異世界の王宮
「おぉ、成功だ!」
「勇者様だ…勇者様が降臨された!」
いつの間に意識を失っていたのか。
俺が目を覚ますと、そこはどこかの地下室だった。
周囲の人達の話すことが普通にわかるため、日本のどこかだろうとは推測したものの、足元には謎の紋様。
それを見た奏弥が、やや過剰に反応する。
「魔法陣……それに勇者……召喚!
異世界召喚か!
いやでも勇者っぽいのは…先輩?
じゃあ俺は巻き込まれポジだな!」
「どこよここ……」
奏弥の声で目を覚ました美空が、気だるそうに辺りを見渡す。
「奏弥が言うには異世界らしいな
なるほど召喚…妖術でも行使は可能だが、世界を渡るほどの大規模なものか……」
「へ? へ?」
そういった能力も持ち合わせず、知識もまた持っていない美空だけが、事態を未だ飲み込めていないようだ。
辺りのざわめきが収まり、部屋の奥の階段から一人の少女が現れる。
「ようこそおいでくださいました、異界の勇者様方
私はこの国の王女、テスカ・リュミエールです
父が皆様をお呼びです、御足労願えますでしょうか」
見た感じ、15~6歳だろうか。
俺達よりも若干年下に見える彼女が、三人を呼んでいる。
ふむ……いや、何をするにも今は手がかりが無いな…
「あぁ、わかった」
俺の思考をよそに、奏弥が了承する。
まぁ良いかと考えつつも、王女に従い地下室を出る。
長い階段を登ると、その先はやはり王宮であった。
赤い絨毯が敷き詰められ、高価そうな調度品が幾つも置かれている。
「落ち着かないな………」
「うわぁ…すご……」
「異世界の王宮ってのは、こんなものじゃないすか?」
落ち着かない様子を見せる俺と美空に、妙に落ち着いている奏弥。
なおもしばらく歩くと、大きな扉の前に到着した。
「失礼いたします
勇者様方をお連れしました、お父様」
王女がノックし、扉を開ける。
扉の先には、玉座に座る王らしき壮年の男と、傍らに佇む大臣らしき男。
「うむ、我らの召喚に応じ、よくぞ来てくれた、異界の勇者よ
そなた等を呼び出した理由は他でもない、彼の憎き魔王を討伐してもらいたいのじゃ」
そう言う王に、俺が疑問を投げかける。
「そんな事はどうでも良い、俺達は元の世界に帰ることが出来るのか?」
「あ、そうです! 私達にも家族が……帰れないと困るんですけど……」
「なに、問題は無い、魔王が召還の術式を隠し持っておる
魔王を討伐さえすれば、帰ることも容易じゃろう」
「……………」
王の回答に押し黙り、思考する。
「魔王の討伐…まk「待て」ぁ…へ?」
了承しようとした奏弥を、ギリギリの所で押しとどめた。
「真実を語れ、王
召還の術式など、存在しないんだろう?」
「ほう……なぜそのような事を考える?」
「俺は魔法を知らないが、術式と言うものは本来表裏一体で生み出される
それが、それぞれ別に、離れた場所で生み出されるなどありえない
この場合、ありえるパターンは、召還の術式を隠し持っているか、そもそもそれを生み出すことが出来なかったか
ここまでは、多少聡い者なら気がつくだろう、浮かれていなければ…だけどな
で、ここまで考えると、術式がここにあるとは考えづらい
元の世界に帰す交換条件として、その術式を提示すればいいだけだからな
だが、仮にそうしたとして、術式が無ければ、魔王を倒した……それこそ魔王以上の力を持つ勇者が逆上する、国は…少なくとも王族は滅ぼされるだろう
魔王が術式を持っていたことにすれば、魔王が術式を破壊した等、何とでも言い訳ができる」
「…………」
怒涛の口撃により、それに対する王の反応は………
「……勘の良すぎる奴は嫌いじゃな」
そうつぶやき、指を鳴らす。
「うぇい!?」
「ちょ、何!?」
奏弥と美空が焦った声を上げる。
それもその筈、王の合図によって、三人は騎士たちに囲まれていた。
「御しやすければそのまま飼い殺しにしていたのだが……まぁいい、無理矢理にでも支配下に置いてやるとするかの」
騎士が、三人に襲いかかる……が、数人が鎧をバラバラに切断された上で倒れ伏す。
「誰を支配下に置くって?」
そう言ったのは俺。
俺の手には、ひと振りの漆黒の刀が握られている。
「何……召喚されたばかりでその力……既に強化がされていると……?」
「強化…? そう言えば、少しばかり体が軽いな 誤差程度だが」
「強化……魔法とか使えんのか?
んー………よし、砂大砲!」
「うおっ!?」
少し考えた奏弥が魔法っぽい名称を叫ぶと、前方に巨大な砂の塊が放たれた。
その軌道には俺も居たが、辛うじて飛び上がって回避。
騎士たちが砂に直撃し、吹き飛ばされる。
「……へぇ」
味をしめたとばかりに舌なめずりをする奏弥。
「こういうのはイメージが大事っぽいし…イメージイメージ……砂狼!」
奏弥の周囲に砂で出来た狼が多数出現し、部屋中を駆け巡る。
それは騎士たちに食らいつき、瞬く間に戦闘不能に追い立てる。
「ぐ、ぐぅ………」
うめき声を挙げる王。
「……ここに居る理由は無くなったな
帰る手掛かりにもならない以上、こっちに利点は無い
二人共、外に出るぞ
奏弥は、こういった世界に詳しそうだ
あとで色々教えてくれ」
「了解っす!」
王と騎士たちに背を向け、扉に向かう。
「あぁ、そうだ 余計な事はしてくれるなよ?
………流石に国を一つ落とすのは面倒だ」
この兵士の練度なら不可能ではないがな。
そう言い残して、部屋を去る。
部屋には、気絶した騎士たちと腰を抜かした王と大臣、呆然とそれを見ていた王女だけが取り残された。