第28話オーストラリア沖到達
いよいよ始動します
「明日には作戦を開始できますね。」
言ったのは航海長の真鍋中尉である。
「ああ、ついにここまで来たな。」
今日は1945年6月5日である。あと182浬ほどでプリスベーン沖に到達するのだ。
しかし、良くここまで、敵に存在を察知されずにきたものである。
確かに、カタリナ飛行艇に目視されたが味方艦と思わせる事に成功していた。その為発見されたが存在は
察知されていないという、稀有な状況になっている。
「これも全て乗員の努力の賜物だな。」
「特に機関科の連中には頑張ってもらいましたからね。」
「明日には、作戦海域に着くそうだ。」
言ったのは、機関科を仕切る中川中尉である。
「やっと着きましたか・・主機の故障もなく・・良かった。」
心配症の山中兵長が心底安心したように言った。
「また貴様の心配症が始まったか。」
「仕方ないじゃないですか。前の船では、機関故障が日常茶飯事だったんですから。」
「だから、本艦の物とは物が違うだろう?それに主機の種類も違う。なのに貴様はなんでこう心配ばかりするんだ?」
それは、もっともな疑問である。
「仕方ないんですよ。もともとは、学生の頃に忘れ物が多く、よく叱られていたので気付いたらあれは忘れてないか、用意は大丈夫かと不安になるようになったんです。それから、ずっと心配してないと気が済まなくなったんです。」
「そういう事があったのか。確かに整備の後に道具を中に置いとくっていうミスを起こしても仕方ないから、心配してるという事を言ってたのか。」
今の一言で疑問が氷解した、というように言った。
「でも明日には着くんですね。楽しみですよ。」
「何がだ?」
「いやあ魚雷を撃つ場面は初めてなんですよ。だからどんな感じになるのかなと。」
「そうか。でもな直ぐに撃てるとは限らんぞ。」
「それは分かってます。目標がいなければ、打てませんですものね。」
「ちゃんと分かってるじゃねえか。安心したぞ。」
「褒め言葉と受け取っときます。」
「我々の出番はないが、明日には作戦海域に到達するそうだ。皆目標がいることを祈ろうじゃないか。」
言ったのは、出撃が無いことを知り落ち込んでいた生野中尉である。
「敵を真上に見つけた時には冷や汗が出ましたけどね。無事につけて良かったです。」
そう答えたのは、彼の相棒である吉川飛行兵曹である。
「確かにあの時は、ビクッとしたな。真上に敵がいたって言うんだから。」
彼らには安全圏に達したと思われてから、事に子細を伝えられていた。
「あの時は終わったと思ってましたよ。飛行長。」
「なんだ鳥野上等飛行兵曹も来ていたのか。」
「私も居ますよ。」
そう言ったのは中瀬飛行兵曹である。彼らは、伊400の2番機のペアである。
「お前たちはどう思ってるんだ?」
「確かに出番がないのは悔しいですが、自分の乗っている艦が戦果を上げるのは、誇れる事と思います。」
「そう思っているのなら良かった。」
「どういう事ですか?!」
いつの間にいたのか大井上等飛行兵曹が言った。彼のペアである、江草飛行兵曹も居る。
「航空隊全員集合だな。」
「それは分かりましたから、さっきの言葉はどういう事なんですか?」
「それは・・・お前たちが出撃させてくれって直談判しに来ると思ってたんだ。でも自艦が戦果を上げれば誇れると、鳥野上等飛行兵長が言っていたからな。安心したんだ。」
「確かにそういう思いも有りましたが、自分たちが不利益を被る訳ではないので、良いのだと思い直しました。」
「そう思ってくれたのなら良かった。」
「やはり、皇軍は命令遵守ですからね。逆らうのは止めることにしました。」
そう大井上等飛行兵曹が言った。
「ああ、そうだな。」
鳥野上等飛行兵曹が同調した。
「敵がいればいいですね。」
そう言ったのは、中瀬飛行兵曹である。
「いるに決まってるだろう。いないわけが無い。」
そう突っ込んだのは、吉川飛行兵曹である。
「そうですね。いないはずがないですね。」
「いないと思えば、いなくなっちまうぞ。」
「生野中尉勘弁してくださいよー。」
「すまんすまん。」
「ついに魚雷を撃つ、時が来たな。」
言ったのは、水雷長の横川中尉である。
「長年磨いた腕の見せ所ですね。」
頼りになる野島兵長が言った。
「ああ、この航海でついに俺らが主役になる時が来たんだ!」
横川中尉が叫んだ。
「ええ、今までは航空隊にしか出番がありませんでしたもんね。 」
「ああ。」
そう言いながら、敵の横腹を抉るであろう九三式酸素魚雷を頼もしげに見つめる。
「こいつなら、撃っても気づかれませんから悠々と逃げることができます。」
そう、酸素魚雷は水に溶け無い窒素を排出しないため非視認性がとても高いのだ。しかも炸薬量もかなり多い。輸送船など1撃で沈んでしまうだろう。
そんな魚雷にも整備が大変であり、また値段が高いという弱点があるが、それを補って余りある能力を持っているのだ。
「ああ、1撃轟沈の夢が叶うな。」
「確かにそうですが、相手は商船であり軍艦ではないですからね。」
「しかし一隻沈めたという記録に変わりはないし、通商破壊の方が、今や重要だからな。」
「分かってますが、夢ですから軍艦を1撃で沈めるのは。」
「だったな。」
第28話完
26話の劇中にあったあれご都合主義だと思われるかもしれませんが、実際に似たことがありました
詳しくは板倉光馬氏のああ伊号潜水艦という本を読めばわかります
感想待ってます




