第二十八陣
経はいつものように部屋で雑誌を読んでいる、ベッドの上で横になり雑誌を天井に向け。
巴嘩は洗濯物の山が入った籠を持ちながら経の部屋に入って来た、経はそれに全く気付かずに雑誌を天井に向け続ける、巴嘩は経の横に立ち雑誌をとりあげた、しかし経は微動だにせず腕を上げ続けた。
巴嘩はゴキブリを潰すように雑誌を丸めて経の顔を叩いた、経はやっと反応をしめして目を真ん丸にして巴嘩を見つめた。
「何考えてるか分かんないけど、洗濯物干すわよ」
「四奈に頼めよ、アイツならテレビ見てて暇だろ」
「四奈はいないよ、それに経ちゃんの方が暇そうなんだけど」
「でも………」
巴嘩は片手で籠を持ち、片手で経を担いで部屋を出た、経はジタバタして離れようとするが、巴嘩の力に経が敵うはずがない。
屋上に上がると経は投げられた、そして目の前に洗濯物の山が置かれ、見上げると満面の笑があった。
「干すよ」
「………………」
経はあぐらをかいて、明後日の方を見て無言で拒否する、しかし襟元を掴まれそのまま持ち上げられ、目線が同じ位置まで持ち上がる。
「干すよね?」
笑顔の中に般若が隠れてる、経はそれが痛いくらいに分かった、それに逆の手は腰のあたりでボキボキと骨を鳴らす。
「干させてください」
「よろしい」
ドスンという音と共に経は巴嘩の手から落ちる、経は尻をさすりながら洗濯物を干し始めた、経はこんな具合で巴嘩に強制されたため、洗濯物を干す手際が良くなっている。
二人でやったために洗濯物の山があっという間になくなった、経は終るとその場に倒れこみ空を見上げる、屋上なので風が澄んでいて経はこの風が好きだった。
巴嘩はいつもならそのまま下に降りるのだが、今日は何故か経と一緒に空を見上げた。
「気持良い」
「なぁ、何かおかしいと思わないか?」
「何が?」
「分かんない、だけど何かが引っ掛かるんだよな」
経と巴嘩は空を見上げたまま考えた、経の直感というか野生本能が感じたらしい、龍奴が抱えてる不安と同じものを。
「……………分かんね!」
経は上半身だけ起き上がり頭を掻きまくった、久々に頭を使ったせいか急速に疲れたらしい。
「経ちゃん、私が死んだらどうする?」
「何だよ急に?」
「今度の戦いでみんな無事に帰ってこれるとは思えないから。もしかしたら私が、って事もあるじゃない」
「巴嘩が死んだら………、とりあえず殺した奴を死にたくなるくらいボコる、それでから殺すかな」
巴嘩はその人のためにサックリと殺してやろうと、エグい事を考えてたりする、経も巴嘩も行き着く先は同じ、殺さなきゃ死ぬ世界に踏みいれている、巴嘩は内心押し潰されそうな不安にさいなまれてた。
「それ以前に巴嘩には死なせないけどな」
「頼もしい」
「マジだからな、巴嘩だけは絶対に守る、だから巴嘩も絶対に諦めるなよ」
経は巴嘩の頭にポンと手を置いて笑ってみせた、巴嘩は経の発言に鼓動が高鳴って聞こえてないか不安だった。
「トコちゃんはどうするの?」
「殺す、説得してダメならな。言っちゃ悪いけどもうアイツは俺らとはもう違う、敵でしかないんだよ」
「多分トコちゃんは戻らないよ」
「第一次郎をあんなにして晴季を泣かした、それだけでも死に値するのに巴嘩を悲しませた、いくら幼馴染みでも許容範囲ってものがある、十子さんには悪いけど俺には仇に値する」
経は自分の中で割りきれていた、猪突猛進の経には自分達にたてつけば敵、それだけはハッキリしていた。
しかし情にに流されやすい巴嘩は、全てを受け入れるには少々思い入れが強すぎた。
「巴嘩、割りきれ、幼馴染みの十子さんはあの時に死んだ、俺らが殺すのは敵だ」
「分かってる、分かってるけど………」
巴嘩は言い終わる前に経の胸の中にいた、経の胸は大きく、不安や悲しみが涙へと昇華され溢れだした、巴嘩は経の服をしっかりと握り、経を離さなかった。
「ゴメンな、こんな戦いに巻き込んじゃって」
「大丈夫、でも大事なものまで失いそうで怖い」
「大丈夫だ、もう失うものなんてない、これ以上苦しむ事はなくなるよ」
「でも私怖いの、トコちゃんと戦ったら、トコちゃんを殺すより自分の死を……………!」
巴嘩が言い終わる前に経が自分の唇で巴嘩の唇を塞いだ、巴嘩は突然のキスに驚いたがすぐに受け入れた、そして少し長めのキスの後、涙を拭って笑顔見せる。
「コレが終わったらまたキスして」
「分かった約束する」