このシーンで何かに気づいても、それを口にしてはいけない
◇
……そして、昼休み。
「ねーねーまおちんまおちん。聞いて聞いて。さっきさあさっきさあ」
「一々繰り返すな」
昼食を摂ろうと弁当を取り出した魔緒の前に、仁奈が現れた。
「だってだって、さっきの物理の問題がね、私のノートに書いてあったんだよ! しかも、答えまでついてたんだよ! 凄いでしょ!」
仁奈は少し興奮気味のようだ。元々こういう性格なのか、それとも前代未聞の事態に遭遇したことがよっぽど嬉しいのか。
「良かったな。そんじゃ俺は飯を食う」
「えー? それだけなの? 他に感想ないの?」
「ない」
「あるでしょもっと色々と! 「仁奈ちゃんラッキー! これも日頃の行いがいいからだよ! 仁奈ちゃんサイコー!」とか、「仁奈ちゃんは奇跡を起こす天才美少女だ! 凄いな凄いなお嫁さんに欲しいな! 一家に一台仁奈ちゃん!」とか!」
「日頃の行いとそいつの評価が切っても切れない関係なのは分かるが、それだけでべた褒めするのは変だし、奇跡と天才と見た目は関係ないし、それとお前は嫁と家電を一緒くたにしてんのか?」
仁奈の飛躍した例示に対し、淡々と突っ込む魔緒。因みに魔緒は、既に弁当に手を付け始めていた。
「まおちんのお弁当、おしいそ」
「やらねえぞ」
いきなり話題が変わっていることには突っ込まないようだ。
「ケチ」
「それを言ったからといって、何かが変わったりはしないぞ」
確かにそうだ。