両腕で蹴り足をガードした。

「サエコくんを倒した…… んだね」

 接触により記憶を読まれた、と思った亜夢は、慌てて蹴り足を戻した。

 スーツの男が軽く振った腕に、弾かれたように亜夢が後ろに下がる。

「君の力を軽く見過ぎていたよ。もっと警戒すべきだった」

神島(かみじま)ポール直人(なおと)…… それがあなたの名前ね」

「今の一瞬で、私の頭をスキャンしたと見せかけたいのかな? 単なる知識だろう。なにしろ私は有名だからね」

 亜夢は何も言い返さなかった。

 神島はゆっくりと上着を脱ぐと、会場側の椅子へ投げた。それは紙飛行機のようにすーっと飛んで、椅子の背もたれに掛かった。

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