第三十六陣
巴嘩が秀美に連れていかれた部屋は先ほどの部屋と同じで無駄に広い、巴嘩は地下に下りた時点で分かっていた、室内では終式は発動出来ない、馬鹿デカイ巴嘩の終式は室内では逃げ場を与えるだけ、そんな不安と戦っていた。
秀美は10mほど先で止まり振り返った、巴嘩はその立ち方、振り返る時の髪の振り乱し方、全てにみとれていた、その美貌だけで日本を落とせる、そんな冗談が頭をよぎるくらい秀美は美しかった。
「信征様に手を出さないと約束するなら何もしないわよ」
「無理ね、私は経ちゃんを助けなきゃいけないの」
「愛する者を守りたい、そこだけは同じなのね。ならどちらがファーストレディにふさわしいか、決めなくてはいけないわね」
「ファーストレディ?馬鹿馬鹿しい、経ちゃんは王になるタメにココに来たんじゃない、貴方達が気に入らないから来たのよ!」
巴嘩は魂脈の流れを速めた、本気は出せずとも、接近戦でも巴嘩の力は絶大。
巴嘩の周りに桜の花びらが舞い始め、足元には草花が生い茂っている、桜の花びらが手元に集まると細長く渦巻く。
「巴!魂玉段階弐式!枯雀桜刃!」
数枚の薙刀の刃が円を描いている薙刀、刃は桜色で見るも美しい。
秀美の周りには木の根が突きだし、秀美の体を覆い始めた、そして二本の根が大きくしなり、秀美の背中と腰を叩いた。
「秀吉!魂玉段階弐式!樹鬼猿刃!」
背中に小刀が一本、腰に小刀が一本鞘に納まっている、小刀の柄は指が軽く入るくらいの輪がある。
羽柴秀吉、戦国時代に天下統一を成し遂げたただ一人の武将、織田信長を強く崇拝していて、忠誠心があつかった、身軽な事からサルという愛称が名付けられていた、藤原氏一族で関白になったのは秀吉ただ一人である。
「私の二つ名知ってる?」
「モンキーババア」
「バっ!?まぁ良いわ、猿飛びくノ一、理由はこれよ」
秀美が地面手を付くと部屋全体が木で覆われる、そしていつの間にか巴嘩の上にいた、巴嘩はその木を思いっきり殴ると木は簡単に折れた。
「さすが剛腕ね」
「猿並に木登が好きって事?」
「それでも良いわよ」
秀美は巴嘩の前方に立つと、いたる所に自分と同じダミーを出芽させた、巴嘩は鼻で笑うと同じ事をやって見せた。
「無駄よ」
「そうみたいね、でも力だけじゃ私には勝てないわよ」
秀美は木と木の間を飛んで巴嘩に近付く、飛び下りるのと同時に右手で斬りかかるが巴嘩は薙刀で受け太刀する、しかし秀美は左手の小刀で斬りかかろうとした、寸前までくると巴嘩の薙刀のの刃が一枚飛び、小刀を弾いた、巴嘩は空いている右手の指の骨を鳴らしボディーをいれようとしたが丸太に当たった、丸太は砕け散り秀美は木の枝に足でぶら下がっている。
「さすが猿ね」
「怪力よりはマシよ」
「それより、そんな所にぶら下がってないで降りてきなさいよ!」
巴嘩は右手で木の裏を掴むとそのまま後ろに倒した、落ちてきた秀美に上段から斬りかかるが、秀美は左手の小刀を逆手に持ち防ぐ、しかし巴嘩の力押しに右手の小刀も添えた、秀美が受け太刀した瞬間、薙刀の刃は回転して秀美の防御を強制的に打ち崩した、秀美は避けようとするが、肩口を浅く斬られた。
秀美は傷の事など気にせずに、小刀の柄の輪に中指を通した、両手の中指を軸に回転する小刀。
秀美はそのまま巴嘩の懐に潜り込み、右手を引いた、巴嘩は逆手による横薙の攻撃と予想して防御の体制に入った、しかし秀美が小刀を握ったのは逆手ではない、それに加え横薙の攻撃ではなく突き、巴嘩はギリギリで避けたが脇腹を斬れた。
巴嘩はバックステップで避けようとしたが、秀美に追い付かれ逃げるどころか防戦一方となってしまった、秀美のイレギュラーな攻撃に防御するだけで精一杯、寸前で見極めなけれはいけないので攻撃に転じる余裕がない。
秀美は一度右の小刀を納刀すると、そのまま横薙に払った、巴嘩は受け太刀して攻撃に転じようとしたその時、受け太刀したハズのモノは刃ではなく鞘、秀美は納刀したまま攻撃をした。
小刀は鞘から抜けて巴嘩の胸を浅く切り裂いた、刃が邪魔して十分な鞘滑りが得られずに、失速して斬撃に力が入りきらなかった。
「大きな胸が台無しね」
「ホント、最悪」
「大丈夫よ、胸だけじゃなくて全身をズタズタにしてあげるから」
「それは貴方でしょ?」
巴嘩は地面に薙刀を突き刺した、全体が突き刺さると同時に、地面・壁・木、いたる所から薙刀が生えてきた。
巴嘩が腕を大きく開くと、刃は宙に舞い散る。
「桜の花びら達よ、その桜色の美しい身を、朱に染めよ!桜吹雪・阿修羅の舞!」
巴嘩が体を抱き締めると刃は一斉に秀美に襲いかかる、秀美は顔色一つ変えずに自分の分身を出芽させた、秀美は自分の分身を盾にしつつ、余った刃は全て自分で打ち落とした。
刃は全て地面に落ち、秀美は無傷のまま立っている。
巴嘩は苦笑いを浮かべると近くにあった刃に柄を生やす、桜色の薙刀の刃は二振りの刀と化した、巴嘩はそれを逆手で持ち構える、普通の人ならば重くて振るのがやっと、だが巴嘩の力の前ではゴミ同然だった。
「考えたわね」
「コレで対等、いや、私の方が上ね」
「どうかしら?」
秀美は一歩で間合いを詰めた、秀美の横薙の攻撃を巴嘩は軽々と止める、もう片方で攻撃しようとした秀美を巴嘩は、受け太刀した片手だけで軽々と吹っ飛ばした。
巴嘩は追い討ちをかける、秀美は防ぐだけで精一杯で体制を立て直す暇すらない、後退しながら受け太刀していた秀美は木に阻まれ後ろが無くなった、巴嘩はそれを見計らって殴るように斬りかかり、受け太刀をした秀美もろとも木を折って吹き飛ばした。
「大した事ないわね、弱い」
土煙の中から出てきた秀美の表情は怒りに満ちていた、既にそこに美貌は無く、全てを怒りが浸食している。
「貴方に負ける訳にはいかないの、信征様にふさわしい女になるタメには強くなければいけないの!」
「それなら安心して、信征は経ちゃんの手で殺されるから」
「仮にそうだとしても、私は命に変えても信征様をお守りする、信征様は私の全てなの!」
「なんでそこまでアイツに肩入れするの?死んだら愛せなくなるのよ」
「そんなの構わない、私の身も心も全てがあの人のモノ、死ねと言われたら死ぬわ、殺せと言われたら殺す、それが私の愛の証になるのなら何でもする」
「それなら愛の証、ココで潰してやるわよ」
巴嘩は地面を思いっきり蹴った、秀美の懐に潜り込むと素早い連撃を浴びせる、秀美は力に加えスピードの加わった巴嘩の攻撃を受けるので精一杯、一瞬の隙を狙って待つ事しか出来ない、しかしそんな間にも巴嘩の連撃は止むところを知らず、手が痺れて小刀を落とすのも時間の問題だった。
巴嘩は秀美の一瞬の隙を見逃さなかった、右手の刀を逆手から持ち変え、ボディーを殴るように斬りかかる、秀美が受け太刀したのと同時に巴嘩の手から刀が飛んだ。
巴嘩は右手を腰の辺りまで拳を引いた、秀美は右手の小刀で横に薙払おうとした時、目の前から消え秀美の腰の辺りまで屈んでいた、巴嘩は全体重を乗せて秀美のボディーを全力で殴った、秀美はボールのように吹っ飛び、壁により止まる。
秀美は完全に意識が飛んでいて、口からは血が流れだしている。
「顔は女の命、お腹で勘弁してあげる」
巴嘩は殺さずに部屋を出た、経の加勢をするために刀を逆手に持ち。
最終回に近付いて来ました、遂に経対信征が始まります、評価やコメント、アドバイスなど頂けるとありがたいです。それと新しい作品も只今執筆中です、今度のキーワードは‘神’です、どうぞ良かったらそっちも読んでください。




