表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

第五陣

「小次郎!魂玉段階弐式!」


小次郎の背中にある刀の氷が大きく膨らみ砕け散って出てきたのは違う刀だった、反りの大きい刀が左右についていて切っ先は一つになっている、さながら猫の瞳のような形をしている、長さは先ほどと大差はない。


神牙凍刃じんがとうじん


魂脈の増幅率に経達は恐れをなすほどだった、魂脈の量が上がれば上がるほど力があると言っても過言ではない、次郎のそれは経と巴嘩が今までに体験したそれとは大きく違った、魂玉段階弐式というのは魂脈の流れを無理矢理増幅させ更に強力な魂玉を実体化させるもの、魂玉との同調率と魂脈の流れを無理矢理速くする精神力が必要となる。


「義経、あんなことホントに出来るのか?俺も出来るようになるのか?」


『それは経殿しだいだ、同調率は十二分だがまだ魂脈の使い方が荒い、今一番近いのは巴嘩殿だろう』


経は若干落ち込んでいる、巴嘩が慰めて意識を二人の戦いに戻す、次郎が刀身に触れると猫の瞳の空間に液体が膜をはった、それは切っ先から流れ落ち地面を凍らしてしる、次郎が横に一振りすると液体が刃となって武志を斬りつける、そして傷口があっという間に凍っていく。


「この液体は‘窒素’だ、当たれば確実に凍る、死なないのは分かるが動き難くはなるだろ」


これが弐式の力、只の適合者なら即死レベルの攻撃をいとも簡単に放つ次郎の力、経と巴嘩には鬼にも神にも感じられた、次郎は刀を片手で持ち振り回す、全てが液体窒素の刃となって斬りつける、武志の体の周りには炎が渦巻いているがいとも簡単に消してしまう、そして体が凍っては再生、凍っては再生を繰り返している、力の差は歴然だが勝てない、それが今の戦いだ。


「次郎さん、コイツは分子単位にまでしないと死にません!再生能力は尽きません」


次郎は舌打ちをする、経の介入ではなく武志の不死身に嫌気がさしたのである、肉体的には疲れていないが精神的に疲れがきていた、普通の人間なら今頃は跡形もなく斬り刻まれているだろうが武志は再生を繰り返してそれをしのいだ。


「次郎さん!コイツを魂脈ごと凍らせませんか?そうしたら俺が壊しますから」


「チッ、しょうがない、出来るから準備しとけよ」


次郎は斬撃をやめて武志の懐に飛込んだ、移動速度も格段に上がっていて経ですら走るのでやっとのスピードだから武志には見えていないだろう、亜光速で完全停止をして振り下ろす時は下の刃で、振り上げる時は上の刃で右腕・右足・左足・左腕の順番に斬り落とす、そして背中から倒れて両腕両足が再生したところで技名破棄で氷の杭を頭・両手・両肘・腹・両膝・両足に打ち付け動きを封じる、そして距離をとり武志が氷の杭を溶かすより先に技を放つ。


「氷人形・永久凍人ひょうにんぎょう・えいきゅうとうじん!」


武志が真っ青に凍りついて動かなくなった、恐らく体から脳、魂脈にいたるまでを凍らしたのだろう、しかしまだ動かないだけで生きている、相手の動きを封じるだけの力しかない、ここからは経に魂玉を壊す作戦があるらしい、魂玉はどれだけ重い物で打ち付けようがどれだけ熱い物でも壊す事が出来ない完全物質だ。


「経どするつもりだよ、まさか魂玉を壊すつもりなのか?」


「そのまさかですよ、魂玉で魂玉を壊すんですよ」


「義経みたいなスピード系の装備型で出来るわけないだろ」


「なにも俺の魂玉は義経だけじゃありませんよ、なぁ‘弁慶’」


『久しぶりですな若!やっと拙者の出番が来たんですか?御曹司ばかり楽しい思いをして退屈だったんですよ』


若とは経の事、御曹司とは義経の事だ、普通適合者一人につき魂玉は一つしか取り付かないはずだ、しかし経は異質で義経の元を死んでも離れなかった弁慶は義経が取り付いた経に取り付いた、二つの魂玉を受け入れられる事も経が王候補の所以でもある。

武蔵坊弁慶、五条大橋で平家の刀を奪っていた時に牛若丸(のちの義経)に負け付き従う事に、義経を自害させるために頼朝軍の弓を受けなお立っていたという逸話がある、これを有名な弁慶の立ち往生という。


「魂玉変えるだけで壊せるのか?」


「まぁ見てて下さい。弁慶!金剛砕玉こんごうさいぎょく!」


経の手には長刀が握られていて、長刀は短い柄に大きく歪な形の金剛石ダイヤモンドの刀身がついている、経は担ぐような状態で持っていたのを両手で持ち上げた。


「金剛魂玉一刀粉砕!」


金剛石が真っ赤に染まり上段から振り下ろして武志の魂玉に当たったと同時に大きな光を放って粒子と化した、そして魂玉が無くなり暫くすると魂玉と同じように武志も粒子と化した、次郎はさほど驚いていないが経と巴嘩はショックを隠しきれないようだ、武志が死んだ事よりも武志が粒子と化した事がショックだったらしい。


「何で粒子になったんですか?武志の精神が崩壊してるだけなら只の肉塊になって終わりですよね?」


「お前ら知らないのか、適合者と魂玉は言わば一身同体だ、どちらかが無くなればもう一方も無くなる」


経は柄にもなくショックを受けていた、魂玉を壊すつもりだったから死ぬのは分かっていた、しかし実体が無くなるとは思っていなかっがタメに死ぬのには変わらないがショックも大きい。

経が落ち込んでいると経達から20mほど離れた所に亀裂が出来た、何も無い場所に2mほどの縦に割れてそこから人が現れた、襟の高い大きめのジャージのファスナーを上まで上げて口は見えない、サングラスをつけて長い髪の毛、顔が確認出来ない変な男が出てきた、顔の見えない男は粒子と化した武志を見て亀裂に帰ろうとした。


「おい!誰だよお前、この前の歳那とか勇治と同じような奴なのか?」


「フッ」


鼻で笑って亀裂に入って行った、そして向き直して経達の方を向いて何とか聞き取れるような声で言った。


「お前ら、強いか?」


「やってみるか?」


経は挑発をした、相手が挑発にのるほど馬鹿ではないと分かっているが、出てきたらもうけレベルだ。


弱犬程良吠じゃくけんていりょうぼ


そういって亀裂を閉じた、三人は理解できなかったらしい、発音だけ聞いて分かる人間はいないだろう、煮えきらないまま空き地を後にした。



経達が家に帰るとしんみりした空気になった、次郎は疲れているのもあるがいつもの明るさはない、あれだけの戦いをした後だから当たり前だろうが考え込んでるっていうのもあるだろう、経と巴嘩は武志と次郎の関係が気になっていた、しかし巴嘩は兎も角経にも遠慮というものがあったらしい、何があるかは二人には分からないが穏やかな次郎があれだけの殺気を放つ原因が気になっていた。


「二人とも俺と武志の関係知りたい?」


次郎は全てお見通しだったらしい、経の反応を見ると的を射ていたらしい。


「え、んまぁ、教えてくれるなら知りたいです」


「まだ俺に小次郎が取り付いてそんなにしない頃だったかな、異端相手でやっとだったころに彼女がいたんだ、二人で一緒にいた時に武志が現れたんだ、まだ生体反応の感知もままならなくて武志が適合者だって理解できなかった、そんで気付いた時には彼女の首から上が無くなってた、俺は怖くて指一本動かす事ができなかったんだ、アイツはその場にいた奴ら全員を殺して回ってたけど俺だけは殺さなかった、理由は分からないけどその時復讐を誓って今日に至るわけ」


経と巴嘩は言葉を失った、次郎は淡々と話しているが自分の無力さと情けなさを悔いていた、経は慰めの言葉などをかけようとしたが何も思い浮かばない、経を見かねて次郎がこの空気を破った。


「過ぎた事だから気にしなくて良いよ。それより今大事なのは亀裂から出てきた男だ、アイツが適合者なのは気付いただろ、恐らく武志の知り合いだろう、そして歳那と勇治とやらと同じようなものだと思う」


「ってことは、敵?」


「そうだな、今回のは武志の独断で動いたんだろうが次は本格的にそいつらと戦う事になるだろう。それでだ、ココからが本題だ……」


次郎のさっきまでの険しさが消えて不適な笑に変わった、さながらビジネスか何かを持ちかけるような、話を一旦中断してポケットからタバコを取り出して口にくわえて火をつけた、煙を吐き前のめりになりタバコを経と巴嘩に向ける。


「お前らにも魂玉段階弐式までいってもらわないと話にならない、恐らくこれから戦う奴らは段違いの強さだ」


「俺らが…」


「弐式に?」


困惑を隠しきれないようだ、当然だろう、経と巴嘩が感じた次郎の魂脈の流れは異常なものだった、そこまで自分達が達するのかという不安と新たな力への期待が入り混じっている、しかし次郎には何か秘策があるらしい。


「とりあえず明日、俺と手合わせしてもらう、当然魂玉でな」


「「はい!」」


二人は気づいていなかった、これからの地獄の修行と魂玉段階弐式の遠さを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ