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  ◇


 ……放課後。


「あれ? 帰らないのまおちん」

 教室には、仁奈と魔緒が残っている。他の生徒の姿はない。

「その前に、やることがあるからな」

「やること?」

「昨日のこと、お前も気になるだろ?」

 昨日のこと。即ち昨晩のことだろう。それが分かったのか、仁奈はそれ以上何も言わなかった。


  ◇


「……見つけたわよ。陰陽魔緒」

 数分後、七海が教室にやって来た。

「やっと来たか」

 待ちくたびれた、とでも言いたげな魔緒。

「……」

 一方、仁奈は黙りこくっている。

「説明してもらうわよ。昨日のこと、貴方のこと、全部」

「いいぜ。俺に答えられることならな」

「じゃあ早速、聞かせてもらうわ」

 七海は少し間を空けると、再び口を開いた。

「貴方は、何者なの?」

「何者なの、か」

 魔緒は少し考えると、

「それはどういう趣旨の質問だ? 質問の趣旨が分からんと答えようがない。国籍を問われれば、日本人だと答えることができる。年齢を尋ねられれば、十五だと答えられる。だが、何者かと問われても答えようがない」

「……捻くれ者」

 七海は小さく呟くと、

「訂正するわ。貴方は、貴方と魔似耶は、一体どういう関係なの?」

「訊き方があれだが……、まあいいか」

 魔緒は、色々と突っ込みたい衝動を堪えつつ、

「ぶっちゃけ、俺も全部把握していないのだがな。俺が魔似耶について知っていることは少ない。まあ、喩えるなら二重人格ってとこだろうな」

「なるほどね。簡潔な説明をありがとう」

 かなり手抜きな説明に、軽く頷く七海。

「じゃあ二つ目の質問、いいかしら?」

「いくらでも」

「そう。それじゃあ今度は、貴方が人を殺している理由を聞かせて貰おうかしら」

 遂に来た。今まで二人を静かに見ていた仁奈は、心の中で呟いた。それこそが、仁奈が、仁奈と七海が一番訊きたかったことだ。

「それについては魔似耶が話したと思うが……。改めて聞きたいというなら説明してやる。耳の穴をかっぽじって良く聞け」

 そう言われて、素直に耳の穴をかっぽじる仁奈。

「まず、この世界の構造からだ。この世界には、俺らの体を形作る物質の他にも様々なものがある。魔術を行使するために必要なマナや、魂を形成する霊質がな。これは、どっかの無名な学者が出したっていう論文の概要だ。周りには相手にされなかったらしいが、実際はかなり正確な説だ」

「そんな妄想癖に付き合うつもりはないんだけど?」

「そう焦るなよ」

 あまりに突拍子もない話に、さすがの七海も馬鹿馬鹿しくなったようだ。仁奈に至っては、もはや論外だ。

「つまりだな、人間の体は物質、霊質、そしてマナで構成されている。そのバランスが崩れると、人間も壊れる。肉体的にも、精神的にも」

 要するに、栄養バランスが崩れた状態。体がおかしくなるのも無理はない。

「それが、亡者の正体?」

「ああ。奴らに理性なんてものはないからな。ゾンビと大差ないさ。放っておけば、人々を殺して回るだろうな」

 何とも、現実味のない話だ。魔術がどうの魂がどうのではなく。それが原因で人がおかしくなるなどと、いきなり言われても実感なんか湧くはずもない。

「なんか、狐につままれた気分だわ」

 七海は、頭を振りながら呟く。

「聞きたいのはそれだけか?」

「ええ、もういいわ。これ以上聞くと頭がパンクする」

 額を押さえ、目を瞑る七海。眉間に皺が寄っていることから、脳の処理が追いついていないのだろう。

「そうか。なら楠川、お前はどうだ?」

「へっ?」

 完全に蚊帳の外だった仁奈は、突然名前を呼ばれて変な声を上げた。

「お前は何か訊きたくないのかと言ったんだが……、ないならいい」

「えっ? ちょっ、ちょっと待って!」

 呆けていた仁奈は、慌てて声を上げ、思わず転びそうになる。

「答えてやるから、少し落ち着け」

「……う、うん」

 深呼吸をする仁奈。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。

「えっと、まおちん」

「何だ?」

「えっと、えっとね」

 もったいぶるようにもじもじする仁奈。

「まおちんは、ほんとにまおちん?」

 そして、躊躇いがちに、そう問うた。

「またそれか」

 一方魔緒は、やや呆れ気味に呟く。

「だって……、まおちんがほんとにまおちんなのか、不安なんだもん」

 仁奈は、瞳を潤ませながら、そう言った。

「ったく、お前のことはよく分からん」

「答えて、くれるんでしょ……?」

「分かった。答える」

 魔緒は暫し考えた後、

「俺自身は変わっていない。少なくとも、俺がお前に会ってからは一度もな」

 そう答えた。

「……良かったぁ~」

 ほっと胸を撫で下ろす仁奈。

「それだけか? それなら俺は帰るが」

「あっ、うん。またね、まおちん」

「じゃあ、私も帰るわ」

 魔緒と七海が立ち去り、仁奈だけが教室に残った。

「……ようし、私も頑張ろ」

 そして、彼女も教室を去った。

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