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山下の厄日の始まり

***

10月も終わろうかという、少し肌寒い日の朝方。

僕が会社に出社すると、仲村さんは仲村さんの同僚であり、僕の上司の櫻井さんに髪の毛をすいてもらっていた。


「あ、山下くん。おはよー」


髪をすいてもらいながら片手を上げ挨拶をしてくる仲村さんに、僕は「仲村さん、おはようございます」と言いながら軽く会釈を返す。

こんな光景は日常茶飯事なので、いちいちリアクションを返していられない。

そして、自分の机まで着くと机の上に当然のように置かれている雑巾みたいなブランケットを持参のビニール袋へ入れる。

恐らく、というか確実に仲村さんの拾って来たゴミだろう。

今日はビニール袋を選んで来て正解だった。と、軽く胸を撫で下ろした。

そして、机の足元にある段ボール箱に目をやると、軽くため息をついた。

段ボール箱の中には、こちらをつぶらな瞳で見つめてくる仔猫が一匹。


どうやら、今日は外れの日のようだ。



僕は、机から立ち上がると、未だに櫻井さんに丁寧に髪をすいてもらう仲村さんに近付いた。


「仲村さん! 僕、あんなに仔猫を拾ってこないで下さい!とあれほど言っていたじゃないですか! なんで…なんで仔猫をまた拾って来たんですか!?」


口を一文字にして怒る僕に、仲村さんは人差し指で頭をかき、困ったように笑った。


「いやぁ、その子が私のことをあのつぶらな瞳で見つめていてね…。可愛いでしょ? その子」


そうして、いつの間にか段ボールから出て来て近くによってきていた仔猫を抱き上げて仔猫を僕に向けると裏声を使って言った。


「ねぇ山下くん。そんなこと言わないで僕を飼っておくれよぉ」


僕は仲村さんのそんな年甲斐もない言動にため息をついた。


「仲村さん…そんな大人気ないことしないでくださいよ。もうすぐ仲村さん、30で…ちょ、蹴らないでください! 痛いです!」


歳を言っただけなのに、蹴られた。なんていう上司だ。

しかし、僕も負けてられない。


「仲村さん、そんなこんなでいつも僕に仔猫さんを押し付けてばっかで…僕の家に今猫さんが何匹いるとおもってるんですか!」


「うーん…2匹くらい?」


「3匹です! さりげなく忘れてるんじゃないですか!」


本当にもう、なんて上司だ。

僕はそこで更にたたみかける。


「たまには仲村さんが仔猫さんを引き取って下さいよー。僕の家は、もう受け入れられませんからね!」


しかし、仲村さんはあっはっはと笑った。笑いやがった。


「何いってるの、山下くん。3匹飼ってるなら今1匹くらい増えたって一緒でしょー?」


「一緒じゃないです」


僕はきっぱりと言い捨てた。

そこで仲村さんはしばらく口ごもると、いきなり大人しくなった。


「私もね、家が猫を飼えるなら飼いたいのよ…。でも、やっぱり飼えないからさ。…餌代はだすからお願い!」


そう言って手を合わせてきた。



うぅ…そんなことを言われてしまっては、断るに断れないじゃないか…。

僕は手を合わせる仲村さんと、つぶらな瞳で見つめてくる仔猫を交互に見て、ため息をついた。


「はぁ…しょうがないですね…。この子で最後ですからね」


そう言うが早いが、仔猫を抱き上げて自分の机に向かった。

仲村さんはその後ろから「ありがとう、山下くんー!」と声をかけてきた。


その声だけでも、本当に満面の笑みで言ってるのだと分かるくらい、明るい声色で。


はぁ、本当に酷い上司だ。

ゴミを拾ってきて、仔猫を拾ってきて、部下にそれをおしつけて。

おかげで僕の家は綺麗に直した元ゴミと数匹の猫の住む猫屋敷と化している。

まぁ、仲村さんと違って、僕はゴミの分別は出来るけど。


そんな風に考えてる僕の口元は、誰にも見られてないだろうが、少し笑っていた。


そう、無茶苦茶ではちゃめちゃで、迷惑な上司の仲村さんだけど。

僕は入社した時から、そんな仲村さんのことが、好きなのだ。


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