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第三十八陣

経の刀が肉を貫く、血が飛び散り服を真っ赤に染める、血は刃を伝い地面に滴り落ちた。

経の顔は達成感に満ちている、巴嘩は力なく瞼を開けた、巴嘩の目には笑っている経、そして想像を絶する光景。

経の右手は振り上げられたまま、そして右腕は刀によって貫かれている、刀を握るのは経の左手、経は自分の右腕を止めるために刀で自分の腕を突き刺した。


「ハァハァ、大丈夫、だな」


「経ちゃん、何で?」


「ちょっと邪魔されて遅くなった、ほら、あと少しすれば巴嘩も動けるようになる」


「経ちゃんの傷は?」


「痛みはシャットダウンした、だから大丈夫だ」


巴嘩の感覚は戻ったが、まだ体は上手く動かせない、経の傷は痛覚をシャットダウンして止血した。

意識を完全に取り戻した経は信征に向き直った、その表情は怒りに満ち溢れ、強い殺気を放っている。

信征は驚きを隠せないでいる、取り付かれて自我を取り戻した者など皆無、しかし経はそれをやってのけた。


「何故だ!何故自我を取り戻した!?」


「根性!プラスお前への怒り」


「馬鹿な、そんな事が出来るハズがない」


「出来ちゃうのが俺の凄いところ、凄い奴に殺された方がお前も満足だろ?」


「馬鹿にするな!」


信征は怒りを露にした、今まで余裕の表情だったが今はその片鱗もない、経も怒りを隠せなかった、自分に巴嘩を襲わせた怒り、そして巴嘩を襲った自分への怒り。


「何かお前に変な事されてから力がみなぎるんだよ」


「無駄な事だ」


「試してみるか?最強の適合者の力を」


経は片手を地面に水平に上げた、強い風が室内に吹き荒れる、そして風は徐々に縮小され、手のひらに納まる風の球体と化した。

左手を水平に上げると地面から金剛石の柱が隆起する、経がそれに触れると柱にヒビが入った、柱が砕け散ると手の平には金剛石の球体がある。

経はその二つを胸の前で合わせた、凄まじい暴風と金剛石の砂塵が舞う、そしてそれが縮小されて経を完全に覆った、強い光りを放つと爆発に似た暴風が起こる。


「義経!弁慶!魂玉合体!武僧遮那ぶそうのしゃな!」


砂塵から現れたのは京帷子きょうかたびらを来た経、背中に二振り、腰に二振り、腕に二振り、股に二振り、計八振りの刀を纏っている。


「魂玉合体だと?そんな事が有り得るのか?」


「ごちゃごちゃうるさい、遺言なら聞いてやる」


「吠えてろ」


経は鼻で笑うと腕の二振りを抜刀した、刀の刃はダイヤモンドで出来ていて、鍔はない、刀は真っ赤に光り始めた。

経は一瞬で信征の懐に潜り込む、斬りかかろうとした時、球体に阻まれた、球体は刀に当たった瞬間に球体は砕け散る。


「なっ!」


「驚いてる暇は無いぞ」


経の連続攻撃を球体で防ぐ度に球体は砕け散る、信征は球体を増やしながら防いでいるが確実に間に合わない。

経は地面を強く蹴ると信征の目の前から消えた、経は信征の横を通り後ろに行くと、球体を利用して折り返す、そして勢いを殺さずに振り向いた信征の顔面を蹴り飛ばした。


「グフッ!」


信征は軽々と吹っ飛ぶと壁に叩き付けられ止まった、経は笑を浮かべながら力なく座り込む信征を眺める。


「私に一撃を与えた事は誉めよう」


「じゃああと百発くらいでもあててやろうか?」


「その言葉、そっくりそのまま……、そこの女に返してやるよ」


信征の球体は巴嘩の方に飛んで行った、巴嘩は感覚が戻ったばっかりなので、思うように体が動かない。


「卑怯だぞ!」


「知らぬ、どちらにしろ死ぬのだ、今か後かの差だ」


経は巴嘩の方に跳んだ、何とか間に合ったが、刀で弾くだけの体制を整える余裕がない、経は背中に球体を当てて巴嘩を守った。


「ガハッ!」


「経ちゃん!」


「大…丈夫」


「ハハハ!自分が盾になるとは、つくづく馬鹿だな」


信征の球体は止まらず、経の背中を何度も殴る、経の口からは血が流れ、巴嘩に滴り落ちる、巴嘩の頬は涙と同時に経の血が伝っている。

経が倒れた時、巴嘩はやっと動けるようになった、経を葉で覆い回復させる、巴嘩は両手に刀を逆手で持ち立ち上がる。


「お前が戦うのか?」


「時間稼ぎなら私でも出来る」


「お前じゃ不可能だ」


「試してみなきゃ分からないじゃない」


「なら死んでみろ」


巴嘩は強く地面を蹴ると信征の方へ飛込んだ、右の刀を横薙に斬りつけようとすると、信征の球体が邪魔をした。


「はあぁぁぁぁぁぁ!」


巴嘩は力ずくで球体を地面に叩き落とし、信征に斬りかかった、信征はギリギリのところで避ける、巴嘩は落とした球体を持ち上げ無理矢理信征に投げつけた。


「なんて無茶苦茶な戦い方なんだ」


「この無茶苦茶な戦い方が貴方の恋人を倒したのよ」


「恋人?秀美の事か?アイツもただの駒にすぎない、恋心は一番操りやすい感情だ」


「……………酷い」


巴嘩はうつ向き、肩を震わせながら涙した、巴嘩には敵ながら秀美の気持ちが痛いほど理解出来る、その気持ちを知った時の秀美が可哀想に思えてきた。


「あの人は貴方の事を本気で愛してた!」


「駒が主君に恋愛感情を抱く事は少なくない、それを利用するのも一興だ」


「人を大切に出来ない人に上に立つ資格はない!」


「資格など必要ない、必要なのは絶対的な力と従順な駒だ、勝てればそれが全てだ」


巴嘩は怒りに溢れた表情で信征を睨んだ、信征の表情は嘲笑うかのような冷ややかなモノ、巴嘩はその顔にある種の恐怖を感じた、人の心を知らない悪魔の顔、それが目の前にある。


「貴方は悲しい人ね」


「だとしたらどうなる?」


「人を守りたいと願う強さを教えてあげる」


「それは楽しみだな」


巴嘩は信征めがけ飛込んだ、斬りかかれば球体に阻まれ、球体は阻めば叩き落とされる、しかし着実に信征に近付いている。

信征の懐から一つの球体が飛んできた、巴嘩は左の刀で防いだが、力で押されて半身になった、しかし巴嘩はそのまま右の刀を切上げ、信征の脇腹を斬る。

信征と巴嘩は間合いをとり、再び睨み合った、信征は脇腹を押さえ怒りに満ち満ちた表情をしている。


「まぐれだ、図にのるな」


「何も言ってないうちから言い訳とは、見苦しいわね」


「馬鹿にするな!もう手加減はしないお前もろとも全員殺してやる!」


信征の体に球体が集まり始めた、体が徐々に見えなくなり、真っ黒な球体と化した、球体は浮き上がり上空でボコボコと変形しはじめる。

巴嘩は不気味なものを見るような目でそれをながめていた、球体から手足のようなものが生え、黒い羽のようなモノも生えてきた。

体の骨格が完全に出来上がると最後に頭が出てくる、鬼のような顔をていて信征の原形は無い。


「うわぁ!何だこの化け物!?」


「経ちゃん!」


経が起き上がって最初に見たものは不気味な信征の姿だった、そして下手物を見るように舐め回した。


「これが私の魂玉の最強の段階だ、まさに魔王」


「普通自分で魔王って言うか?それに魔王ってよりその下っぱAって感じだぞ」


「何とでも言え、時期に強さが分かる」


信征はその場から消えて経の前に現れた、経は油断していて一瞬見失ったが、何とか反応出来て爪を防いだ、経は防いだまま斬りかかったが、大きな羽に防がれた。

経はバックステップで間合いをとり両手の刀を投げつける、刀は信征の体をかすったが信征は全く動じずに突っ込んでくる、経は股の刀を抜き信征の蹴りを防ぐ、しかし力で押しきられそのまま吹き飛ばされた。

経が突っ込んだ瓦礫の砂塵の中に経はいなかった、そして巴嘩が見たのは信征の後頭部の所にいる経、信征の身長はこの状態だとゆうに2mを越えている、故に跳びながら横薙に斬りかかるモーションとっていた、しかし信征は振り向かずに翼で薙払おうとする。

薙払った翼は巴嘩が受け止めていた、経はそのまま背中を大きく切り裂いた。


「巴嘩、ありがとう」


「私も戦えるわよ」


「そうだな」


経と巴嘩は並んで構えた、信征の怒りは頂点に達している、翼を羽ばたかせ宙に舞い上がる信征、そして手を上げると無数の黒い球体が発射された。


「巴嘩、この量はヤバくない?」


「チョットね」


二人は構えて防ごうとしたその時、経と巴嘩の周りは白い何かで覆われた、黒い球体は白い経達を覆ったモノに弾かれ、信征の手元に戻った。


「経さま、二人だけで戦ってる訳じゃないのよ」


「クソ苦戦中らしいな、何か相手が化け物がいるし」


「経の姿も変わってるね」


「私も大丈夫です」


扉の所には四奈・龍奴・次郎・晴季が立っている、巴嘩と経は安堵に包まれ、信征は圧倒的劣勢に立たされた。

経は不適な笑を浮かべて、右の刀の切っ先を信征の顔に向けた。


「終幕への特別列車、片道直通快速急行、料金はタダだ、感謝しろ」














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