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頑張れ!小さな罠師くん!  作者: ミスタ
序章:水術士との戦い
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その3:買い食いしようかな

今日の任務は、

ブーちゃんのお家を燃やした報酬で買い食いをするだけの簡単なお仕事です

ぼく達が持っている補正の力はとても便利だ。

”速さ”に補正を持っている主婦は、家事を効率よくスピーディーに行えるし、

”道具”に補正を持っている料理人は、調理器具を己の手足の如く巧みに扱う。


だけど魔物の脅威という危険が目の前にあるということは、

補正の力を戦闘に役立てる者も少なくないということだ。

だけど補正の力は一人一つしか持っていない。

”力”に補正を持っている人は、空を舞う魔物に対して何かを投げるほかないし、

”風術”に補正を持つ人は、岩をバターのように切り裂く魔物の爪を防ぐことが難しい。

訓練しだいでは出来ないこともないだろうけど、

魔物と人の身体能力の差は補正に霊力を使って底上げでもでもしない限り、

埋まることはない大きな隔たりがある。


だからぼく達は短所を補うため、

長所を伸ばすため、

より多くの困難に対処するため、

なにより何があっても生き残るために、

”クラン”を結成した。

空を舞う魔物なら”風術”に補正を持つものが地に引きずり落とし、

鋭い爪を持つ魔物なら”力”に補正を持つものがご自慢の爪をへし折った。


もちろんぼくが住んでいる迷宮都市エボルにもクランはいくつか存在している。

というか魔物と戦う最前線である町に一つもなかったら、

それはそれで面白いとは思うけどね。


そのクランの中でも代表的なものをあげるならば、

迷宮都市と名のつく町ならばほとんど必ず存在している”探索者ギルド”

一つの町だけでも構成人が百人以上いる最大手のクランだ。

まあ、数が多い分強いのもいれば弱いのもたくさんいるけども、

戦闘における数の優位性というのはおそろしいほどの力を発揮する。

そして仕事が戦闘だけでなく、日常の雑事代行やインフレ整備など、

人々の暮らしに深く関わっているため、その点での影響力も絶大だ。

……ただ創始者である昔の勇者様が「ギルドはこうあるべきだ」と変な認識を押し付けた結果、

三十歳以下の人間が新規登録に来た場合は、強面のあんちゃん限定のちょっかい依頼、

という謎のシステムがあったりする。

そこだけを除けばいい場所なんだけどね~。


それ以外にもリーダーが迷宮にもぐっている間、他のメンバーが花の世話をするだけという短所の潰し方の方向性が間違っている気がする”世界の宝である花々と千流代とその他の人間たち”とか。


おやつのプリンから各国の要人まで完璧に守り通す、護衛業専門クラン”守護者”とか。


そんな常識をあさっての方向に投げ飛ばしたクランの数々のひとつに、

ぼくの所属しているクラン”白紙”がある。


”依頼人が死んでも仕事は終わらせます”がモットーで、

今までに仕事を失敗したことがないというのがぼく達の強みである。

まあ、失敗しかけたら多少力づくにでも片付けているという裏事情はあるけどね。


ちなみに実績の高さと構成員の質の高さから上流階級の方々の中にもお得意様がいるほどだけれど、

ただ構成している人数の少ないこと、少ないこと。

なんとぼくを含めてたったの四人しかいない。

……い、言い換えれば少数精鋭だから。


ただ仕事の成功率十割を売りに仕事している以上、

あまり弱い人をクランにいれるわけにもいかない。

だからせめてこのくらいは出来てほしいという条件を書いた求人広告を、

クラン”白紙”の宣伝用ポスターの片隅につけているけれど、

いまだに採用に至った人がいない。

う~ん、ちょっと条件が厳しすぎたかな?


でも”白紙”のメンバーになるなら、せめてあのくらいは欲しいしね~。

まあ、気長に待ってみましょうか。




さて、そんな事を考えて歩いている内に、もう事務所の近くまできてるじゃありませんか。

さっき長い道を馬車と一緒に走ったばかりだから、

普段歩いている道が少しだけ短く感じる。

それとも少し歩くペースが早くなっちゃっていたかな?


どちらにせよ時間に少し余裕がありそうなので、

近所を屋台を引きながら巡回しているおばちゃんに声をかけて、

適当なものでも買い食いするとしよう。


「へい、おばちゃん」

「あら、レントくんじゃない。

なにか買ってくのかしら」


そういえば今日の商品は何が並んでいるんだろうか。


「おばちゃん、今日のオススメは?」


このおばちゃん、その日の調子によって進める階層が変わってくるから、

何を獲物にしたかもその日その日で変わってくるんだよね。

むしろそっちを本業にしているぼくとしては、

普段からベストコンディションを保つ訓練くらいしたらどうかなって思うんだけどね。


「今日のオススメかい、それならバジリスクの手羽先なんかどうだい?

石化の力を使う前に首を切り落としたから、石を噛んで痛いってことはないはずだよ」


うん、それ切り落とさなかったらおばちゃんが石化して、

バジリスクもとい黄色いピヨちゃんに食べられてただけだよね。

もともと口の中でガリってことはありえないよね。


とまあ、いろいろ突っ込みたいところはあるが、

このおばちゃんは値段ですらもその日その日で変わるため、

機嫌を悪くしてお値段二割アップというのもザラである。

でもぼくはその一例になろうとは思わない。

だから穏便に買い食いを済ませるため、つっこみは無しの方向でいこう。


「じゃあ、それで」

「まいどあり、一本銀貨一枚だよ」


銀貨一枚か、ブーちゃんの家を燃やした報酬が銀貨十枚だから、

十分の一がこれで吹き飛ぶ計算になる。

だけどブーちゃんと黄色いピヨちゃんじゃ魔物としての格が違うから、

このくらいが妥当なのかもしれない。


財布から銀貨を一枚取り出して手羽先と交換し、

左手で紙の部分をしっかりもちながら、

角を曲がって見えなくなったおばちゃんにもう片方の手を振って別れを告げて、

いざ食べようと座り込んだ。

一口齧るとおばちゃん特性のたれと、

数々の人間をほふったであろう黄色いピヨちゃんの肉の味がからみあって、

ぼくの口の中を上手さという武器で蹂躙する。

う~ん、おいし♪





その瞬間先ほど別れたばかりのおばちゃんの悲鳴が聞こえてきた。


屋台のおばちゃん

”道具”に補正を持つ屋台のおばちゃん。

男社会で暮らす内に肉料理を好むようになり、

ダンジョン内で狩った魔物を調理しているうちに料理の楽しさそのものに目覚め、屋台をやることにしたおばちゃん。

元々ダンジョンにもぐっていたため、少し腕は落ちているもののバジリスクをタイマンで殺せるくらいには強い。

夢は飛竜の肉で手羽先をつくること。

さすがに飛竜は狩れないらしい、残念。

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