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第二十七陣

次郎も意識を取り戻し、日常は平穏へと戻った、平穏過ぎるくらいにあれから何も無い、その異常に気づいたのは龍奴ただ一人だけだった、四奈や次郎も違和感はあったが頭の中で現状に甘んじて思考を制止していた。

いつものようにアニメを見ている四奈の横で新聞を読む龍奴、その表情が心なしかイラついて見える、貧乏揺すりも酷くそれに四奈が気付かない訳がない、チラチラと龍奴を気にしながらテレビの画面だけを見続けた。

龍奴は新聞をクシャクシャにして机に投げ捨て、代わりに財布を取ってソファーを立つ、四奈はテレビを机の上のリモコンで消し、龍奴を見たときにはリビングを出ていた。

四奈が龍奴を追って玄関に行くと靴を履いてる龍奴がいた。


「何処に行くの?」


「何処でも良いだろ」


「私も行く!」


龍奴が靴を履き終る頃に四奈は靴を履き始め、龍奴が玄関を出た頃に四奈は靴を履き終った。

龍奴は足早に門を出る、四奈は小さい体のために小走りになりながら龍奴の後ろを追う、龍奴は歩くのが速いために四奈が歩調を合わせると小走りになる、他人から見たら怒った親を追う娘に見える。

龍奴は四奈の事を避けるように足を速める、四奈は耐えかねて走って龍奴の腕を掴んだ、しかし龍奴は振り向き様にふりほどき怒りに充ち溢れた眼で四奈を睨んだ、四奈は一歩退いて龍奴から視線を反らした。


「何で逃げるの?怖いよ」


「うるせぇな、ついてこなきゃ良いだろ!」


「何で怒ってるの?」


「分からねぇのかよ!!?」


龍奴は前のめりになりながら怒鳴りつけた、四奈は顔を背けて目に溜った涙を拭い震える。


「分からないよ」


「分からねぇなら教えてやるよ!」


次郎は四奈の胸ぐらを掴んで目線を合わした、四奈の目に写ったのはいつもの龍奴ではなく、怒りに感情の全てを任した龍奴が目の前にいる。

決して口喧嘩になっても手を出さない龍奴が今は四奈の胸ぐらを掴んでる、どんな事があっても冷静を崩さない龍奴が、今は冷静さなど感じられない。


「おかしいと思わないのかよ!こんだけクソみたいに時間が経ってるのに何も無いんだぞ、普通なら一週間もしないうちに何かしらの攻撃を示す奴らが、今はクソみたいに何も無いんだぞ!何でそんなにヘラヘラしてられるんだよ、戦力を蓄えてるかも知れないんだぞ!」


四奈はついに泣き出し、頬をつたう涙を手の甲で拭うが、拭いきれなかった涙が龍奴の手に落ちる、しかし龍奴はそんな四奈を前にしても怒りはおさまらない。


「泣いてどうにかなると思ってんのかよ!?」


「ち、違うよ。龍奴怖い」


龍奴は舌打ちと同時に四奈を突き放した、四奈は尻餅をついて龍奴を見上げる、龍奴は肩で息をしながら四奈から遠ざかっていく、四奈は走って龍奴を背中から抱きついた、あまりの出来事に龍奴は振り払う事ができなかった。


「みんな不安なの、もしかしたら大切な人が死ぬかもしれないんだよ」


「俺には関係ない」


「関係ある!」


四奈が始めて強い口調で言い放った、龍奴は徐々に平静を取り戻して来た。


「俺には大切な人なんていない、大切にしてくれる………」


「私がいるよ、私は龍奴がいなくなったら悲しいよ」


「それは仲間としてだろ、経と俺は違う」


「そうね、私は経さまの駒、経さまへの気持ちは愛じゃなくて忠誠でしかない。でも龍奴は違う、信征の傘下にいた時からいつも龍奴は私を助けてくれた、半哉と戦った時も、信征と戦った時も龍奴は私を助けてくれた。私、そんな龍奴が側にいるだけで幸せなの、だからいなくなったら悲しい」


龍奴は黙ったまま動かなくなり肩が震えている、四奈は龍奴の背中に顔を埋める。


「……………四奈」


「だから行かないで」


「だからってあいつらを野放しにできない、俺の目的は馴れ合いじゃない」


龍奴は四奈の腕をほどいて振り向いた、龍奴の目には眼を真っ赤に腫らして不安な顔をしてる四奈が写った、体は震えて瞳は虚無を写す。

龍奴は気持ちが揺らぐ前にその場を離れようとした、しかし四奈は龍奴の前に立ち、龍奴の行く手を阻む。


「頼むからどいてくれ」


「やだ!龍奴一人じゃ行かせない、龍奴は死んじゃダメだよ」


「今でも遅いくらいなんだよ、でも早いうちに手をうっとかないと」


「なら私も行く、龍奴一人でなんか無理だよ」


「死ぬのは俺一人で十分だ、四奈は家でみんなに言っとけ『龍奴は怖じ気付いて逃げた』って」


その瞬間、四奈は龍奴の頬を叩いた、龍奴は斜め下を向きながら頬を押さえて呆然としている、今度は四奈が怒りを露にする。


「馬鹿じゃないの!一人で正義ぶって、一人で死ぬなんてずるいよ!仲間を信じようよ、私に話してよ…………!?」


四奈は話してる途中に体を包まれた、四奈は龍奴に抱き締められていた、龍奴の体は小刻みに震えている、四奈の心臓は人生で一番のポンプ運動を繰り返し、その音が聞こえてないか不安になりつつ、四奈は龍奴に支えられていた。


「もう分かったから、でも俺が死なないからってお前が死んで良いわけじゃないからな」


「分かってるよ。もう帰ろう、帰って龍奴が思ってる事伝えようよ。いつも私と龍奴が話して終りでしょ、話せばみんな分かってくれるよ」


「怪力家政婦、お気楽スモーカー、ダボダボ貧乳、クソ馬鹿(巴嘩、次郎、晴季、経の順)、約一人を抜いて話せば通じるからな」


四奈は経の呼び方と自分の呼び方が気になってしょうがなかった、苦笑している四奈を後目に龍奴は元来た道を歩いていた、四奈は後から追って龍奴の腕を掴んだ、龍奴は歩調を遅めて歩いた。

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