第8話パナマへの飛翔
パナマへの飛行と出撃前の乗員達を書きました。
4月30日午前3時伊400の艦内は喧騒に包まれていた。なぜならこの日遂に、パナマ運河攻撃隊が出撃するのである。攻撃目標は最も太平洋側にある、ミラフローレス関門である。
攻撃隊の出撃時刻は午前4時である。晴嵐の巡航速度は260ノットであり時速296キロである。その為1時間5分程度で、攻撃目標であるパナマ運河に到達できるのである。
「よし、浮上用意」
「浮上用意よーそろー。」
艦長日下中佐と副長渡辺大尉の声が響く。
「浮上開始!」
「浮上開始よーそろー。」
副長の復唱と同時に、感が浮上を始める。ゆうに25日ぶりの太陽との再会である。
「航空隊出撃準備なせ。」
艦長の声が伝声管を通じて、搭乗員室と格納筒に艦長の声がとどく。
なぜ1時間も前から、出撃準備を始めるのかというと、機体の組み立て、整備、発動機の暖機運転をしなければいけないからである。
又、甲板上には、2機しか置けないため、3機目の暖気運転は、プロペラを装着せずに、行ないプロペラの組み立ては1機目が射出機で射出してから、格納筒から引き出し、5分程度で終わらせる。その頃には、今までの訓練から言って、2番機の射出が完了しているからである。また、機体には、20分程度の上空待機よう燃料が積まれることになっている。
これは、晴嵐の航続性能が1500キロしかなく、片道100浬程度の余裕を見ているが、それでも戦闘速度を出すと、艦に帰還出来なくなる恐れがあったためである。その装備位置は、左右のフロートの中である。
射出機からでは無く、水上滑走での離陸なら、問題は無いが、射出機の場合、重量制限がある為、最低限の値となったのである。
「しかし、1時間も浮上していて大丈夫ですかね?」
航海長真鍋中尉が艦長日下中佐に聞いた。
「ああまだ夜明け間際だし、それにこの辺では、殆ど哨戒機も飛んでないじゃないか。敵が油断してるんだ。しかもこの艦には、十三号電探や逆探が装備されているんだ。それにしても結局は急いでも、30分近くかかるんだ。だったら、余裕を見てやった方がいいだろう?」
「確かに、焦ってミスを起こされるより早くましですし、本当にアメさん共は油断しているみたいですしね。」
ここまで実は、何度か3000メートル程度まで敵の駆逐艦や護衛駆逐艦が接近してきたことがあった。
しかしそれらの艦は、最初のアレンMサムナーの時の様にまさか敵がいると思っていないのか、もしくは気づいていないのか、どちらにしても完全に転舵の素振りを全く見せないスルーぶりであった。
その為当然のことながら、パナマ基地の隊員たちも日本の潜水艦が接近しているとは、少しも思っていなかった。
「オーライ オーライ」
晴嵐の胴体に翼を装着する為、整備長鷹野中尉のオーライの声が響く。
実はこの胴体に翼を装着する作業隊員たちの息があっていないと直ぐには上手くいかないものなのだ。
何故なら、接合部分の強度を上げる為、取り付け具の数が、20個近く有るのだ。それをずれなく、嵌め込むのは熟練整備員達の腕の見せ所だった。
「よし上手くいったな。」
鷹野中尉が言った。
「でも中尉、まだ1機目ですよ?」
大輪整備上等兵が言った。
「そんくらい、言われなくても分かってるよ。」
鷹野中尉が、不機嫌さを顔と声音に出して言った。
「分ってますよ。さあ次行きますよ。」
そう言いながら、今翼を装着した機体を射出機に持っていく動作は、彼がこの作業に慣れている証拠だった。
「ああ時間があるとはいえ、幾らでも時間がある訳では無いからな。」
「出撃用意!」
40分後、艦長が発令した。
この頃には、3機の晴嵐全機の暖機運転が終わっており、後は順番に射出機で射出するだけであった。
「Z旗あげい」
Z旗とは日本海海戦時掲げられた旗で、「皇国の興廃此の一戦にあり、各員一層奮励努力せよ。」という意味を、当時の参謀秋山真之中佐が書いたと言われている。
当然の事だが、Z旗が潜水艦1隻に掲揚されるのは初めてであり、今後も無いであろう。
その為乗組員の士気は、今までの事例よりも高くなっていた。
「よーしいくぞ!」
飛行長生野中尉の声が響き渡る。
そして、航空隊員たちの士気も高まっていた。
「出撃開始!」
艦長の声とともに、1番機の生野、吉川ペアの機体が射出され飛び立っていった。
因みに晴嵐は全機雷装となっており、関門を下から爆破、崩壊させるのだ。
その為、上昇に若干手間取ったが、危なげなく上昇していった。
次は、鳥野、中瀬ペアの2番機であり、こちらも無事飛び立っていった。
そして2番機から遅れること10分、大井、江草ペアの3番機も無事出撃していった。
この様子を艦長と副長は艦橋という、特等席から帽振れしながら、見送っていた。
こにの時、航海長真鍋中尉は発令所で咄嗟の事態に備えていた。こういう時に、航海長は損な役である。
「やっとパナマへ行けますね。生野中尉!」
「ああ。」
こうして3機の海鷲達はパナマへ向かったいった。
彼らは最初から高度20メートルで低空飛行していた。
これは敵の電探に見つからないようにするためである。
およそ1時間後パナマ運河を厄災が襲う。
第8話完
実はこの話昨日書き終わったのですが、いちにち2話投稿の為今日に回しました。
感想待ってます