第三十五陣
四奈と蘭は部屋の中央で立ち止まった、蘭は振り返り、前屈みになりながら四奈の顔を覗きこんだ、四奈はそれに笑顔で答える。
無邪気な蘭の笑顔は女性そのもの、顔立ちも全てが男性と言われなければ気付かないくらいだ。
四奈には時間が無かった、四奈がいかに早く助けに行くかで生存率は大きく変わる、それ故に四奈は焦っている部分もあった。
「四郎よ、我が刃となりて聖を持って咎…………ん!」
四奈が魂玉を解放させようとした時、蘭は四奈の両頬を挟み、そのままキスをした、四奈は驚きのあまり一瞬止まったが、蘭を突き飛ばしそのまま間合いを取った。
「何するの!?」
「四奈ちゃんがいつもやってた事でしょ?こんな風に」
蘭は一瞬で四奈の目の前から消え、再びキスをした、今度は四奈の唇を割って舌が入って来た、四奈は突き飛ばそうとしたが、強く抱き締められそれが出来ない。
四奈が解放された時、四奈の目には涙が浮かんでいた、四奈は涙を拭いた後、自分の唇を袖で拭った。
「最低」
「何で?敵には出来て僕には出来ないの?」
四奈には以前と違い大切な人がいる、故に以前の感情とは違うモノがあった。
「僕ね、四奈ちゃんの事大好きなんだよ、もう君の事をこの手でメチャクチャにしたいくらい、誰よりも四奈ちゃんの事を愛してる。だから四奈ちゃんをこの手で殺したいんだ、誰かのモノになる前に、誰かに苦しめられる前に、僕の前で最高に苦しんで死んで欲しいんだ。ダメ?」
「却下ね、今のキスで私のビンゴブックの断トツトップ、最優先抹消人物に見事なりました。……さようなら」
四奈は殺気と魂脈の流れが高まる、蘭は全く怯まずに笑顔を崩さず魂脈の流れを速めた。
「四郎よ、我が刃となりて聖を持って咎人に裁きを下せ、死の旋律は血の戦慄によって奏でたまえ。属性馮位、聖の舞」
四奈の周りには球体が現れ、四奈の周りを取り巻く、蘭が笑顔で拍手をしていると、蘭の身体中に電気が走る、電流は地面を叩き地面を砕く、蘭が左手を上げると電流は弧を描いた。
「蘭丸!魂玉段階弐式!雷射嵐貫!」
蘭丸の左手には大きな弓が握られている、全体が刃になっていて、役割は弓だけではない。
森蘭丸、織田信長の小姓であり織田信長の寵愛を受けていた、甲斐武田氏の死後、美濃国岩村城の城主に任じられる、信長に命じられ本能寺に火をつけ、本能寺の変で戦死した。
「本気なのね」
「当たり前でしょ、四奈ちゃんは誰にも渡さないよ」
蘭は四奈の目の前から消えて、四奈の背後に現れた、弓を引き矢を放とうとした時、横から来た球体を避けたため射損じた。
蘭は間合いをとり矢を放った、蘭が放った矢は電気を帯び、スピードが増している、矢は白い壁に当たり落ちた。
壁があり蘭を見失った四奈の横に弓を振り上げた蘭がいた、蘭が振り下ろすと真っ白な刀をに当たり、弾かれる。
蘭がバックステップで避けた所に白い球体が飛んで来た、蘭は自分と球体との間に空気の塊を作り、体を滑らせるようにいなした。
蘭は着地した瞬間に消え、四奈の背後に周りこむ、射抜くと壁に当たり矢は地面に落ちた、矢が地面に落ちると同時に四奈の肩が切り裂かれた、蘭は弓を横に構え、2本同時に放ち、一本は四奈の背後、一本は四奈の肩を狙っていた、四奈は背後の方だけしか反応できずに、肩は当たってしまった。
「四奈ちゃんの血だ、真っ赤だなぁ」
「当たり前でしょ、赤じゃない方が問題があるわよ」
球体は四奈の傷口を覆い、傷を癒し始めた、四奈は攻撃的なモノは低いが、回復しながらでも戦えるので長期戦になれば勝ち目はある。
「四奈ちゃんが死ぬ前にその血をすすれたら満足なのにな」
「血ならいくらでもあげるわよ、だから死んでくれない?」
「やだぁ」
無邪気な笑顔を崩さずに四奈を僅かな希望を打ち崩した、四奈は苦笑いを浮かべながら、肩から球体を引き離した、傷は完治していて切れているのは服だけ。
「穴だらけにすればいっぱい血が出るよね?」
蘭は5本の矢を構え放った、しかしどれもが四奈に向かっていない、蘭は同じように様々な方向に矢を放った、矢は部屋中の壁に当たり、何度か方向を変えたのち、全てが四奈に向かっている、全方向から飛んでくるタメに逃げ場はない、四奈は球体を集め、自分の周りで大きな球体を作った、矢は球体に当たり全てが地に落ちる、大きな球体は各々に別れて四奈の周りを回りだした瞬間、蘭は横薙に弓を払い四奈の脇腹を切り裂いた、怯んだ四奈は片膝を付いた時に折り返して四奈の肩口を切り裂く。
動けなくなった四奈の前に蘭が現れ、肩の傷口に口を当てると、傷口から四奈の血を吸った。
「美味しい」
「最悪の、趣味ね」
「拷問マニアに言われたくないな」
四奈は鼻で笑うと、球体を床にして宙に浮き上がった、そして魂脈の流れを逆回転させる。
「茨の祝福」
蘭は危険を感じて飛び上がると、部屋全体が茨に包まれた、蘭は足一つ分の棘と棘の間に立つと笑顔で四奈を見上げる、何とか立てるが倒れれば地獄が待っている。
「やっぱり四奈ちゃんも悪趣味だ」
蘭は再び矢を5本射ったが、茨に刺さり呑み込まれてしまった、蘭は困った顔を作り、顎に人指し指を当てて首を傾げた。
「これじゃ勝てないよ」
「蘭に勝ちは無いわよ、死んでね」
蘭は再び笑顔を作り、魂脈の流れを逆回転させた。
「雷嵐」
その瞬間四奈の周りを風が取り巻き、静かに静電気が起こり始めた、静電気は徐々にに強まり小さな雷と化す。
蘭は笑うと無数の矢を放った、雷の竜巻の中を大量の矢が走り回っている、その矢は一本ずつ四奈に向かって飛ぶ、四奈は球体で何とか防いでいたが、完全には防ぎきれずに何本か体を霞めていた、その間にも蘭は矢を放ち続ける。
「いつまで持つかな?」
「不本意だけど、これを使わなきゃいけないなんて」
蘭は不思議そうな顔をして首を傾げた、四奈の口角が上がり、白い歯が見えた。
「ホーリーシェル!」
四奈の周りにあった球体は四奈の周りで大きな球体と化した、四奈は完全に球体に覆われ。
「それ知ってるよ、完全防御と回復、更に攻撃を兼ね備えた最強の形態。だけど………、それを発動したら力の使いすぎで気絶するんだよね?この状況でそれが何を意味するか分かるでしょ?」
この状況で気絶して地面に落ちれば茨に刺さり確実に死ぬ、例え蘭を殺せても四奈は死ぬ。
「道連れよ」
「怖い怖い」
四奈を覆った球体から無数の白い矢が放たれた、矢は全てが蘭を襲う、蘭は矢を打ち落とし、落としきれなかったのは避けていたが量の前では限界がある、避けきれなかった矢は体を引き裂き、蘭の体力を確実に奪っていく。
蘭の体は四奈の矢でつんざかれ、体を貫通してる部分もある、体力もそこを尽きかけたその時、着地に失敗して足を滑らせた。
「あら?ダメだ、僕、死んじゃうね」
最後に満面の笑を浮かべた瞬間、棘に刺さると同時に大量の矢が降って来た、体は貫かれ即死、蘭は最高の笑顔と共に砂と化した。
「(勝った、でも、もう体力が、ゴメンね龍奴、私、愛してるから)」
四奈の球体は消え去り、気を失った四奈は頭から茨に向かっている、この状態で落ちれば即死は免れない、四奈が死ぬまでの距離、それは1m。
「四奈!!」
龍奴の叫びと共に四奈の体は串刺しから免れた、龍奴はギリギリで四奈をキャッチしたために肩を大きく切った。
龍奴は壁の茨の棘の隙間を蹴って入口に飛込んだ、四奈を抱き抱えるように背中から落ちた。
「クソギリギリセーフ」
龍奴は体を起こそうとしたが背中に痛みを感じて諦めた、入口から出る時に茨にかすったらしい。
「死なねぇけど、……………イテェ」
龍奴は四奈の顔を見ると笑を浮かべた、腕の中で眠るのは幸せ、早く起き上がって助けに行かなくてはいけないが、体言うことを利かない、龍奴は苦笑いを浮かべて目を閉じた、四奈を強く抱き締めたまま。