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もののけ日誌

三つ編みの娘

作者: 狂言巡

(分かっていた筈、だった)




***




 帰宅時間を過ぎたのに、夜空(よぞら)が帰ってこない。此のぐらいの時間になれば、稽古から帰ってきたヤツは部屋に持ち込んだおやつを食べているというのに。部屋の主は、何時まで経っても来る気配がないのだ。

 仕方がないので家の中をうろついていると、チビが擦れ違い様に声を掛けてきた。


「お、ヤミ丸。お姉ちゃん、おそいよなー」


 私は窓から外に飛び降りた。




***




「おいお前、三つ編みの娘を知らないか?」


 手当たり次第見かけた妖どもに問いかけたが、期待した答えを持つモノは居なかった。

 歩いて、少しだけ小走りになって、仕舞いには全力疾走していた。意識した覚えは無いが、何時の間にか人の姿にとっていた。

 適当な木に登り遠くを見た。

 山に陽が沈みかけている。赤が黒に喰われていく。

 人の声が消えていく。人の姿が減っていく。

 夜が息を吹き返す。闇が、蠢き出す。

 いつも夜空が往復する道に向かっても、彼女の匂いがしなかった。稽古小屋へも足を向けたが、人っ子一人残っていない。

 走って走って走って、走って。不覚にも、草っ原に倒れこんでしまう。月明かりで照らされた其処はまるで深海の様に、仄暗かった。

 ――ふ、と。気紛れの風が運んできた、嗅ぎ慣れた匂い。慎重に其れを辿っていくと、探していた子供は仰向けに倒れていた。

 其の表情はとてもとても安らかで、其の顔色がとても白くて見え、て。何時ぞや此の子供が言った言葉を思い出す。


『ひと は いつか しぬ』


「夜空?」


 返事は、無い。


「夜空、」

「……ん? あ、なんだ、闇丸か」


 近寄って、顔を覗き込んで、名前を呼んで、華奢な肩を揺さぶれば。重たそうに瞼を開いた夜空は、そんな事を言って大きく伸びをした。

 まだ生きて、いた。眠っている、だけだった。(何と人騒がせな!)腹癒せに(ちゃんと猫の姿に戻って)小娘の薄い腹へ落ちてやる。


「重っ……! 酷い、何なのいきなり!」

「この、大うつけが!」

「意味が分からないんだけど……」

「こんな遅くまで外で熟寝ている奴が居るか馬鹿者!」

「……うわ、こんなに暗い。結構寝てたのね」

「せめて一度家に帰ってこい! それから思う存分寝ろ!」

「そうね。このままじゃ風邪を引いてしまうわ」

「……もういい」


 此の私が態態あちこち探し回ってやったと言うのに、夜空は少しも悪びれる事なく淡々と呑気な事を宣い、仕舞いには欠伸まで漏らしていた。(しかも感染った)

 此の侭コイツのペェスでぐだぐだ歩いて帰ると完全に夜となってしまう。少しだけ身体を大きくして、引っ掻かれた事にぶちぶち文句を言っている夜空を背中に放り上げる。そして帰路へ。


「ところで闇丸」

「何だ」

「さっき人の姿に成ってたね?」


 相変わらず妙な所で目敏い小娘だ。


「……外では此方の方が都合がいいのだ」

「……もしかして心配してくれた?」

「有難く思え」


 全く。一寸でも目を離せばすぐ(厄介な)妖ばかりに襲われる此奴は、うかうか一人にさせておくと碌な事がない。心配、したのかもしれない。

 改めて言葉に表すと何故か気まずくなり(猫なので顔になんぞ出んが)、吐き捨てる様に言葉を返すと頭の上から小さな笑い声が聞こえた。(この私を笑いおった……)


「……何が可笑しい」

「ううん、別に」

「さっさと帰るぞ。腹が減った」

「うん……ありがとう」

「気にするな。――お前は私が喰うのだ」

「うん」


 そうだ。

 此れを喰らうのは私なのだ。だから、急に居なくなって余計な心配等してしまったのだ。其れ以外に理由はない。

 でも、何故だろうな。夜空が居なくなってしまったと想像した瞬間、寒気がした吐き気がした終わった目の前が真っ暗になった気がした、のだ。


 其れが何か分かった時、私は悲鳴でも上げるのだろうか。

妖怪×少女とか好きなんです。

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