プロローグは飛ばせません
目の前で起こる事が正直言って、信じられないというか、呆れるというか、よくやるなあと逆に感心してしまう。
よくある釣り動画でもこんなストレートなのは絶滅危惧種なのではないだろうか。
更新されるコメント欄が「www」という草だらけになって、大草原が出来上がっている。
僕もまたそのうちの一人。
だって、これは笑わずにはいられない。
現実味なさすぎるんだもの。
2014年9月27日の今日、全世界に向けてのド派手で盛大でちょっとエロチックな犯行予告という名のテロ宣言がなされた。
日本時間で22時ジャストだった気がする。
下校してPC立ち上げて飯食って風呂入ってPC立ち上げて約3時間ほど煽っていた。
なかなかに相手が食いついてくるのでいい加減鬱陶しくなり、新しいタブを開いて新作SSとお気に入りの社長MADを眺めている、そんな時だった。
ちょうどMADを見終わって、別のタブに目を向けたときニコ生クルーズで変なものを発見した。
タイトルは、『[ム○ュラの仮面]リアルでやってみたwww 』だった。
ム○ュラの仮面とは、まあ説明はめんどいのでkwskはあとでggrksって欲しいところだが、掻い摘んで言うと、主人公がわずか三日間で世界の危機を救ってしまうというストーリーのRPGだ。
僕はそのゲームが発売された当時から神ゲーとして崇め奉っており、以来このシリーズのゲームは予約特典から初回限定盤に至るまでのその全てを購入しており、TAS動画をうpするまでに愛している作品だ。
なので、そんなクリ○アさん大好きっ子な僕がタイトルで釣られるのはもう自明の理だった。
(リアルってなんぞ?)
そんな感じでワクテカしつつこの生放送で降りた。
人気実況者じゃない割に視聴人数は多くて、コメントも多数流れていた。
てっきりライブ実況なのかと思っていたが、画面にはマスクした女性がカメラに向かって何かをくっちゃべっている姿が写っていた。
その女性の姿はやはりというかなんというかマスクしていてもわかるレベルで可愛かった。むしろエロかった。谷間みえてますよおおおおおおおおおおお。
俄然やる気になった僕は、イヤホンを装備し音量を上げキーボードを卑猥な思いのまま一心に乱打しようとし、そこで内容がようやく聞こえてきた。
確か、こんな始まりだった。
「―――てなわけでですね、あ、初見さんいらっしゃーい。ゆっくりしていってね! なんていうかね、やっぱりリアル時の勇者が現れるかどうかは人類史上の最大の課題といいますか。まあ来ないと世界終わっちゃうんですけどね。げらげら。でも、どうも原作レイプしてみたいでそこまで原作に忠実じゃないみたなんですよ。例えば月が落っこちてくるとか現代的に考えてほぼ無理ですし、仮面かぶって変身なんて有り得るわけないって。他にも魔力とか魔力とか魔力とか。げらげら。巨人呼ぶなら104期生集めたほうがボス戦カット出来る分はるかに効率的だろ。げらげら。え、脱ぐわけねーだろ、童貞乙。んでね、最終的に時の勇者ってのは実在するのかってとこに落ち着くわけだ。でも私ね、時の歌って私あんまり好きじゃないんだよね。なんだっけ、アレ。実況者さんの名前忘れちゃったけど、時の歌使わずにほんとに三日間だけで攻略するって動画、ありましたよね? ゼ○伝厨の視聴者さんなら分かりますよね。私、アレ、すっごい好きなんですよ! なんかカッコよくない?」
その辺りで僕は頭の中が急激に冷めていった。
こんなにエロ可愛いのによくいる基地外さんと同系列の人だったなんて、どれほどがっかりしたことか。
でも余裕で守備範囲ですがね。
その間にもダラダラを電波トークを永延と語り続ける彼女に他の視聴者も嫌気が差してきたのか、段々過疎ってきて、はあはあ、とか、ふぅ…、だとかそんなコメントしか流れなくなっていった。
おそらく次の発言がなければ、僕は当然のようにブラウザバックを押していただろう。
「―――よく考えなよ? 三日でこの世界、この世界だよ? 終わるんだから、どうせ。どっかでますかいてる時の勇者さん」
予感めいたものがあったかと言われれば実はそうではないそんなわけないそんなわけあるか!
(ファーwwwwwwwwwwwww)
こんな感じの心境。
確実に電波、確定。
しかし、僕はこんな感じの基地外放送は実は嫌いではなかったりむしろ大好物なのであった。
一瞬の興味を惹かれ視聴続行。
「そんな感じで忠告も済んだことですし、この辺りで生放送を終わりたいって思うんですけどね。まあね、最後だしね、少しくらいサービスしても罰は当たらないかな。攻略の大ヒントを特別にあげちゃおうと思います! わー、88888。げらげら。最初のダンジョン、てゆーか最初から最後まで一貫して同じとこなんだけど、日本がダンジョンなのですね。ほら、世界各国だとダンジョンすらわかんなくなるじゃん。だから、これ、第一ヒントね」
よろしい続けまたえ。
「んで次ね。んーと、なんにしよっかな? ………よしっ! めんどくさい! ヒントおしまいね。げらげら。まあダンジョンが日本だって分かっただけでもかなり攻略、楽になると思うんですけどねー。あ、そうだ。ついでに言っとくと勇者くんは日本人限定なんだけど、それはそのうちわかるから。海外の人とかは残念無念また来週。でも、がめついマップ売りのおじさんにはなれるかもしれませんよ? げらげら」
聞けば聞くほど彼女の基地外さが骨身にしみてきやがる。
とかなんとか思いつつも律儀に彼女の話を聞き僕は真面目に考察を開始していた。
最も、考察もなにもツッコミどころしかない彼女のメルヘンストーリーなど批判くらいしか意見が思いつかなかったが。
気が付けば、コメントは不思議と増えていた。
一部超絶真面目に論理並べ立てて完全論破している長文コメとかいたが、大半は草が生えているかワロタとかそんなコメントだった。
でもノってきたんじゃないか、と心が踊る。
正にメシウマ状態になったその時だった。
彼女は、徐に黒い物体を画面外から持ってきた。
「そろそろいい時間ですね。皆さん、ご視聴ありがとうね。結構面白いコメントとかあったりしてわりとこっちも楽しめたしね。じゃあじゃあ、ほんとのほんとに最期ってことでヒント以外に皆さんにサービスしちゃうぜ!」
ktkr。
黒い物体はおそらくブラいやそうだ間違いないそれ以外信じない。
きっといまから生着替えが始まるんですねむはああああああああ。
おっぱいおっぱいおっぱい。
当然、そんなことは起こらない。
「28日から30日までの三日間、どう過ごすかは人それぞれだけどさ、幸せでいたけりゃ」
ちっ!
はよだせやあああああああああああああああああああああああああああ。
「さっさと死ぬことだよ。じゃあね」
おっぱ………。
え?
え?
そこで画面は暗転した。
音量注意のコメントが流れていないのに、イヤホンからの爆音が僕の鼓膜を痛めつけた。
暗転?
いや違う。
爆音?
いやいや。
起こった事、有りの侭に話すぜ。
さっき取り出した黒の物体をコメカミに押し当てた彼女は、スっとマスクを取って微笑んだ。
一瞬、刹那、どっちなのかはわからないけど、僕がなにか感想とか批判とかそんな類のものを思う前に、コメントが一旦止まって次のコメントが流れ出すその前に。
彼女の頭がぶっ飛んだ。