異世界でエルフになって地味に生活しています。
よろしくお願いします。
ここは街外れの森の中。鬱蒼と茂る木々。その中でぽっかりと開いた広場に一つの古びた家がある。茶色のレンガの壁には蔓が這っていて、家の周りには様々な草花が茂っている。
うん、私の家です。訪ねてきてくれる人は殆どいないけれど。私は、まあ、この森で地味~に生活している半ば引きこもりエルフだ。
この世界では人間は草原の民とも呼ばれていて、他に、森の民エルフ、土の民ドワーフ、空の民竜人、牙の民獣人等の種族がいる。
エルフは他の種族と交流するものは少数で、大多数は森の中に里を作り、自然と共に生活している。エルフの始祖は母なる大樹と崇める大木から生まれたんだとかなんとか。
私は気がつくとそんなエルフの里でオギャアと生まれていた。そして両親のもと、エルフとしてすくすくと育っていった。里で暮らすうちにエルフは深い森の中で生きて行くのが一番適しているのだと学んだ。
大分エルフの考えに染まったかもしれないけど、それでも森の外を、この世界を見てみたい、街と呼ばれる所で他の種族とも交流してみたい、とずっと思っていた。
そのために、森の外でも生きて行けるよう、魔法や薬の製法、野営・戦闘など様々な勉強・訓練に励んだ。まあこの世界には魔物とかがそこらに普通にいるから、森の中に生活するエルフにとっては戦闘能力は必須ではあるんだけれども。
え? エルフは華奢で戦闘とかしないイメージだって?残念、この世界のエルフは狩猟民族でした。剣に槍に魔法に弓にと、何でもござれな戦闘民族的な集団です。
魔法への適正も割と高い種族なんで、家事の時間は魔法で短縮できる。だからか、男女関係なく狩猟や森の見回りを行っている。暇なときには鍛練している奴等もチラホラ見かける。
確かに身体は細いけど、それは菜食主義とか少食だからとかではなく、森の中を駆け回っているから運動量が多くて身体が細いんです。華奢っていうよりは引き締まってて身軽な感じ。大工さんとかにはゴリマッチョな人もいたりするよ。因みに巨乳なおねーさんはあまりいない。動き回るのに邪魔だからって魔法でわざわざ小さくしているなんて持たざる者に喧嘩売ってるような人はいる。
けしからん!
まあ、そんなこんなで年の近い幼馴染も巻き込んだりして、一緒に勉強したり訓練兼狩りのために森に繰り出したりと頑張りましたとも。その過程で、ずっと付き合わせていた幼馴染が私の考えに少し染められちゃうということがあったり。
そして両親を説得し、条件として出された一人前とされる30歳━━エルフは寿命が500~600年程度。30歳までは人間の2倍の長さで成長し、その後人間換算で40歳位まで数百年かけ徐々に年をとる。そして寿命が尽きる約50年前からは子供時代と同じ速さで年をとる。30歳は人間換算で15歳━━になってから意気揚々と森を出た。
里に来た行商人から買っておいた地図を広げ、森を出てから旅をすること1週間、街を見つけ、これからの生活に夢みつつ、足を進めていった。
それから六年、私は街で異世界生活をエンジョイしている………のかと思いきや、街外れのこの森で半引きこもり生活をしている。
どうしてこうなっているのかといいますとね……
初めは私だって街で周りと交流しながら生活していこうと思っていた。しかし、私は自分がエルフだということを失念してしまっていた。
この世界のエルフは他種族に対して、嫌悪とまではいかないけれど自然と調和していない者達だと考えている人が多い。そのためか、森の外にいるエルフも多くは他種族に対してあまり態度がいいとは言えない。
そして他種族からすると、エルフの第一印象は綺麗だけれど気位が高かったり嫌味だったりする手を出したら火傷じゃすまない(魔法適正が高い+狩猟民族で身体能力も高め)やつら、ってイメージなんだよね。何もしなけりゃ平気だし魔物を狩ってくれるから数にものを言わせて迫害、とはなっていないけど。
だから、自分がどんな人物か軽くでもわかってもらえるまではエルフだということを明かさなかったり、出来るだけ穏やかに丁寧に人と接する事を心掛けるのが、森の外に出る少数派の中でもさらに少数派な、他種族に友好的なエルフ達の中での常識だった。
それにエルフは美形が多いイメージだけど、この世界でもエルフが美形揃いというのは知られていることで、客観的に見ると、私もエルフの中では平均的たが例に漏れず美人だった。
因みに私の見た目は、ミステリアス美人(笑)。(何で(笑)なのかって?中身が私だからです)
無表情だと冷たく見えもするアイスブルーの瞳に、白っぽいストレートの銀髪で、この世界のエルフの間では髪にも魔力が宿るため伸ばすべきと考えられているため、腰まで伸ばしている。といっても、前に長くて邪魔だった前髪を一度バッサリ切ってみた時、全く魔力は減らなかったから迷信だろうけど。
私の見た目の話は置いといて、エルフは人浚いから見ると珍しさと美しさとで涎垂ものでもある。撃退は出来るが毎回火の粉を振り払うのが面倒ならば、外ではフードを被ったり耳や顔を魔法で誤魔化したりと目立たないように気を張っていなければならなかった。
なのに、初めて街に入れると浮かれていた私はその事をすっかり忘れて、耳や顔をさらしたまま街中を歩き、さらには騒ぎに顔を突っ込んでしょっぱなからエルフとして目立ってしまった。
街の入口で衛兵のおじさんに冒険者ギルドについて聞き、なんとなくぎこちない対応に気付かぬまま、「お約束だよね~これは登録しないと!」とか思いながら冒険者登録しようと教えてもらったギルドへの道を歩いていた。そしてギルドの傍まで来た時に、小学生を卒業するかしないか位の少年がごろつきにお金を巻き上げられそうになっていた。
それを見て、里でみっちり鍛えられていた私は、すぐに見かけ倒しだったごろつきを魔法を使って撃退した。そこまではまだよかったの。
でも、ごろつきも私と同じく外から来たばかりの奴だったのが問題だった。
野次馬の人達は外から来たばかりのごろつきが実際にはあまり強くないことを知らなかった。だから、相手が動く前に魔法を中ててズタボロにしちゃった私について、「街でいきなり魔法をぶっぱなし、通りがかりの屈強な男を倒したやばそうなエルフ」として話が広まってしまった。フードを被ってなかったから、人相も一緒に広まった。
その結果、気がついた時にはエルフという取っつき難さと広まった噂とから、周りとの関係づくりはほぼ失敗。この世界でエルフとして生活してきた私の口調、というか訛りが少々高圧的になってしまっていたため、街の人に話しかけてもよそよそしく対応され、腫れ物扱い。更には人浚いからもたまに狙われる。ようやく口調を直した頃には話しかけられることもなくなり、遠巻きに見られるように……
それでもと思い、宿暮らしで2月ヶ月は粘ってみた。でも、仲良くなれたのは酒を飲んで愚痴っていた私の話を聞き憐れんでくれた酒場兼宿の女将さんと、行きつけになった喫茶のマスター位。
結局、街での生活はストレスが溜まり、挫折してしまった。
新たな街へ行くことも考えたが、微妙に人付き合いが怖くなってしまったから、新しく人間関係をつくれるのか心配になって止めた。故郷に戻ることも考えたけれど、両親を説得して出ていった手前、故郷の里に帰ろうとも思えない。
結局少しの人間関係が出来たこの街に残ることにし、人付き合いをなるべく避けるため、街外れの森の奥の廃屋を格安で買い取り、修理して住み始めた。
住んでみると見事に人が来ない。寂しい気持ちも有りつつ、誰にも拒絶されないことに安心した。日々の糧は時々ギルドの依頼をソロで受けて鬱憤を晴らしながら稼ぎつつ、里で訓練し過ぎで趣味と化した魔法・魔法薬の研究をし始めてはや5年。
そうして今に至るというわけでしたとさ。後悔先に立たずってね、とほほ……
うぅ……自業自得だろうとは思うけれど、泣いてもいいかしら…?