第三十一陣
経達は屋敷の中に入っていた、中はいたって普通の居住スペースとなっていて、普通の和室があるだけだ。
四奈はその中の一つの部屋の前で立ち止まった、4枚の障子で仕切られている和室、四奈は障子を左右に動かしている、経と巴嘩と晴季にはその行動が理解出来ずにいた。
暫くするとカチッ、という音と共に畳が不自然な移動を繰り返し、畳の下から地下に続く階段が現れた。
「からくり屋敷だ」
「経さま気を引き締めて、ココからは敵の巣窟よ」
4人の間に緊張が走る、四奈を先頭に全員が地下に入って行った。
そこは岩がを掘っただけの簡単な穴になっている、しかし無数に枝分かれしていて、案内人がいなければ確実に迷うくらいだ。
四奈は躊躇無くひたすら進み続ける、しかし全員の足が一つの扉の前で止まった、そこから反応がある。
「トコちゃん?この扉の向こうにトコちゃんがいる」
巴嘩は吸い込まれるように入ろうとした、だが経が後ろ手を掴み止まった。
「経ちゃん何するの?」
「巴嘩には分からないのか、この殺気に。多分今の十子さんは説得出来ない」
「それなら私がこの手で殺す」
「巴嘩には無理だ、優しすぎる」
「私が行きます」
晴季が扉の取っ手に手をかけた、晴季も同じように殺気を放っている。
「この人は次郎さんを苦しめた、だから私はこの人が許せない、巴嘩さんには悪いですけど私が殺します」
「出来るのか?」
「やります」
「分かった、絶対に死ぬなよ」
「頑張って晴季ちゃん」
晴季は扉を押して中に入って行った。
四奈はそれを見て再び走り始める、先程の晴季の殺気で3人の緊張感はピークに達していた。
それに加えて徐々に強まるえたいの知れない禍禍しい反応、全員は薄々気づいていた、この反応が信征の物だという事に。
ある程度走った時だった、急に反応が背後に現れた、全員が振り向くとそこには蘭が立っている。
「迷ったら調度こんな所に出ちゃった、ラッキー」
「……………蘭」
「あぁ!四奈ちゃんだ、久しぶり。それとそこの女の子は………、政音ちゃんを殺した人だね」
今まで笑っていた蘭が巴嘩を見た瞬間、殺気の満ちた険しい顔になった、ビリビリと震えるような殺気、生半可なものでは無い。
「君をこの手で殺したいのは山々だけど、僕はやっぱり四奈ちゃんと戦いたいなぁ」
再び笑顔に戻る、しかし女の子のような笑顔の中に押し潰されそうな殺気がある、それに気付かない者はいなかった。
「でも私は貴方にかまってる暇は無いの」
「何で、調度3人じゃん、後は信征様と秀美さんだけだよ、僕と戦わないで誰と戦うの?」
蘭は顎に人指し指を当てて首を傾げた、その瞬間に3人の背筋は氷ついた。
「どういう事!勇治達はいないの!?」
「勇治さん、歳那さん、総羅君は一目散に外に出ていっちゃったよ」
3人は確信した、龍奴と次郎の絶対的な死を、作戦が失敗した上に圧倒的劣勢に立たされた事を。
「なら良いわよ、蘭を殺して上に加勢に行く。経さま、巴嘩ちゃん、信征と秀美は任したわよ」
四奈は蘭に先導されるがまま、近くの部屋に入って行った、その瞬間経は壁を思いっきり叩き悔しさを露にする、巴嘩が声をかけようとした瞬間に凄まじい殺気を放った。
「誰も死なせない」
経はそう言って、巴嘩でも追いかけるのがやっとの速度で走りだした、信征の場所は目を瞑っていても分かる、異常なまでの反応が道しるべとなっていた。
巴嘩は経の背中を見ながら恐怖すら感じていた、今まで感じた事が無いくらいの経の狂気、その証拠に経の周りで乱気流が発生している、魂脈が抑えきれずに暴発し始めた。
そして一際大きな扉の前で二人は立ち止まった、そこからは信征の反応が溢れ出ている、経は躊躇なく蹴破った。
大きな扉が軽々と開き、中には椅子に座った信征とその隣で凛と立つ秀美がいる、経が手を上げて手の平を信征達に向けると風の刃が飛んだ、刀も無しに風の刃を放った、信征は人指し指を突きだした、風の刃が当たった瞬間、風の刃は何事も無かったかのようにただの風と化した。
「何を焦る?」
「早くお前らを殺して次郎と龍奴を助ける」
信征は鼻で笑い、高らかと声をあげて笑いだした。
「死ぬのに助けられる訳ないだろ、それともこの私を殺すというのは本気なのか?」
「本気も本気、大マジだよ」
「それなら秀美、邪魔は連れてけ」
はい、と一言言うと信征の隣から秀美が消えた、次に現れた時は巴嘩の腕を握っていた。
巴嘩は力ずくで振り払い一本後退する、秀美はその間も不気味な笑を崩さず巴嘩を睨み続けた。
「ココでは信征様に迷惑がかかります、そちらの部屋へ」
秀美が指した先には扉がある、経が巴嘩を見ると巴嘩の手は震えていた。
「巴嘩、すぐに助けに行くから心配するな」
「大丈夫、こんなおばさんに負けるのは、歳と無駄な色気だけで十分」
秀美の額に青筋がたっている、秀美は怒りを抑えながら部屋に入って行く、巴嘩もその後を追って部屋に行った。
残された信征は椅子から立ち上がり、ポケットから黒い玉を取り出した、それを指で遊びながら経を睨んでいる。
「これが何だか分かるか?」
「知るかよ」
「外にいた私の傭兵を操作している物だ、奴らは全員取り付かれているが故に、私がこのように操作しなければ暴れて無差別に殺しを始める」
その瞬間信征は玉を人指し指と親指で握り潰した、経でもそれが何を意味するか分かった、時間が経てばココまで適合者が流れ込んで来る。
「お前、仲間が死んでも良いのかよ!?」
「コレで死ぬような駒ならいらぬ、それに奴らは仲間ではない、傭兵の一部でしかない」
「ふざけるな!テメェは絶対に許さねぇ!この場で殺す」
経の魂脈の流れが急速に速まる、密閉状態で風など入って来ない部屋の中で、暴風が吹き荒れる、バチバチと空中で静電気が暴れる、岩の壁は所々に風で切られた傷がつく、信征はそれら全てを手前で消し去る。
暴風が徐々に縮小され経の周りに集まる、そして経の上で雷が発生し経に当たった。
「義経!魂玉段階終式!遮那天狗!」
埃が晴れ、そこから出てきたのは平安時代の貴族の衣装に顔の側面に天狗の面、髪の毛は伸び後頭部で結んでいる経、右手には薙刀のような形状をしているが柄の所に刃がついている、一つの柄の両端に刃がついた武器だ。
「コレが終式か、始めて見た。シンクロとはよく言ったものだ、丸っきり遮那王、いや、牛若丸、源義経と言った方が分かりやすいな」
「ごちゃごちゃうるせぇな、死ぬ前に博識をアピールしてんじゃねぇよ」
「それくらいで私に勝てると思ったか?」
信征の魂脈の流れが一気に速まる、そして徐々に信征の体が上空に浮き上がり手を広げた。
「信長、我の前で汝の力を示せ、我が肉体を媒介とし魔王の力を示せ。漆黒の闇に染まりし我が血肉、敵の血で洗い流せ。属性馮位、闇の僮」