この事件の真相は、この話では明かされないので予めご了承ください
◇
……そして、物理の授業。
「それでは、次の問三の問題を―――」
教師が黒板に公式を書き連ねていく。それをつまらなさそうに見る魔緒と、手を組んで祈りを捧げている仁奈、それとその他真面目な生徒達。どこの学校でも見られる普通の授業風景だ。
教師は教室を見渡して、目線を一人に向けて固定した。
「それじゃあ楠川さん、前に出て解いて下さい」
「うっ……」
指名されたのは仁奈。折角の祈りも虚しく、当てられてしまった。しかも彼女、物理が苦手なだけでなく、教科書を忘れてきているのだ。つまり、問三とはどんな問題なのか、それすら分からない。
そんな仁奈の様子に気づかないのか、教師は無言で彼女を促す。それにただ、たじろくだけの仁奈。そんな様子にざわつく教室。しかしそんな状況でも、救いの神は舞い降りる。
「あれ……?」
ふとノートを見てみると、そこには何故か、問三の問題文が書かれていた。しかも答えや、ご丁寧に途中式まで書いてある。
訝る仁奈だったが、都合よく指定された問題とその答えが載っているのだ。ここは存分に利用させてもらうしかない。
仁奈はノートを手にして黒板の前に立つと、物凄い速さで内容を書き写した。それはもう、コピー機のように、素早く、正確に。
全て写し終えると、仁奈は自分の席へと戻っていった。
「ま、まあ、大体いいでしょう……。では、解説に移りますが―――」
教師が解説に移ったところで、仁奈は机の上に突っ伏せた。
何とか危機を回避することに成功した。だが仁奈は、気づかないで居た。いや、気にも留めていなかった。―――誰が、どうやって、彼女のノートに問題とその答えを書いたかということを。