第13話作戦説明&大統領の思索
オーストラリア通商破壊作戦の説明と、トルーマン大統領の思索の話です。
「艦長だ。本艦は、オーストラリア通商破壊作戦に赴く。乗員心してかかるように。」
「おーーー」
「本当ですか!」
乗員たちが叫び声をあげる。
航空隊員の様にちょっと事前に知っていたが、ほとんどの者は初耳だった。
「本艦は、取り舵をとる。出撃だ」
艦が旋回を始める。
「すごいですね!中川機関長」
言ったのは、機関科兵の山中 邦夫兵長である。
「ああまさか、オーストラリアに行く事になるとは思わなかったな。比島沖に行くとは思っていたが。」
「でも、比島沖では敵の警戒も強いんじゃないんじゃないですか?」
「ああ、確かに危険は比島沖より低いだろうな。」
「確かにオーストラリアの方が、後方ですからね。」
確かに艦長は、比島沖での通商破壊戦を考えていたが、危険が大きく、戦果もあまり期待できないのだ。
前線よりも後方の方が、気が抜けてしまうのは、仕方ないと言えるだろう。
特に、明らかな戦力差で敵を追い詰めている時は。
艦長は、そこにつけこもうと考えたのだ。
しかし目標が居なければ、意味がない。果たして海狼の餌食になる艦は出てくるのだろうか。
「正式に発令されたか。」
生野中尉が、待ちわびたと言った風に言った。
「オーストラリア行き、決まりましたね!」
中瀬飛行兵曹が言った。
「ああこれから大変になるだろうな。」
「ええ、僕らの出番もありますしね。」
「いや、違うんだ。俺たち飛行隊には出番がない。だから、奴らをなだめるのが大変なんだ。」
「出番ないんですか?」
何故?というように言った。
「ああ、パナマの時みたいに、奇襲じゃないし、敵の警戒だって強いだろう。」
「それで如何なのだね?」
アメリカ合衆国大統領ハリー S トルーマンが言った。
「如何とは?」
報告に来た、海軍大佐が聞いた。
「パナマ運河についてに決まっているだろう。」
若干イライラしながら言った。
「はっきり言えば、戦局の大勢には影響ありません。」
「復旧にはどのくらいかかる?」
「半年は、最低かかるでしょう。またこの際、運河を拡張しようという声もあるので、もっとかかるかもしれません。」
「そうか。でも実際問題は無いのか?」
「問題は、新艦を派遣できないことでしょう。しかし、今ある戦力だけでも、今の日本には、充分でしょうし、補給物資は大陸鉄道や航空機で西海岸に運べますし、西海岸でも製造しているので、問題はありません。」
「そうか。しかし喜望峰経由の派遣も考慮してくれ。戦力が多いにこしたことはないからな。」
「はっ。了解しました。」
確かに戦力に不安はなかったが、それでも犠牲を少なくするには、戦力で圧倒するのが1番なのだ。
それに、まだ日本海軍には、燃料があれば十分な戦力になりうる艦が、残存しており負けはしないが、強烈なしっぺ返しを喰らう可能性も無視できなかったのだ。
そう、戦争で一番厄介な事は、終戦直前に、大きな損害を被ることである。
それを防ぐという意味でも、パナマ運河を通じての、東海岸からの、輸送や新艦配備は大きな意味を持っていたのだ。
それが、短期間とは封じられた、しかも復旧より早く終わるかもしれない。それは戦後経済に大きな影響を与えるだろう。
しかもそのついでに、運河を拡張するという案もあり、それを実施すると、復旧への期間が更に伸びるだろう。
それを考えると、燃料消費が増えるが、それを我慢して、喜望峰経由の輸送を考える必要があるのだ。
確かに、マリアナ沖海戦やオペレーションオーバーロード、ノルマンディ上陸作戦決行の前なら、ドイツ海軍Uボート、日本海軍連合艦隊両方の攻撃にさらされたかもしれない。
しかしドイツは、降伏直前で有り、日本海軍連合艦隊は、至宝であった46センチ砲搭載の戦艦武蔵をレイテ沖海戦で、大和を4月7日にあった坊ノ岬沖海戦で撃沈されていた。
確かに、まだ戦艦は4隻空母は、6隻残っているがもう攻勢に出る力は残っていないと考えていいだろう。
何故なら、肝心の燃料が無いのである。しかも空母には、載せる航空機がない。
そんな相手に負けるはずは無い。しかしまだ打撃を与える力は残っているのだ。
そんな事をトルーマン大統領は考えていた。
「こんな事になったのも全ては、忌々しい日本海軍のせいだ!」
すでにパナマ運河攻撃作戦の成功について、日本は大々的に報じていた為、日本海軍の仕業だという事は分かっていたのだ 。
だからトルーマン大統領が叫んでしまったのも頷ける。
しかし対独戦への影響が殆ど、と言うより全くと言っていいほどなかったのは不幸中の幸いであった。
その為、大統領の悩みは、もっぱら対日戦の事であった。
何故なら、ドイツには、痛打を与える力は残って無いが、日本には残ってるので有る。
それはもともとの海軍力、そして国の立地によることが大きいのだ。
まずドイツは、本格的に列強各国の戦艦と渡り合える艦は、ビスマルクとティルピッツしかなく、更にすでに海岸沿いは連合軍によって占領されており、もはや陸軍と空軍のみが戦っているような状況であった。
しかも2隻ともすでに沈められていたのだ。
しかし日本は、沖縄にこそ上陸しているが、九州、四国、本州、北海道は上陸しておらず、船の出航は可能であり、さらにまだ、世界の三大海軍国と言われた威容を少なくなったとはいえ誇っているのだ。
即ち、一番日本海軍で活躍したと言われる金剛型戦艦の榛名、そして航空戦艦に改装された伊勢と日向の2隻そして、世界のビックセブンと言われ、その中では最良の戦艦と言われ、長く国民に愛されていた長門の戦艦4隻である。
空母戦力はすでに載せる航空機がないため戦力としては、防空艦として考えればいいだろう。
しかし、戦艦4隻をその空母6隻で、アメリカ艦隊まで、守り抜けばその艦砲射撃によってある程度の打撃を与えるだろう。
しかし燃料が無い為不可能な事ではあったが。
トルーマン大統領の思索は、止まることが無かった。
第13話完
最初は作戦説明のみのつもりで書き始めたのですが、途中でホワイトハウスに話を飛ばしたら、それで終わってしまったので、と言うより、殆どそうですが書き終えてから、大統領の思索とサブタイトルに追加しました。
そうなんです。日本海軍にはこの時期戦艦4隻、空母6隻という戦力が残っていたんです。
それが殆ど沈められたのが、7月24、28日両日に行われた呉空襲なので作品の時期ではまだ健在なのです。
まあこれだけでもアメリカやイギリス以外の国の艦隊だったら壊滅させられるんですけどね。イタリアやフランスはギリ勝ちか、下手したら負ける
まあ往年の第一機動部隊は中小国の戦力を消滅させるのに十分な戦力でしたし。艦隊を壊滅させるのとはわけが違うため、大国や大国がバックボーンにいると無理。あくまで中小国に限られますが、戦力を消滅させるとは、すごい戦力ですよね。
まあ消滅させられない理由としては、航空機が相当数あれば、耐えられるから。というか第一機動部隊の艦載機が消耗するし。




