◇は時間が経過したことを示し、
◇
そして仁奈は、夜の学校へとやって来た。律儀に制服も着ている。
校門は鍵が掛かっていたので―――誰も見ていないのをいいことに―――よじ登って乗り越えた。
幸い、校舎の入り口の鍵は掛け忘れてあった。……この学校のセキュリティは大丈夫だろうか。
「……うぅ~、夜の学校って思ったより怖いなぁ」
いつもはどうということもない校舎。だがそれは、昼間の話だ。夜は当然のことながら、辺りは真っ暗。民家や街灯からも遠く、おまけに今日は新月である。非常口などの灯りも、壊れているのか点灯していない。そんな中、星が出ているのが唯一の救いか。
とは言っても、無人の校舎は彼女の恐怖を煽る。本当に人がいないならいいのだが、「誰かがいるかもしれない」と思えてしまう。そのいるかどうかも分からない誰かが、どこかから現れたら。と、怯えているのだろうか。
「幽霊とか、でない……よね?」
尋ねられても困る。というか、そっちに怯えていたのか。
そうこうしている内に、仁奈は教室へと辿りついた。途中、何度か転んだことは、敢えて言うことでもないだろう。
「……失礼しまぁす」
無人の教室に入るのに、態々そんなことを言わなくてもいいだろう。それとも、本当に幽霊が出ると思っているのだろうか?
仁奈は、音を立てないように注意しながら、自分の席へと向かう。
机の中から宿題の問題集を取り出し、持参した鞄に入れる。
目的を達して、素早く教室から出る。
一つ目と二つ目の動作を行うのにそれぞれ五分も掛け、三つ目の動作を行うのに十秒も掛からなかった。それはつまり、全身の神経を集中させた直後に全力疾走をしたわけだ。
そんなことをすれば、血管や心臓はかなり消耗しただろう。それらを回復させるために、周囲への注意が希薄だったとしても不思議はない。更に、彼女は幽霊に怯えていた。故に―――
「いやぁぁぁぁぁ!」
「ひぃぃっ!?」
思わず飛び上がってしまったとしても、誰も責めたりはしないだろう。