(13)
「加山さん連れてくるのは勘弁してください」
「じゃあ、もう少しまけて」
みきちゃんは立ち上がり、「こういうのをパワハラっていうのよ」と亜夢に向かっていった。
三人はレジに向かい、さっき言っていた金額よりさらにおまけした金額で清算した。
「亜夢ちゃんは、そこで着替えちゃって」
試着室に上がると、亜夢が靴をみてから清川の方を見た。
「そのローファーでも似合うわよ」
「残念だけど~、靴は違うお店で買ってね♡(ハート)」
「なにその言い方。ちっとも残念そうじゃないじゃない」
「(値切りが酷いからでしょ)」
「なんか言った?」
みきちゃんは手を振って「何も言ってないから」と言って否定した。
「今日のことを考えると」
亜夢が言った。
「運動靴がいいですね」
「うんどーぐつ、って…… まあ、そうね」
清川は亜夢の恰好を見ながらそう言った。
みきちゃんが通りの奥を指さして「あそこ」と言い、
「あの店なら欲しい靴あるんじゃないかしら?」
と言った。亜夢はその方向を見て「ありがとうございます」と言って歩き始めた。
清川はみきちゃんをつついてから、亜夢の後を追った。
みきちゃんは、笑顔で、「ありがとうざいました~」と言った後、
「(二度と来んな)」
と吐き捨てた。
「亜夢ちゃんちょっとまってよ」
人混みに邪魔されてなかなか追いつけなかった清川が、声をかけた。
亜夢は振り返って立ち止まり、
「あ、ごめんなさい」
と言った。
「靴がないと、やっぱり捜査の時は歩きますからね」
「そうね…… この服なら、スポーツシューズ系でも合わせられそうだし」
二人で歩き出した。
「さっきのみきちゃん、って人、何者なんですか?」
「幹夫くんのこと、気になるの? みきちゃんはね、ちょっとね…… 詳しくは言えないけど、いろいろ捜査協力してもらったり、その逆だったり」
「その逆ってなんですか?」
「やばいところからお金借りたりね、悪い集団にかかわったりしてるから、もめごと多かったのよ」
亜夢はさっきの店の方を振り返った。
看板に『Suger Boy』と書いてある。
「あれ? あのお店、男の子向けでした?」
「違うわよ。なんで? 思いっきり店の中見てたじゃない?」
「けど…… ほら、この袋も、店名も『Suger Boy』って」
「ふつうじゃない? ま、気にしないで」
清川は亜夢の肩を押して、通りを進んだ。
結局、シューズも黒系でワンポイント色の入ったものを買い、その場で履き替えた。
他にも必要な衣類をそろえてから、署に戻ったころには、夕方になっていた。
清川が制服に着替えに行って、亜夢が一人で一階のフロアで待っていた。
「おお、乱橋くん、戻ってきたか」
「加山さん。どうでしょうか?」
加山は近づいてきて、亜夢の足先から頭までゆっくりと見た。
「似合うよ。健康的でいいんじゃないかな。それより、そうだ。宿泊のことだが、今日まで悪いが、署にとまってくれ。明日からは近くのビジネスホテルで泊まれる。さっき、ようやく許可が下りた」
「ありがとうございます…… そうだ、私の捜査協力って、いつまでなんですか?」
「学園には、一週間と言ってある。容疑者が捕まえられるとか、特定できたら、もっと早く帰ってもらえるが」
「そうなんですか…… あ、この服『みきちゃん』って人のところで買ったんです」
加山の手が強く握られた。
強く握られた手が、震えたように見える。
亜夢は加山の手を見て、尋ねた。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、幹夫は、どうも苦手でな」
亜夢はくびを傾げた。
「みきちゃんも加山さんを怖がってましたけど」
「ああ、いや、そうか。まあ、早く忘れてくれ」
「本当にどうしたんですか」
「何でもない。今日は早く寝てくれ。明日は早いぞ」
「……はい」
それだけ伝えると、加山は急いで戻っていった。
入れ替わるように清川が戻ってくる。
「どうしたの?」
「みきちゃんの話をしたんです」
「へぇ。そうなの」
「何か心当たりあるんですか?」
「別にないよ」
「あ、あと!」
亜夢は小さく飛び上がって言った。
「ホテルに移れるそうです」
「えっ!」
清川が何か驚いた、というか、深刻なことを告げられたような雰囲気をかもしだした。
亜夢はどうしたらいいのかわからず、両手を振った。
「……って言っても、明日からなんですが」
「じゃ、今日はまだ署なのね?」
清川は、コロッと表情を変えて、笑顔になった。
「な、なにかあるんですか?」
「いやいや、何もないけど。何かあったらうれしいくらい」
「なんですか、それ?」
清川は天井の方へ視線をそらした。
「あっ、そうだ。今日の捜査報告書を作るから手伝って」
「捜査報告書?」
「私が書くから、状況を思い出してよ。あと、乱橋さんの思ったことも書き留めるから。私のデスクに来て」
「は、はい」
一階の奥のデスクに椅子を一つ持ってきて、清川がパソコンを立ち上げた。
文書作成ソフトを立ち上げて、定型の項目を一通り埋めると「さあ、今朝は事件現場に行ったのよね」と言いながらキーボードを打ち始めた。
「今日の前半はパトレコ付けてないから、時刻が結構適当になっちゃうけどね」
亜夢は今日の行動を思い出しながら、清川に話した。
清川も、被疑者らしき影を追いかけた話、坂の上の家の話などを書き込んでいった。
「あの超能力軍団との対決も書かないとね」
「超能力軍団ではなかったと思います」
「えっ、けど誰かは超能力者だったんでしょう?」
「私が触れた人は違いました。あの場にいた、かどうかも、今は確信もてません……」
「えっ、そうなの?」
驚いたような声を出して、清川はキーボードの手を止めた。
「それ、マジ?」
「……ふざけてませんよ。ものすごく強い力を持っていれば、あの場にいなくても、あれくらいはできるかも。なにしろ相手は、銃弾を弾くことができるほど強力な超能力を持っているわけでしょう?」
「けど、あの時言ってたじゃない。干渉波が強いからイメージのつきやすいことしかできないって」
「……」
清川は黙っている亜夢の頭をなでた。
「怒っているわけじゃないのよ」
「はい」
「私はわからないんだけど、干渉波の影響ってどんななの?」
「まずは集中力の問題です。ずっと近所で土木工事しているみたいに、大きな音が聞こえるみたいになります」
「けど、それって慣れないの?」
「なれることはないです。だから、例としては『音』じゃないのかな? 見たい方向に絶えず人がウロウロしていて、何があるのか、姿も距離もわからないような。超能力に非常に必要な部分を邪魔し続ける感じなんです」
亜夢は目の前で指を行ったり来たりさせた。
「確かに、それじゃ銃弾を弾くような正確なことはできないわね」
「だから、あまり人が挟まらないで触れたり見たり出来るところに対しては、超能力を働かすことは出来ます。自分の体に関して働きかけるものとか、そういう、わかりきった力を使うことは」
「うん、なんか分かるような気がする」




