第37話惨劇の後
マンハッタン号が撃沈された後です
「そろそろだな。よっし減速しろ。10ノットだ。」
ここまで38ノットで飛ばしてきた、駆逐艦の艦長が航海長に命じた。
「了解。しかし、敵潜水艦がいる恐れはないですか?」
「いたとしたら、ソナーで探知出来る。だから安心しろ。」
「艦長、何故一回引かなくてはいけないんですか!」
渡辺副長の声が艦内に響く。
「いいか、絶対に救助艦がやってくる。それに見つかっては、身も蓋もないからな。」
「ですから、そいつらを返り討ちに出来るじゃないですか!」
「それは出来ない。それをやれば、この艦がこの海域に居ることがばれてしまうからな。それだけは、避けねばならない。だから、こうして現場を離脱しているんだ。」
「なるほど。という事は、存在を察知されずに通商破壊を行うという事ですね。」
「そうだ。我らは絶対に、存在を察知されてはいけないのだ。あくまで、影のままで居なければ、帰還することは、出来ない。」
「あの船は何だ?」
艦長の問いに通信員が応じた。
「漁船だと言ってます。たまたま近くに居たとも。」
「そうか・・・生存者がいたか聞いてみてくれ。」
「了解です。」
「生存者はいたか」
「船長。生存者はいたかと聞いてきてますが?」
漁船のナンバー2の乗員が聞いた。彼は通信士の資格を持っている為、重宝されていた。
「そのまんま、死体も無かったと送ってくれ。」
「分かりました。(死体も無かった)送りました。」
「通信きました!」
「何だって、通信員?」
「(死体も無かった)との事です。」
「どういう事だ?死体も無かったとは?全員生きているとでもいうのか?」
「聞いてみます。(全員生きているか?)送りました。」
「(全員生きているか?)との事です。」
「何勘違いしてんだ?生存者なしと送れ。」
「了解です。(生存者なし)」
「艦長(生存者なし)だそうです。」
「何だと?16500トンもの船で生存者なしだと?」
「そう見たいです。」
マンハッタン号の性能諸元は、プリスベーンの港湾管理事務所から、無線で知らされていたのだ。だから船長は何トンの船かすぐ言えたのである。
「しかし、乗員数は60名程度との事ですから、あり得なくは無いかと。」
「でもな、機雷だけで生存者なしになると思うか?」
「搭載物資に弾薬類と書いてありますので、それが誘爆を起こしたのではないでしょうか。」
この時彼らは、不運にも流されて来た機雷に触れたもんだと思っていたのだ。
「たとえ誘爆を起こしたもしても、1人の生存者も居ないのはおかしいだろう?あのフッドの時でも、生存者が3人居たんだぞ?」
フッドの時とは、1941年に起こった、イギリス巡洋戦艦フッドとドイツ戦艦ビスマルクとの間に起きた、砲撃戦のときの話である。
もともと、軽装甲の巡洋戦艦として建造されたフッドは、特に水平装甲が薄かった。
その為、何度かの改装をえて装甲は強化された物の、不十分なままだった。 だからフッドの水平装甲は、遠距離砲戦時の大撃角弾に耐えられるようなものではなかった。
その為、ビスマルクの38センチ砲はフッドの薄い装甲を突き破り、弾薬庫の誘爆をひこ起こしたのだ。この一撃によって、フッドは爆沈したのだ。しかし、3名の乗員が生き残っていたのだ。
だから、この駆逐艦の艦長は生存者がいないはずが無いと思っていたのだ。
しかし、マンハッタン号沈没までの流れを知れば、生存者がいないことも理解出来るだろう。
まず、艦中央部に命中した魚雷により、傾斜を始めたマンハッタン号は、その後暫くしてからの2本目の魚雷によって艦首を吹き飛ばされた。そして火が回り弾薬に引火、艦体を内側から吹き飛ばしたのだ。
ここで肝心なのは、被弾してから誘爆を起こすまでに時間があったことである。
フッドの場合は瞬間的なものだった為に、吹き飛ばされさらに幸運にも恵まれた為に3人の生存者が出た。
しかしマンハッタン号の場合、時間があった為に甲板にいたものが、消火や逃げるために艦内や、艦外に飛び降りたのだ。それが悪かった。先ずマンハッタン号には装甲と言うものが一切ない為、爆圧がほとんど減少することなく、艦内を廻りまわったのだ。この高圧と高熱により、艦内にいた者は全員焼き殺されたのである。
さらに海に飛び込んだ者に対しては、船体の破片と水中を伝わった爆圧が襲いかかった。
それにより、内臓破裂を起こしたり胴体を引き裂かれてしまったのだ。
その様な要因により、マンハッタン号の乗員全員戦死という結末になってしまったのである。
「でも、誰もいないと言っていますから、事実なのではないですか?」
「確かに、嘘や手抜きをしている様には思えないからな。」
その時だった、漸く20、75ノットで驀進して来た潜水艦が到着したのだ。
「状況知らせ。」
潜水艦艦長が、駆逐艦に無線で聞いた。
(生存者なし、生存者は絶望的)
そんなそっけない返事が、返されたのだ。
「なんという事だ・・・」
艦長が電文用紙を呆然としたまま落とした。
「艦長どうしました?」
航海長がその紙を拾い上げ、目を通すと艦長のように固まってしまった。
それほど彼らの受けた衝撃が、大きかったという事だろう。
第37話完
というわけでした
この話も終わりが近ずいてきました
恐らく50話をめどんに完結すると思います
と言うより、させたい
次回作予告
実は、次回作で何書くか、すでに決まってます
完結後1週間経ってから、投稿開始の予定です
また、この話から1日1話投稿とします
理由は、話のスケールが大きくなるのと、あまり時間が取れないからです・・というか今までが早かっただけ?
1話最低2000字の方針は変えませんが、出来れば3000字にしたいです
題名は、最終話で発表予定です
感想待ってます




