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第三十四陣

晴季は大きな扉をくぐると、広い空間の中に凛と佇む十子がいた、十子は晴季に笑顔を見せると晴季は怒りの表情で返す。


「巴嘩ちゃんがきはると思ったんやけど」


「私じゃ不満ですか?」


「はい、死にかけたお人やからな」


「卑怯な手を使わなきゃ人を殺せないような人には殺されません」


晴季は笑顔を作った、二人の笑顔は表面的なもので、本意には殺気がこもっている。


「口だけは達者なんどすなぁ」


「お互い様」


二人の笑顔が徐々に崩れてくる、顔の筋肉はこわばり痙攣を始めた。

二人の笑顔は限界に達して表情と殺気がシンクロした、その瞬間に二人の魂脈の流れは速まり、十子の周りには針のような雨が降り手に集まる、晴季の体は梵字が走り体を覆い尽くす。


「晴明!魂玉段階弐式!六芒邪符!」

「十兵衛!魂玉段階弐式!傘沙針雨!」


二人は同時に魂玉を解放した、晴季の手には数枚の呪符が、十子の手には傘が握られている。

晴季は5枚の呪符を上に投げると5体の鷹が現れ、手に持った呪符を刀へと変える。

先に5体の鷹が一斉に十子に襲いかかる、十子は自分の手前で鷹達を針で射抜く、針が当たった鷹は爆発して目の前の視界を皆無にする。

晴季は爆風の波に乗って十子に斬りかかった、十子は傘で防御すると傘の柄から仕込み刀を引き抜き斬りかかる、晴季は左手に呪符を持ちそれを小刀に変えて逆手で持ち、十子の仕込み刀を防いだ。


「やりますなぁ」


「当然です、真っ向勝負なら負けません」


「そう………」


十子は晴季の目の前で水と化し消えた、晴季が次に反応を感じたの自分の背後だった、晴季は前方に逃げたが、逃げ切れず肩口に切傷を負った。


「甘いどすえ」


「やりますね、気を抜いたら危ないですね」


晴季は肩に呪符を当てると一瞬で止血された、晴季は右手には刀を持ち、左手には逆手で小刀を持った、十子は右手に逆手で仕込み刀を持ち、左手には傘を持っている。


「震えてはりますよ」


「笑ってるのよ、貴方が弱すぎて」


「なら笑って死んでや」


十子が飛び込んで来ると、晴季は右手で呪符を投げた、十子は傘で呪符を防ぐと当たった瞬間に爆発する、十子は煙の中から現れ仕込み刀で斬りかかる、晴季は小刀で防ぎ刀を振るが傘で止められてしまった。

二人はその状態で停止すると、晴季の口から呪符が出てくる、呪符は上の歯に付き牙へと変わった。

晴季は小刀と刀で十子の腕を大きく弾く、そのまま晴季は十子の肩口に噛みついた、十子はとっさにバックステップで避けるが、肩口を大きく牙で切り裂かれる。

晴季はその場で立ち止まり牙を解除した、口に付着した血が十子の恐怖をかきたたせる、晴季は呪符で血を拭うと遠くへ投げた。


「獣どすな」


「大切なモノを守るタメなら獣にも鬼にも悪魔にもなります、………………なんなら死神にでも」


晴季は手に持っていた刀と小刀を解除した、そして違う呪符を持つとそれは大鎌と化す、晴季の体に不釣り合いな大きさが不気味さを際立たせる。


「陰陽師は本来鬼を退治する者、なんなら鬼神にでもなりましょうか?」


「私には般若にしか見えへんのですが?」


「そう、般若がお好みで」


晴季は両手で鎌を持ち大きくジャンプする、十子の前方で一回転して遠心力を殺さずに十子を薙払った。

十子は何とか受け身をとり晴季を見ると目の前にいた、晴季は上段から斬りかかるが十子は何とか避ける。

手に持っている鎌の刃を上に向け、刃と棒の結合部分を地面に叩き付ける、叩き付けた反動を利用して、大鎌の柄で十子を上空に打ち上げた。

反動が有り余り地面に突き刺さった大鎌を踏み台にして晴季も飛び上がった、晴季は手に持っている呪符を紐に変えて十子の足に絡み付けた、晴季は紐ごと十子を投げ飛ばす、十子は強く地面に叩き付けられ、紐は呪符へと解除された。


「どうですか、般若の力は?」


十子は片膝をつきながら立ち上がった、口から唾混じりの血を吐き出して、体の埃を払い落とした。


「まだまだ可愛い般若どすな」


「何がですか?」


「すぐに気が緩むところどす!」


十子は一瞬にして晴季の目の前まで移動してきた、仕込み刀による素早い一閃を、晴季は十子の頭の上を通り避けた。

十子は傘を上に投げると傘から大量の針が出てきた、その全てが晴季めがけて襲いかかる、晴季は両手に刀を作りいくつか針を打ち落とすが、数本は体を貫通した、どれもが急所を外しているが、動けなくするには十分だった。

晴季はその場に崩れ、立ち上がるのもやっとの状態だ、十子も然り、肩からは血が流れ、骨は何本か折れている、二人共立ち上がるのがやっとだった。


「お互いボロボロどすな」


「そうですね」


「でも貴方は動けない、私は動け………!」


十子は体を動かそうとするが、何かに縛られているかのように体が動かない、体が動かないだけではなく、魂脈の流れの制御も出来ない。


「ハハ、アハ、アハハハハハハハハハ!!」


「何をしはった!?」


「五芒星発動」


十子が地面に手をつくと、大鎌、血を拭った呪符、刀だった呪符、紐だった呪符、そして晴季の足元の呪符、全てが光り、線で星の形を成す、星を囲むように正五角形が頂点を結び、更に円が囲む、その中央にいるのが十子。


「今までのは全てが囮です」


「離しなはれ!卑怯でっしゃろ!」


晴季は指を絡ませて日本語とも捉えられない不思議な言葉を発し始めた。

その瞬間に線は強く光り始め、呪符からは光の槍が現れた。


「離せ!離しぃや!」


晴季は全く聞く耳持たず、否、話せる状況下にいない。


「頼んます!離してぇや!もう貴方達には手を出しまへんから!……………頼んます………」


十子は涙を流しながら十子に助けを求めた、しかし晴季は顔色一つ変えずに唱え続ける。


「もしかして何も喋れへんとか、そこから動けないんとちゃいます?」


晴季の表情が微妙に変わるが唱え続けた、しかし十子はその一瞬を見逃さなかった。


「図星どすな、ほならコレで」


十子は口から針を出した、そしてその先は晴季の心臓に向いている、このまま十子が針を吹けば良くて相討ち、最悪の場合は晴季のみの死が待っている。


「さいなら」


針は真っ直ぐと晴季の心臓めがけて飛ぶ。


「(大丈夫、後少し、私は助からないかもしれないけど、この人は殺せる。ごめんなさい次郎さん、約束守れませんでした)」


針は晴季まで1mの所まで来ている、晴季は目を閉じて唱え続けた、最後の最後に浮かんだ顔は次郎だった。















「っ!」


針は刺さった、とめどなく血が流れる、貫かずに途中で止まっている。







「晴季ちゃん、大丈夫だよ」


晴季が目を開けると次郎がそこには立っている、針は次郎の腕に刺さり骨に当たって止まっていた、晴季はあまりの事に一瞬口が止まった。


「大丈夫だよ、続けて」


晴季は無言で頷くと再び唱え始めた、次郎は壁に体を預けて腕から針を抜いた、十子は絶望感から涙も渇れ、うなだれている。


五芒槍星ごぼうそうせい!」


呪符から現れた5本の光の槍は、十子めがけて真っ直ぐと飛んでいく。


「経ちゃん、巴嘩ちゃん、ゴメンね」


十子の最後の言葉は経と巴嘩に対する謝罪だった、槍は十子の体を貫くと、真っ赤な血と共に最後の一粒の涙が流れた。

十子は数秒経ってから砂と化した、その瞬間に晴季はその場に倒れた、体からは血で真っ赤に染まっている。

次郎が晴季の元に駆け寄ると、晴季は次郎に呪符を渡した。


「次郎さん、この呪符を傷口に……」


「分かった、でも………」


「服の上からじゃなくて地肌にお願いします」


晴季は体を起き上がらせ、真っ赤に染まったシャツを脱いだ、その下は下着のみ、次郎は顔を真っ赤にしながら傷口に呪符を貼っていく。


「後ろにも」


晴季は力なく次郎に倒れこんだ、次郎は晴季を抱き締めるように後ろ側に呪符を貼っていく、晴季は力は無いが致命傷も無い。

次郎は晴季に呪符を貼り終わると、自分の上着とシャツを脱ぎシャツを晴季に着せた。


「こっちの方が良いでしょ?」


「ありがとうございます」


晴季は後ろに倒れそうになるが、今度は次郎が受けとめた、次郎は覆うように晴季を抱き締めて目を閉じた。


「次郎さんに助けられてばっかりですね」


「晴季ちゃんを守るって言ったから」


晴季は笑ってそのまま目を閉じる、二人は目を閉じてお互いが生きている事を実感していた。

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