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第二十五陣

四奈が家に戻ると玄関には血まみれの経と痣だらけの龍奴が倒れてた、二人は気を失っていてかなり危ない状態、次郎の治療を終えていた四奈は直ぐ様二人の治療に移った。

暫くの間治療を続けると二人の傷と痣は消えた、ピクリと瞼が動き先に起きたのは経の方だ。


「四奈か、ありがとな」


「それよりこの傷は?」


「信征の刺客が来た、それより他の奴らは?」


四奈は顔を背ける、龍奴も起き上がり見たものは四奈の泣きそうな顔と経の不安そうな顔だった。


「おい、二人ともどうしたんだよ?」


「それは俺が聞きたい、巴嘩は大丈夫なのかよ!?」


経は四奈の肩を強く揺すって問掛ける、その問いには少しだけ頷く。


「巴嘩ちゃんはショックで気を失ってるだけ。でも次郎が……………」


「死んだのかよ?」


「分からない、砂にはなってないから生きてるけど意識は無い」


「巴嘩は何で?」


四奈は今までの事を全て話した、家に十子と政音が入って来た事、次郎が晴季を守った事、巴嘩が政音を殺した事。

話を聞いた経の顔は絶望に満ちていた、自分達が倒れてる間に大変な事が起きていた。


「政音が、死んだ?」


「巴嘩ちゃんが一人で殺したのよ、終式とかいうので。しかも相手は四聖獣、傷一つ負わずに圧倒的な力だった」


経は少なからず悔しさを噛み締めていた、こっちは終式ってのを使っても二人がかりでやっとだったのに、巴嘩は一人で二人を相手にして圧勝。

しかし何よりも一番驚いたのは巴嘩も終式を使っていた事、しかも巴嘩の場合は‘武器’という概念を大きく脱した形。


「実は経も終式を発動してるんだよ、でも普通に姿と武器が変わっただけ、巴嘩みたいに色んなものを無視した変化じゃなかった。経の場合は武器と身体能力の強化、それだけ」


「経さまの終式は足りない物を補うタイプ、巴嘩ちゃんの場合は攻撃に徹するタイプ」


「巴嘩のは防御と攻撃を兼ね備えてないか?」


「私が見た限りだと木自体は自然のそれと大差は無かった、桜の花びらが刃なだけ。だから属性が‘火’の相手には逆に不利よ、森を燃やされたら逃げ場が無くなる上に武器まで奪われる」


「脆刃の剣って事か」


二人の会話についていけなくなった経は、その場を逃げるように退散して、巴嘩の部屋に向かった、多分巴嘩が一番辛いと思うし、巴嘩の苦しみが分かるのも自分だけだと思ったから。

四奈と龍奴の熱い討論会は終わる所を知らない、二人の議論は毎度の事ながら誰も介入は出来ない、今回の会場は玄関にて。


「俺が思うに終式の発動条件には感情の高騰が関係あると思うんだ。経の場合は幼馴染みを傷付けられた怒り、巴嘩の場合は仲間が傷付けられた怒り、必ずしも怒りが条件だとは思わないけど今回はそれだった」


「姿が変わるのは?」


「う〜ん、シンクロじゃないか?」


「シンクロ?」


「俺はあんまり歴史には詳しくは無いけど経の姿は弁慶の格好だと思う、魂玉とのシンクロ……つまり同調が力を増強したんじゃないか?」


「今はそうとしか考えられないわね、まだ情報が足りなすぎるけど、あれだけの力があれば信征達に勝てるかもしれない」




その頃晴季は涙と声が渇れ、ただ次郎の側にいることしかできなかった、自分の不注意で次郎は動かなくなった、あの時自分が気付いていれば次郎は無傷で済んだかもしれない、そんな後悔しか頭にはよぎらない。


「次郎さん、起きてよ、兄だけじゃなくて次郎さんまでいなくなったら私、もう嫌だよ」


当然次郎からの返事が返って来る事はなく、人形のように眠り続ける。

しかし顔は無表情でも苦悶でもない、何故か穏やかな顔をしている、それが晴季を守れた自己満足からくるのか否かは誰も分からない。




経が巴嘩の部屋に入ると寝ながら苦しがる巴嘩がいる、経は慌ててベッドの横にいき巴嘩の体を揺する。


「どうした!?巴嘩、苦しいのか?」


「う、うぅん」


巴嘩は静かに瞼を開けると視界いっぱいに経の顔があった、驚くと同時に顔が真っ赤になる、経は巴嘩が起きて思わず笑みが溢れた、その笑顔が巴嘩の心臓を直接掴んではなさない。


「良かったぁ、おはよ」


「か、顔が近い」


「悪い悪い」


経はそのまま巴嘩のベッドに腰掛けた。


「全部聞いたよ」


「…………ゴメン」


「何で謝るんだよ?今はもう幼馴染みじゃないんだぞ、悔しいけど今は敵になっちゃったんだよな。それと、十子さんと政音を連れて行ったハゲは俺が殺しといた」


経は終始笑顔で話した、完全にではないが多少は巴嘩の気持ちも楽になった。


「それに巴嘩に死なれたら俺が困るし」


「えっ?」


「だから、十子さんや政音が死ぬよりも巴嘩が死ぬほうが俺は何倍も苦しいって事」


巴嘩の心臓は破裂せんばかりにポンプ運動を繰り返す、経には自分がどれだけもの凄い事を言ってるのか理解出来ていない、馬鹿の愚かさを最大限にだしている。


「どうしたの?そんなに顔を真っ赤にして」


「経ちゃん、経ちゃんは何で戦ってるの?」


「狙われてるから?」


「それだけ?」


「十子さんとか政音も理由の一つだけど、やっぱりそれかな」


経は天井を見上げながら淡々と喋る、巴嘩はそんな経の横顔を見ると安心出来た。

決して頼れるというタイプの人間ではない、だけど巴嘩の目には誰よりも大きく見えた、幼い顔立ちも頼れる顔に見える。


「いつかは終わるよね?」


「終らせるよ、もう巴嘩を苦しめたくないし、傷付けたくない」


「経ちゃん?」


「俺さぁ、巴嘩が悲しい顔したり苦しい顔したり、ましてや傷付いたりするだけで苦しいんだ。変だよな、俺の事じゃないのに」


「変じゃないよ」


それと同時に巴嘩は経の隣に座った、肩があたるくらいの近さでも二人は居心地が良かった。


「私もだもん」


「…………………嘘?」


「嘘じゃないよ、今の私の夢は王妃だもん」


「王になれたらな」


「なれるよ、違う、ならなきゃ」


巴嘩は経の肩に頭を置く、経はそれを悟ったのか巴嘩の肩を抱き寄せる、巴嘩は細身ながらに筋肉のある経の腕が逞しく感じた。


「巴嘩、近いうちに信征どもを潰そうと思う、巴嘩はどうする?」


「どうするもなにも行くよ、変態歳那にも借りは返してないし、トコちゃんも返って来ると思う」


「でも分かってるよな、十子さんが目の前に現れたら説得しても良いど、断ったら本気で殺せよ」


「分かってる」


経達は後戻り出来ないところまで来てしまった、今回の次郎は軽傷と考えなければ耐えられない戦い、こちら側に死人を出さない方法は相手を殺す事、それが出来るか出来ないかが生と死の境界線。

経は巴嘩のタメなら修羅に身を染める決心はついていた、巴嘩のタメなら親でも殺す覚悟が出来ていた。

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