食う物食うには出す物出さないと
◇
……数分後。
「ったく……。なんで俺が、お前の昼飯を世話せねばならんのだ?」
「いいじゃん。たまには奢ってよ」
魔緒と仁奈が、並んで廊下を歩いている。どうも、魔緒が仁奈に奢らされるようだ。仁奈がいつもよりご機嫌なのは、そのせいだろう。
「言いたくはないけどな、いつも俺ばっかり奢ってる気がすんぞ」
「気のせい気のせい」
そう返す仁奈の笑顔が引き攣ったのは、それも気のせいなのだろうか。
「今日は学食で新メニューが出るんだって」
「あからさまに話題を変えるな」
「なんでも、パンとご飯を組み合わせたものにパン粉を塗して溶き卵で包んで揚げたものをパンでサンドしたんだって」
「炭水化物に炭水化物を組み合わせて油で揚げて、更にパンで挟んだのか……。カロリー高そうだな。大体、溶き卵はパン粉を塗す前じゃないのか? とりあえずやめとけ」
「うん、そうする」
魔緒が先程の会話を忘れたようで、仁奈は内心ほっとした。実際は、追求するのを面倒に思っただけなのだが。
「それと、あんま金ねえから、高いもん頼むなよ」
「はーい」
渋っていた割には、奢る気はちゃんとあるようだ。
「それと、ちょっとトイレに行きたい」
「今じゃなきゃ駄目?」
「駄目だ」
魔緒は、トイレのほうへ足を向けた。
「んもう。女の子連れといてトイレなんて行かないでよ」
「排泄だけは自分の意志で何とかできん」
心なしか、魔緒の歩行速度が速まっているように思える。我慢の限界が、迫っているのだろうか。
「あっ、待ってよ。私もトイレ」
仁奈も小走りして、再び魔緒と並んで歩く。
「女子トイレは方向が違うぞ」
「いいじゃん別に」
「よくない。男子トイレで用を足す気か?」
「あっ、そっか」
おいおい。
「……素で言ってたのか」
「じゃあ私は女子トイレに行って来るね」
仁奈は踵を返すと、大きく手を振りながらトイレへ向かった。
「……大丈夫、なんだろうか」
そんな彼女を、魔緒は不安げに見送りつつ、トイレへと急いだ。