ハートマークって文字化けしそうだよね
◇
……昼休み。
「陰陽魔緒、いるかしら?」
七海が教室に入ってきた。
「お前なぁ、何他所の教室に来てんだよ?」
それを、露骨に嫌そうな表情で迎える魔緒。
「あら、他所のクラスに来ちゃいけないなんて校則、ないと思うわよ」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、どういう問題よ?」
魔緒は額を押さえて、頭痛を堪える。先日の一件以来、七海は毎日のように教室にやって来るのだ。だがその度に、仁奈の機嫌が悪くなり、無用ないざこざを起こすのだ。それだけならまだしも、魔緒もそれに巻き込まれてしまう。つまり、それだけ魔緒の苦労も増えるということだ。
「とにかく、用もないのに来るんじゃねえよ」
「用ならあるわよ」
「何だよ?」
訝る魔緒に、悪戯っぽい笑みを向ける七海。そんな二人を見ていた他の生徒は、七海の意外な一面を目撃して驚いたり驚かなかったり。
「貴方に会うっていう用事がね」
語尾にハートマークを付けたくなるような調子で、ウィンクをする七海。
「気色悪いっての」
不愉快だ、と言わんばかりに吐き捨てる魔緒。
「もう、照れちゃって」
「お前、キャラが変わってるぞ」
キャラ崩壊は深刻な問題だ。
「そんなこと言ってたら、人は変われないのよ」
「とりあえず、今は変わらないでくれ」
そうしないと、後の展開に響く。
「で? 何で貴方は私のことを嫌うのかしら?」
キャラが戻ったようだ。良かった。
「お前は……、何というか、その……。あれだ、あれ」
魔緒にしては珍しく、煮え切らない態度だ。
「何よ?」
「特に理由はないんだが……」
「ないの?」
「それでも、強いて挙げるとすれば……」
「すれば?」
魔緒は少し躊躇いつつも、
「波長が合わない」
具体性の全くない、しかしそれ以上具体的に表現できない理由を述べた。
「そうかしら。私は結構気が合うと思うけど」
「気は合っても波長は合わない」
そして、それは本心のようだ。
「まあいいわ。今日はあの子もいないみたいだし」
七海は諦めたように首を振ると、周りを見回した。
「そういや、お前に訊こうと思ってたことがあるんだが」
「何かしら? スリーサイズ以外なら教えてあげるわよ」
それ以外は何を訊いてもいいのか? と思う魔緒だが、話が脱線するので突っ込まないでおいた。
「お前と楠川、何で仲悪いんだ?」
「……」
その問いに、七海は押し黙った。
「どうした? 答えてくれるんだろ?」
魔緒が茶化すように言うと、七海は口を開いた。
「仲が悪い訳じゃないわ」
「そうかよ」
二人とも、同じ答えだ。
「ま、俺の知ったことじゃないんだがな」
魔緒はそう呟くと、どこかへと立ち去った。
「……さすがに、気づかない訳がないわよね」
一人残された七海は、そんな言葉を、意味有り気に呟いて。
その表情が、哀愁に満ちているような気がして。
そんな七海を、遠くから見ていた者がいて。
話は、更にややこしくなりそうだ。