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第三陣

巴嘩と経は強くなるにはどうするかという悩みを解決するために修行なるものを行なっている、学校が終り誰もいない廃屋が修行場となっている、体育館ほどの広さがある空間に木刀と木製の長刀の音と適合者にしか聞こえない声が響く。


『経殿、踏み込みが甘くなってる、スピードにのらなければ力が入らぬぞ』


『巴嘩ちゃん、腰に力が入ってない、練習とはいえ相手を殺す気でかからないと意味がないわよ』


経が横から右手で打ち込もうとするがいとも簡単に止められてしまった、しかし左手で打ち込もうとした時だった、強引に巴嘩が長刀を振り抜いて経を飛ばす、体勢を崩した経に間髪入れずに乱れ打ちする、しかしいくら体勢が崩れてるとはいえ連撃で経に勝てない事は巴嘩も分かってる、一発一発が力を持っているので経も防戦一方だ、経が再びよろけたのを巴嘩は見逃さなかった、力一発上段から叩きこんだ、しかし経は地面に突き刺さった長刀の上に乗って木刀で頭に触れた。


「俺の勝ち。12勝9敗だな」


「ちぇ、経ちゃん速すぎ、体勢崩すだけで精一杯だよ」


「巴嘩の馬鹿力にもビックリだよ、9敗の内7回は木刀が折れたせいだから、それ以外でも15本も折ってるだろ」


『それで良いんだよ、経殿のスピードに巴嘩殿がついていければ弱点の克服になるし、巴嘩殿の力を抑えきれれば然り』


この修行はその意味もあった、お互いが正反対なタイプなだけにお互いを触発して更に効果が出る。



経と巴嘩が一休みしてると一人の来訪者が現れた、逆光で姿は分からないが身長は190前後、扉に寄りかかってタバコに火を付けた後に近寄って来た、扉が閉まって屋内にある光のみになった時に顔が初めて理解出来た、長い髪の毛は毛先がはねていて前髪は頭頂部で留めていて真っ黒、きれた細い目に大きな口、二人はこの人物に見覚えがあるらしい


「次郎さん!」


「楽しそうな事してるね〜、俺も交ぜてよ」


次郎こと阿刀田次郎あとうだじろう、二人の兄貴分で武者魂玉の先輩でもある。

取り付いた魂玉は佐々木小次郎、‘物干し竿’と呼ばれた長い刀を持ち、素早い二撃の‘燕返し’という技で相手を圧倒した、有名な巌流島の決戦で戦死。

次郎も同じような戦いかたをする、スピードで相手を圧すタイプだ、故に経と次郎の二人が戦うと巴嘩ですら捉えきれないスピードとかす。


「次郎さん、久しぶりに手合わせお願いします」


「良いよ。じゃあ小次……」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとタイム!」


経は全身全霊をかけて次郎を止めた、さながら獲物を見つけたチーターのような速さで


「今回は魂玉抜きの木刀のみで、基礎のみの修行なもので」


「でも俺木刀嫌いなんだよ、短いから間合いが分かりづらいんよ」


『僕も同感です、あんな短いものでは如何せん気合いが入らないんですよね』


小次郎が間に割って入る、次郎の魂玉は装備型、それに刀の長さが2m近くになる大刀故に木刀では届かないということがしばしば


「お願いします!俺の修行のためにも」


「しょうがないな、今度は魂玉でやろうよ」


「はい!」


経と次郎は始まると同時にその場から消え10m近くある天井の付近に現れた、只の連撃が五月雨の如く降り注ぎ、巴嘩は木刀を捉える事だけでやっとだ、しかし二人は地上に降りると更に素早くなった


「凄いね」


『二人ともスピードなだけに一発はないけど防ぎきるのは至難の技ね、豪快な巴嘩ちゃんには防ぐだけで精一杯よね』


「しかも経ちゃん、スタイルを変えて攻撃してる、舞うように叩き込んだり、キツツキみたいに突いたり、経ちゃん凄い」


経は素早いだけではなく、いろいろなパターンやスタイルを考えていた、巴嘩相手の場合はどうやって相手に‘連撃’をいれるかだった、しかしスピード同士となるとどうやって‘一撃’をいれるかだ、力の場合相手の隙をついて連撃を加えないと一発だけではごり押しされたら簡単に反撃を喰らう、しかしスピードの場合は相手に一撃でも当たればスピードは衰える、故に流れるような連撃や意外性が必要となる


「速くなったね、俺が木刀とはいえ一発も当てられないなんて」


『経殿、力み過ぎだ、もう少しリラックスしないと対処が遅れる、しなやかにそして機敏に』


義経と次郎のアドバイスで少しずつではあるがスピードが上がっている、それに巴嘩との修行のせいか強い一撃を喰らった時に体勢を崩さなくなっている、確実に修行の成果は出ている。


「経、強くなったよ」


「余裕ありますね、でも、次郎さんの首とるのも近いっすね」


「そうかな?」


次郎は経の腹を蹴って体勢を崩して上段から素早く無駄の無い動きで一撃、更に間髪いれずに下段からの切上げ‘燕返し’だ、経は木刀で防ぐ余裕が無くバックステップで後ろに避けた、その後素早く切り返し相手の懐に飛込む、右手の木刀は次郎の喉元にあった。


「へぇ〜、やるじゃん」


しかし経はその場に木刀を落とし座りこんだ、経の顔に安堵の色は無い。


「負けました!完敗です、やっぱり次郎さんは凄いや」


「えっ!?何で?経ちゃん勝ったじゃない、次郎さんの木刀は切上げたままだったし、切っ先も触れて無かったよ」


巴嘩は目先の事だけにとらわれ過ぎていた、経はこの修行の形式も、次郎の魂玉の特性も全て知った上での敗北宣言だった、経は実際の戦いだったら何回も死んでいる事も把握していた、最も魂玉には属性攻撃というものがある故に今と違った戦いになるのは明らかだが


「ねえ、巴、何で経ちゃんは負けたの?むしろ圧してるようにも私には見えたんだけど?」


『巴嘩ちゃん、これは木刀同士の試合、これが魂玉同士の戦いで全く同じようにやってたら経は死んでたわ』


「だから何で?」


『次郎の刀を見たことあるでしょ、経がギリギリで避けたのは、実際だったら経は二人になってたわよ、特に最後の燕返しは完璧に死んでたわね』


「そっか、今私達がやってるのは基礎の修行だもんね、実際はまた違った内容になってくるんだ」


『でも基礎がなければどれだけ優れた魂玉でも、ただのおもちゃよ、適合者の力があって初めて意味を成すものなの』


巴嘩は腕を組んで頭を大きく縦に振って納得した、経は力を使い過ぎたのかその場でヘタってしまった、すっかり体力の回復した巴嘩は長刀を持って次郎の前に行った。


「次郎さん、私も手合わせしてもらって良いですか?」


「おう、良いよ」


巴嘩はお辞儀をした後構えるでもなく経の側に行き、そして経の首を掴んで小動物ように軽々と持ち上げた


「経ちゃん邪魔、それと、ちゃんと受け身とってね」


「えっ?はぁ!?おい!!」


経は気づいた時にはハンドボールのように飛んでいた、経はなんとか受け身をとって巴嘩の方を見ると巴嘩は笑って手を振っている。


「じゃあ行きましょう、とその前に、木刀変えた方が良いですよ、危ないですし」


「大丈夫だよ、ささくれも出来てないし、悪い所も見当たらないし」



「どうなっても知りませんよ!」


そういって巴嘩は飛込むととっさに次郎は受け太刀をした、しかしいとも簡単に木刀が楊枝のように折れてしまった、次郎は身をのけぞらせて何とか避けた、その後瞬間的に新しい木刀を取ってもう一本腰にさした


「だから言ったじゃないですか、一試合ごとに代えないと危ないですよ」


「経、いつもこんなのと相手してるのか?」


「そうっすよ」


「強くなるわな」


そういって今度は次郎の方から飛び込んで言った、胴に叩き込むはずだったが長刀がそれを許さなかった、それどころかそのまま強引に弾き飛ばされた、そして次郎が着地する前に追いつき上段から振り下ろす、次郎は半身で受け太刀をして回転を利用して踏みつけて長刀を地面に刺す、長刀の上に乗ったところで腹を掌で押され飛んで行った


「同じ手は二度と喰らいません」


「じゃあこれは新しいパターンか」


気付くと巴嘩の喉元に木刀が当てられていた、しかし次郎の腹にも長刀の先がついていた


「これも前にありました」


「相打ちか、やるね巴嘩ちゃん、前とは段違いに強くなってるよ」


「ありがとうございます!」


巴嘩はスキップをしながら経のもとに行った、理由は相打ちの自慢をするために、巴嘩の場合は完全な相打ちだったから今回は巴嘩に軍配が上がった、その二人の様子を次郎は親のような目で見ていた、知らぬ間に強くなってた二人に喜びを感じていた。


「小次郎、二人とも強くなったね」


『そうですね、その内本格的に負けるんじゃないんですか?』


「大丈夫だよ、今回は木刀だし、属性攻撃があればまた違った感じになるだろ」


『楽しみですね、経さんは特に王になる存在ですから、いろいろな意味で人とは違いますからね』


「アイツの魂玉の事か?」


『はい、彼は特殊です、彼みたいな例は聞いた事がありません、可能性を秘めた存在ですね』


次郎は笑ってタバコに火を付けて、夕焼けの街に帰って行った、その後日が暮れるまで二人の修行は続いた、次郎が帰った事を忘れるくらいに。

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