第三十二陣
謙恋は歳那に先導されながら歩いていた、歳那は歩いてる時に、チラチラと笑顔で振り返る、しかしその中には殺気が満ちている、謙恋はそれを笑顔で受け止め、笑顔と共に殺気を返す、この二人の笑顔だけで小動物がショック死するくらいだ。
歳那はある程度歩くと足を止めて振り返った、その瞬間に二人の魂脈の流れが速まる、無言の内に戦いは始まっていた。
「歳三さん、我の水刃となりて敵を美しく散らせ、目の前に立ちはばかる醜き肢体を華麗なる水氷が蒼く染めるだろう。属性馮位、水の輪廻」
歳那の足元は水浸しになり体の周りに水の柱が渦巻く、前よりも格段に魂脈の流れが速まり、魂脈を逆回転させずにこれだけの水を発生させられる、それだけで驚異だ。
「謙信、状態朱雀」
謙恋の背中から真っ赤で大きな翼が生え、謙恋は上空に飛び上がった、羽は一枚一枚が燃えていて、羽ばたく度に火の粉が飛び散る。
上杉謙信、戦国時代に軍神と呼ばれ、毘沙門天を深く信仰する戦いに長けた天才、武田信玄とはお互いを認め合ったライバルでもある。
「美しいですね」
「ありがとう」
謙恋は言葉を放つと共に、翼を大きく羽ばたかせた、翼からは無数の火の粉が飛び、全てが歳那に襲いかかる、火の粉は歳那に当たる前に、歳那を覆った水の柱に当たり消えた。
歳那が柱を5本に別けて体の周りを渦巻いた時、柱と柱の間から謙恋が現れ鋭い爪を振り上げた、歳那は間一髪の所で避けたお陰で切れたのは服髪の毛だけ、謙恋が口を大きく開けると口から火を噴いた、歳那は水で防いだが所々に火が付いてる。
蒸発して薄くなった柱を一つにまとめ、謙恋に放った、謙恋は体を翼で覆い、柱は当たった瞬間に全てが蒸発して消え去った。
翼を広げた時、謙恋は無数の水の柱に取り囲まれていた、柱は一斉に謙恋に襲いかかり、謙恋が防御するには時間が足りなかった、全てをまともに受け、謙恋は地面に落とされる。
「ボロボロですね、その傷付いた体も美しい」
「す、少し、ナメすぎた、みたいですね」
謙恋の服は原形を留めていない、スカートは短くなりやっとその役目を果している、上は殆どゼロに近い、下着姿と言っても過言ではない。
「こんな姿で女性を放置するのは紳士として許せません、死ねば羞恥心も無くなるでしょう、さようなら」
謙恋の周りに水が渦巻き、全てが謙恋に収束した瞬間、謙恋の体は大きく燃え上がり、凄まじい蒸気を上げて水は消えた。
蒸気で辺り一面が真っ白になる、気温は一気に上がり視界はゼロ、そして謙恋の羽ばたく音と共に水蒸気が晴れた。
「謙信、状態鳳凰」
水蒸気が完全に晴れた時、上空には大きな鳳凰もとい謙恋がいた、真っ赤な火の羽が全身を覆い、太陽のように輝いている、尻尾の羽は虹色に輝き虹色の炎が巻き散る。
「なんと美しいのだろう、鳳凰とは」
「さようなら」
心に直接入り込むような高い声で喋った、先ほどと同じように翼を羽ばたかせた、翼から出た火の粉が歳那を襲う。
「しかし考えが浅はかだと美しくないですね」
「それは貴方ですよ」
歳那は水で体を覆った、火の粉は水に当たると、ジュッという音と共に火は消えたが中から羽が現れ、歳那の体をつんざく。
そして謙恋は口から火を吹くと、地面は燃え上がり歳那を取り囲む、歳那は水で応戦するが全てが無に帰す、火は歳那へと移り歳那は片膝をつきそのまま倒れた。
謙恋は殺しはしなかった、元の姿に戻り火傷をした眺めて涙した。
信侍はスキップをしている総羅を呆れながら追っていた、無邪気にはやしゃぐそれはただの子供にしか見えない、とても戦いを好むようには思えない。
信侍は複雑な気持ちで目の前の少年を見ていた、信侍も父親だ、息子よりも小さい子供はこれから自分と殺し合いをする、複雑な気持ちで歩いていた。
総羅はある程度行った所でっ止まった、それに合わして信侍も止まる。
「総司!三炎天鵡!」
「おいおい、気が早いな」
総羅は刀を引きずりながら信侍に近寄って来た、ある程度近付くと素早く動き信侍に斬りかかる、信侍は間一髪のところで避けた。
「早くしようよ」
「はぁ、しょうがないな」
信侍は頭を掻いて大きく深呼吸した、息を吐きながら目を閉じて、数秒止めて目を見開いた。
「信玄!風林火山!」
信侍の右手には軍配が握られていた、極普通の軍配に‘風林火山’と書いてある。
武田信玄、甲斐の虎と言われた戦国時代の将軍、武田の騎馬隊は戦国最強と呼ばれ、織田信長に負けるまでは無敗だった、家臣に情が厚いのでも有名だ。
「手加減しないでよ!」
総羅は10m以上離れた場所から一歩で間合いをつめた、総羅は素早い攻撃を連続で放つが全て防がれる、総羅は脇腹に蹴りを入れるが信侍に片手で掴まれ、そのまま後方に投げられた。
総羅は木を何本か折りやっと止まった、しかし何故か投げたハズの総羅が後ろにいる、信侍は軍配で薙払うと、総羅は歪み消えた。
「残念でした」
本物の総羅は後ろにいて刀を振り上げている、信侍は避けきれずに肩口を少し斬られ前方に逃げた。
総羅は刀を引きずりながら笑っている。
「幻影か」
「大正解、おじさんって弱いね」
「本気出したら君死んじゃうよ」
「大丈夫だよ、僕も本気出すから」
総羅の手元から魂玉は消えた、総羅の足元は燃え始め、手元には火が集まっている。
「総司!魂玉段階弐式!三影蜃鵡!」
信侍はめんどくさそうに魂玉を消した、風が吹き荒れ、砕けた地面が舞い上がる、木の葉が舞い、半分が火の粉と化した時、全てが信侍の右手に集まった。
「信玄!魂玉段階弐式!嵐森炎岩!」
信侍の手には、嵐が青、森が緑、炎が赤、岩が茶で書かれた黒い軍配が握られていた。
総羅は信侍が開放すると同時に一瞬で間合いをつめた、信侍に向かって半身で突くと刀は空を斬った、総羅が気付いた時には背中に軍配が当てられていた。
「嵐の如く」
嵐の文字が光ると、圧縮された風が一気に放出されて総羅は人形のように吹っ飛んだ。
信侍は総羅が地面に着く前に軍配を地面に当てた。
「森の如く」
総羅が吹っ飛んだ先には大木が現れた、大木は大きくしなり総羅を薙払う、総羅は野球ボールのように信侍の元に戻って来た。
信侍は体制をそのままで、総羅が寸前に来るまで堪えた。
「岩の如く」
信侍の手前まで吹っ飛ばされた総羅は、地面から隆起した岩で上空に飛ばされた、信侍は総羅が上昇するのより速く上昇する。
「君を殺したくない、だから寝ててくれ」
信侍は上昇してきた総羅の腹に軍配を押し当てた、総羅は辛うじて意識が残っている、何とか刀を握っている状態だ。
「炎の如く」
軍配から火柱が出てきて総羅を直撃する、総羅は火柱ごと地面に叩き付けられ、吐血して意識を失った。
信侍は総羅のすぐ横に着地して肩に担いだ、目には涙が浮かんでいる。
「謙恋ちゃんは無事かな」
「勇!状態麒麟!」
勇治は麒麟になった、最初から開放していた次郎と龍奴は構えた、二人共この戦いに勝てるかどうかは不安だった、唯一の願いが信侍と謙恋、二人が早く勝って助けに来るのを願うのみ。
「クソが、いきなりMaxかよ」
「しょうがない、龍奴君、あれをいくよ!」
「OK!」
次郎は手の平を勇治の上に向けた、次郎の手からは茶褐色の液体が出てきて、勇治の上で何かに当たったかのように雨と化した。
勇治が茶褐色の液体でビショビショになった時、龍奴はショットガンの銃口を勇治に向けた。
「直通、アッシュ行きだ」
龍奴はショットガンを連射した、勇治の体に当たった瞬間に全身に火が燃え移り、勇治は全身が火に包まれた。
「水は水でも可燃性の水だよ、若干しぶといやつね」
「麒麟の丸焼きになりな」
「甘い、甘過ぎる!」
勇治は後ろ足だけで立ち上がり、地面に前足をたたき付けると同時に吠えた。
その瞬間体の炎は飛び散り、焦げてすらいない体が露になった。
「あの体毛防火性らしいよ」
「馬鹿だろ」
「今度はこっちからだ」
勇治が地面を一蹴りすると、地面は大きくえぐれ凄まじい勢いで二人に近付く、二人は間一髪で両方に別れた。
勇治は着地した前足を軸に龍奴の方を向いた、次郎は薙払うように振られた尻尾を防御しきれずに吹っ飛ぶ。
龍奴が次郎に気を取られていると、薙払うように勇治の前足が飛んできて、次郎と同じ所に吹き飛ばされた。
「おかえり」
「ただいま」
「俺は肋骨を三本ほど」
「俺は肩を20針くらいかな」
龍奴は切れた肩に手を当てた、ジュッという音と共に傷口が焼けていく。
「クッ」
止血は完了したがあまりの痛みで意識が飛びかけた。
次郎は龍奴が落ち着いたのを見計らって勇治の顔に飛込んだ、口元めがけ薙払う、しかし次郎の刀は勇治に噛まれて止まった、その瞬間に勇治の顔の中央に龍奴が飛び乗り銃口を向ける、勇治は顔を大きく振って二人を落とすと、落とした所に前足を叩き付ける。
前足を上げた時には既に二人の姿は無く、右側に龍奴、左側に次郎がいた。
龍奴はショットガンを連射して次郎は液体の刃を放ち続けた、勇治は顔色一つ変えずに大きく吠える、その瞬間に地面から岩が隆起して、二人は上空に吹き飛ばされた、勇治は龍奴の方に前足を振り上げる、龍奴は前足に向かって銃口を向けてショットガンを連射した、ショットガンの反動を使い前足を何とか避けた。
勇治の尻尾は次郎を薙払おうとする、しかし次郎は体を氷で覆い尻尾を滑らしていなした。
二人は再び一ヶ所に集まり勇治と睨みあう、三人とも息があがり始めていたその時、次郎が後ろに反応を感じて反応を薙払う、まっ二つになったのは適合者だった、後ろからは更に取り付かれた適合者の群れが来る。
「おい勇治!このクソどもはどういう事だ!?」
「知らねぇ、コイツら無差別に襲ってやがる」
二人が勇治を見ると取り付かれた適合者達は、勇治をも襲っていた。
「どういこと?勇治の言う事なら聞くんじゃないの?」
「ストライキか?」
「馬鹿か!勇治、取りあえず休戦だ!」
「あぁ。もしかしたら信征様が放棄されたとか?」
「どういうことだ!?」
三人は適合者の群れを排除しながら話している、しかし全力で戦った後なので三人とはいえ苦戦を強いられている。
「俺らはある玉を持ってるからコイツらに命令出来る、その大元を持ってるのが信征様だ」
「もしかしてクソ信征はそれを放棄、又は壊したとか!?」
「恐らく、そうなったらコイツらに誰も命令出来ない、ただの無差別殺人マシーンだ」
「クソ信征は仲間を裏切ったのかよ!?」
「そうだな。それより、この事を他の奴らにも知らせる、俺の背中に乗れ」
次郎と龍奴は一度顔を見合わせ、勇治の背中に乗った、勇治は前足を大きく薙払い、近くにいた適合者を一掃してその場から消えた。




