劣等国の士官候補生 1
士官候補生
昨日の嵐の後、メインマストのトップセイル及びロイヤルセイルの展帆に失敗した日本海軍護衛艦「竹」は、先に出発したTS船団から遅れる事六時間、漸く全ての帆を展開して泊地を出発していた。
この辺りでは滅多に使われないバウスプリットまで展開し、船団からの遅れを取り戻すべく全力航行を行っているのだ。
が、慣れない展帆作業に駆りだされた二名の士官候補生は疲労困憊の様子で、結局交換するしか無かったロイヤルセイルを運びこんだ格納庫の片隅に転がっていた。
普段なら何処からともなく現れた掌帆長なり主計長なりに蹴飛ばされて追い出される所であるが、流石に嵐の最中から二〇時間以上も奮闘して来た二人を追い立てる様な真似をする士官は「未だ」いなっかった。
「――晶、動けるか?」
返事は無い。
意識を失っているのか……単に寝込んでしまっているのだろう。
チラチラとこちらの様子を確認しながら収容されたロイヤルセイルの状態を確認している掌帆長が見えている。
あと五分くらいは見逃してくれそうな雰囲気ではあったが、こんな所にいては間違い無く邪魔になる。
疲労で震える身体を叱咤して、枕代わりにしていた予備のバウスプリット用電磁索(※1)の束の上に置かれていたヘルメットを手にして立ち上がる。
※1 一般的に船首部分から展開されるバウスプリットには電磁帆が利用されている為、光帆と違って単なるロープにしか見えない
「起きろ晶、せめて食堂に移動するぞ」
「……っく、殺せ」
晶と呼ばれた士官候補生の腹に手を付いて体重をかけつつ立ち上がる。
「ぐへっ」
と、なんとも言えない呻き声を上げた晶の足を蹴飛ばしながら続ける。
「ホラ立てよ士官候補生。掌帆長が見てるぞ?」
「――畜生。なんで俺がフリゲート勤務なんだ……」
ぶつくさと何やら文句を言いつつ晶が伸ばして来た右手を掴んで引っ張り上げる。
「坂巻教官に嫌われたから」
「――畜生!」
「ほら、ヘルメットを忘れてるぞ」
フラフラと重い足取りで歩き出そうとした晶の船外作業服のヘルメットを拾って手渡す。
「晶……」
「なんだ?」
「今気付いたんだが、朝食の時間、過ぎてる……」
「げっ」
「……やれやれ、だな……」
「もう三日もエナジーバーと補助剤だぞ? こんなの俺達だけじゃねぇのか?」
「……だろうな」
「畜生、士官候補生になんてなるもんじゃねぇな……」
思わず足を止めた二人の背後で誰かの咳払いが聞こえて、慌てて止まっていた足を動かす二人。
そのまま幽鬼の様な足取りで兵員室前の自販機まで歩くと、エナジードリンクとエナジーバーを購入し、殆ど丸飲みする様にして貪り食うと、蜂の巣と呼ばれるカプセルベッドの中に潜り込む。
少なくとも後十八時間は非番となっているのだ。
……何事も無ければ。
十二時間睡眠という、護衛艦竹に乗り組んで以来初めての長時間睡眠で取り戻した気力と活力は、若い士官候補生二人の食欲を猛烈に刺激していた。
なにより四日ぶりの温かい食事なのである。
護衛艦竹の食堂は良くあるビュッフェスタイルとなっており、日本海軍伝統のカレーだけは毎週金曜日にしか用意されないのだが、和洋中の料理を中心に、地球人にも飲食可能な協約諸族の伝統料理なども揃えられ(そこまでしているのは日本海軍だけだ)ている。
巨大なランチプレート状のトレーに山盛りの食事と、シチューを入れたビールの中ジョッキサイズはあるカップを手にしているのが晶で、同じく山盛りの食事に味噌汁を手にしているのが崇である。
その全てを無言のまま凄まじい速度で食い尽くした二人は、満足気に視線を交わすと徐ろにじゃんけんをすると、負けた崇が立ち上がる。
「コーヒーとアイス」
晶の台詞に軽く頷き二人分のトレーとカップを手にして食後のデザートを取りに動く。
普段は三交代であるため一度に利用するのは精々二〇から三〇名前後のはずなのだが、食堂は護衛艦竹の乗員六〇名が一度に食事がとれるだけのゆったりとした空間が広がっており、船団の運行状況や竹の位置等が表示されていたり、娯楽や教育を目的とした様々な映像情報を表示する情報窓が幾つも展開されている。
ドリンクバーの前に出来ていた順番待ちの列に並んで、ぼんやりとその一つを眺めていた崇であったが、視界の片隅になにやら小さな違和感を感じて視線を動かす。
TS船団の動きがおかしいのだ。
平らな傘の様に六本のマストを広げたクリッパー級の輸送船の多くが縮帆を開始している。
意味がわからなかった。
「――なんだ?」
と、その瞬間。
全ての窓の表示が切り替わり、第一級戦闘体制を指示するけたたましい警報音が鳴り響いた。
一瞬全ての動きが止まった様に見えた次の瞬間、食堂に屯していた全員が一斉に動き始めた。
「晶!」
「おうっ!」
不審船の接近を告げるアナウンスを聞きながら、互いの装備を確認しあう。
非常用の電源装置に小型の酸素ボンベを携帯している事を確認しあい、非常時には頭部に被る事で簡易の防護マスクになるセイラーカラー(襟)の動作を確認すると、艦橋に向かって駆け出す二人であった。
……日本が異世界に転移――単に銀河の彼方に転移させられたというだけでなく、実際に異世界に転移させされたらしい――させられてから、凡そ一〇〇年が過ぎていた。
その間に二度の大きな戦争があって、地球人がサジタリウス腕に得ていた三つの植民惑星の内二つを奪われると言う惨事に見舞われたりもしたが、「ライブラリー」と呼ばれる一億年近い昔から蓄積され続けてきた協約世界共通(実際には協約世界外の種族も利用している)の情報庫の深淵に隠される様にして置かれていた、基本的には全面的に禁止されていたはずの「戦争」に関する協約上の規定についても多くの事が判明していた。
中でも地球人にとって最も重要と思われる規定の一つがある。
則ち『どうしても戦わなければならない場合、技術階位の低い方に合わせた戦力を用意し、それを用いて戦う事』である。
要するに、ライブラリーから得た高い技術階位の知識を野放図に使ってしまうと、列強と呼ばれる好戦的な古参種族の持つ最高戦力をもって叩き潰されてしまう可能性がある、という事である。
地球人達は焦り過ぎ先を急ぎ過ぎたのだ。
身の丈にあった技術を用いている限り、どれほ強大で好戦的な列強諸種族であっても、地球人の技術階位に合わせた戦力用意し、それを持って戦わなくてはならないのである。
極端な例で言えば、弓と剣を装備した兵士の一団に対しては、地球人達の宇宙艦隊を鎧袖一触で一掃してしまった幾つかの好戦種族の艦隊も、兵士達を降ろして同じ様な材質で同じ様な威力しか出せない弓と、単分子ブレードや高周波ブレード等の武器を捨て、鉄製鋳造剣をわざわざ用意して、相手と同じ場所に同じ戦力を送り込む必要があるのだ。
無視すれば「重大な協約違反」という事で、地球人達を転移させた所謂「ビッグブラザー」による制裁が始まるらしい。
といってもビッグブラザーによる制裁も万能ではなく、個々の犯罪と看做される海賊行為については、余程の事が無い限り放置される事が多い為、その辺りの線引については古参諸種族や列強諸種族、列強諸種族の中でも特に好戦的な好戦諸種族においても、未だに研究が続いているのだという。
ともあれ、地球人達は野放図に導入されていた超高度な、いや、超々超高度な銀河の最先端技術の導入を一旦停止――基礎科学分野や高エネルギー関連分野、材料工学、微細化技術や情報技術分野等を除いて――して、地球時代に手が届きかけていた程度の技術階位に引き戻していた。
恒星間航行能力の基礎技術たる超空間転移技術や光速遷移関連技術を放棄して、恒星間の移動については地球人に同情的な古参諸種族の運用する超空間転移門のみを利用し、深宇宙探査や新規の植民惑星開発についても、古参諸種族を含めた多種族合同の学術船に間借りしたりと涙ぐましい努力を続けている。
その結果が前述の光帆船(及び電磁帆船)の全面的利用と星系開発なわけだ。
もし仮にどこぞの好戦種族が地球人の植民星系を奪おうとしても、地球人達が利用している古参種族の超空間転移門を利用せざるを得ないし、そうした古参諸種族は超空間転移門の軍事利用を拒否している。
どうしてもと言うなら巨額の初期費用と莫大な維持管理費用を捻出し、自分たちの植民星系から地球人達の植民星系までの超空間転移門網を構築した上で、低出力にも程がある化学反応式の電磁加速砲で武装した光帆船や電磁帆船を送り込むしかなく、しかも最終的には相手の船に乗り込んだ上での白兵戦まで熟さなければならない。
新参の野蛮人達がまたなにか訳の分からない事を始めたと嘲笑気味に眺めていた好戦諸種族であったが、これには流石に開いた口が塞がらなかった(或いは開いた気嚢や胸門や鼻門や呼吸管等)らしい。
単分子ブレードも超振動ブレードも使わず、鋳鉄もしくは鍛造の剣と槍を、最悪無重力状態で振り回したり、遠距離でもクロスボウではなく半弓や長弓を使うという、先ずまともな戦いにはならないレベルの戦闘を強いられる事が明白だったからだ。
しかも地球人達の帆船は操作索を手動で操り手動で運行している。
子供ですらテラフロップス規模の計算力を誇る携帯端末を利用していながら、「なんとなく」「凡そ」「大体」の操作を適時(どうやら上位者が感覚的に指示しているらしい)行い続け、数ヶ月から数年単位の航海を行っているという事が判明した時点で、地球人達に残された最後の植民星系を奪うべく出撃していた幾つかの好戦種族の艦隊は、完全に匙を投げた。
兵士達にそんな戦いを指示した時点で反乱が起こる。
先進的で文化的な古参の列強諸種族(好戦諸種族)達には馬鹿馬鹿しくてやってられないという訳だ。
こうして植民星系の安全を確保した地球人達、というか日本人であったが、先進的な超々超高度な銀河文明の技術利用を完全に諦めた訳では無い。
植民星系では使わないというだけで、先進技術で生み出した小規模な艦隊や陸戦隊を幾つも組織し、銀河の各地に傭兵として派遣したのである。
新興諸種族の多くも地球人程ではないにせよ、好戦諸種族による高圧的で横暴で恣意的な協約利用には苦労させられていたのだ。
自種族の星系は発展させたいが、発展すればするほど列強諸種族や好戦諸種族からの圧力は高くなる。
そうした状況で多用されるのが、先進技術で武装した小規模の傭兵達だった。
自軍の戦力は限定的にしておき、そこに傭兵を加えて戦うのである。
協約通りに進めるしかない以上、攻撃を仕掛けた好戦種族も傭兵を使って対抗するしかないのだが、そもそも協調性が無いからこその好戦諸種族なのである。
好戦諸種族同士で協力し、傭兵として戦力を融通しあう事などまず無いし、新興諸種族や穏健諸種族からは二度と声がかからなくなる事を承知で好戦種族と契約する傭兵などまず居ない。
そんな訳で、列強諸種族や好戦諸種族からの攻撃に対処する為、傭兵達の需要はそれなりに多い。
しかも地球人傭兵に限った話では無かったが、大半は植民星系で軍人をしていた者であり、士官の大半は予備役士官で、予備役編入後に傭兵となり、傭兵稼業の後に現役復帰した者が新興諸種族の軍上層部を占めている。
それは政治や経済の分野にも及んでおり、傭兵時代に得た他種族との非常に強固な繋がりと友情が地球人の、いや、新興諸種族全体の連携と連帯の基礎となっているのだ。
当然、と言って良いのかどうかは分からないが、前述の士官候補生達も傭兵志望である。
今は古臭い帆走の”最新鋭”護衛艦や警備艦勤務でも、何れは最新鋭の戦闘艦で深宇宙に乗り出すのが夢なのだ。
傭兵でなければ銀河技術の最先端である最新鋭の戦闘艦に乗り組む事など出来ないし、最新の戦術・戦技についても実地で触れる機会など無い――偵察局の情報部や深宇宙探査部という例外もあったが――のだから当然であった。
「……敵は海賊か?」
「そうだ。機帆船(※2)らしい。海軍の護衛艦が護衛に就いているとは思わなかった(※3)んだろう。既に帆を畳んで全力逃走中だ」
「なんだつまらない。逃げるくらいなら最初から海賊になんてなるなよなぁ……」
※2 機走、つまり光帆や電磁帆以外のイオン駆動その他の推進装置を併用する船
※3 TS船団に護衛が付けられたのは、第四惑星のL4植民衛星群で半年ほど前に発生した独立騒ぎ(漢民族系)の後、複数の警備艦が行方不明になっているのが判明した為。不審船は知らなかったらしい。
尚、海賊行為は裁判や簡易裁判――宇宙空間では艦長或いは佐官以上の士官が三人以上で開廷可能――に依らずとも、有罪となった時点で重力圏内では縛首、適当な重力圏が無い場合はエアロックからの放出刑である。
と、二人の無駄口もそこまでであった。
航海長の仁科少尉が恐ろしい顔で咳払いしてみせたのだ。
狭い護衛艦の艦橋――最新鋭に属する「竹」であっても精々が二〇平米以下で、島型に中央に並んだ集中管制系の情報・操作機器と艦長席が据えられ、全周をアナログ・デジタルの両方の操作盤が囲んでおり、ロの字型の通路があるだけで艦長席以外の座席などない――では、ちょっと小声にした程度では周囲の誰かに聞かれてしまうのである。
とは言え私語の全てが禁止と言う訳でも無いし、艦長と副長もリラックスした様子で周辺各国の巡視船(一般的に海上保安庁や沿岸警備隊の警備艦を巡視船と呼ぶ)の航行状況について語り合っているから、私語をするなという注意ではなく、気を抜き過ぎるな、という意味であろうと解釈する二人。
(それでどうするんだ? 追跡するのか?)
(わからない。今それを艦長と副長が相談しているところ)
(船団の護衛は「楡」に任せてこっちは不審船の拿捕に動いてくれないかな?)
(そうなる可能性が高い。近くに不審船を追跡可能な巡視船が居ない訳じゃないらしいけど、第五惑星系のL1小惑星群に逃げ込まれると厄介だから。多分米国の海兵隊か沿岸警備隊と共同作戦になるんじゃないかな?)
(へぇ、米国の……あ、アクシズか!)
(アクシズじゃなくてキャンプコートニーな?)
因みにアクシズではなくキャンプコートニー(※)は小惑星型の基地である。
※ 元々は米国が領有していた第二植民星系の移動要塞であったが、星系陥落時に武装を剥ぎ取られ、戦後に難民の避難所兼避難船として第一植民星系の小惑星帯に移設され、現在では移動能力も固定武装もなくなっており、海兵隊及び沿岸警備隊の根拠地として利用されている。
米国の海兵隊師団及び強襲揚陸艦の他、護衛の海軍艦艇や六〇隻近い米国沿岸警備隊の警備艦等が航路と船舶の安全を図るべく活動しており、初期加速に電磁加速装置を使ってイオン駆動を併用した場合、二週間以内――交差軌道になるが――に逃走中の不審船をインターセプト出来るだろう。
交差する際に不審船の機動力を奪い、あとは追跡中の竹に任せてそのまま適当なボーマン軌道に入り、惑星系、もしくは各惑星軌道上のラグランジュ点に設置されている浮標識を利用して、スイング・バイや電磁索による軌道変更を行って帰還したら良いのだ。
(どうせなら海兵隊を見てみたいな。確かアクシズにはイオー・ジマ型の強襲揚陸艦もいただろ?)
(不審船に強襲揚陸艦を出すわけないだろ……?)
(わかってるYO! 言ってみただけだろ! そんな風に返されたら立つ瀬が無いだろ?!)
と、不意に副長が艦長に目配せをして口元を歪め、艦長が微かに苦笑して頷いた。
「――航海長、どうやらウチの士官候補生様にはなにやら戦術的な具申があるらしいぞ?」
「副長、確かに自分にもその様に見えます」
「ふむ。では聞いてみようか。士官候補生!」
「はい副長殿!」
「はい副長殿!」
「何か意見はあるか! 木村(崇)候補生!」
「はい副長殿! 特に意見はありません!」
「吉田(晶)候補生!」
「はい副長殿! 特に意見はありません!」
「では一体何を話していた! 現在我々は戦闘態勢にあるのだぞ! その意味を理解しているか!?」
「はい副長殿! 理解しております!」
「はい副長殿! 理解しております!」
「では一体何を話していた! 吉田候補生!」
流石の晶もこれには一瞬口籠る。
「吉田候補生!」
「はい副長殿! アクシズ――いえ、キャンプコートニーの強襲揚陸艦、イオー・ジマが見たいと話しておりました!」
「木村候補生はどうか!」
「はい副長殿! 晶候補生の言う通りです!」
見ていた主計長の鈴木少尉が肩を震わせている。
「つまりお前たちは戦闘中に観光の話をしていたと言うのだな? どうなんだ木村候補生?」
猫が捕らえた子鼠を前足で押さえつけている状況である。
「はい副長殿! 観光ではなく、その、噂に聞く海兵隊の強襲揚陸艦であれば不審船など鎧袖一触であろうと話ていたのであります!」
崇の言い訳に晶の瞳に光が戻った。
「……なるほど。木村候補生は高々六〇〇トン程の不審船を拿捕する為に、強襲揚陸艦を派遣するべきだと考えていた訳か……どうやら兵学校の授業を真面目に受けていなかったらしいな?」
晶の瞳から再び光が消えた。
「士官候補生! 主計長から軍における経済性というものについて学べ! 三ヶ月以内に簿記三級試験を受験し合格せよ!」
副長からのとんでもない命令に一瞬沈黙して顔を見合わせた崇と晶であったが、それを見た副長から再度の激が飛ぶ。
「現在は戦闘中である! 戦闘中に抗命する事の意味を知らんのか!? 復唱はどうした?!」
戦闘中の抗命は一発で軍事裁判事案であり、余程の例外事案でも無い限りは最悪死刑、良くても予備役編入が待っている。
「はい副長殿! 鈴木主計長より経済を学び、三ヶ月以内に簿記三級試験を受けて合格致します!」
「――はい副長殿! 鈴木主計長より経済を学び、三ヶ月以内に簿記三級試験を受けて合格致します!」
これから残り半年程――不審船の追跡が決まった事から下手をすると更に半年単位で延びる可能性が高いが――の航海における三ヶ月の間、護衛艦における最底辺カーストである激務の士官候補生の通常業務に加えて、簿記三級への合格に向けた試験勉強が追加された事になる。
とばっちりを受けた体の鈴木少尉も二年前には士官候補生だったのだ。
一石二鳥で引き締めを図った副長、マケイン古屋(名前はジョン・太一)大尉を見て、護衛艦竹艦長の中里少佐84歳(外見年齢は二十代)は、笑いを堪えるのに全精神力を投入せざるを得ないのであった。
※ 光帆船について
三本マストの場合、傘の骨の十二時方向にあるものをメインマスト、四時方向がフォアマスト、八時方向にあるものをミズンマストと呼ぶ。
四本の場合は十二時方向がメインマスト、三時方向がフォアマスト、九時方向がミズンマスト、六時方向がジガーマストと呼ばれる。
それ以上の場合、先ずメイン、フォア、ミズン、ジガーと四分割され、その後メインマストから右回りに一本目、二本目、三本目と順番に呼ばれる事になるが、そこまで巨大な帆を張る船は稀。
またムーンセイルやスタンセイルといった、マストの更に先端部分に展開する補助帆を持つ船も多い。