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第二十四陣

十子が上空に投げた傘は、骨組みの先端から大量の針が出てきた、暗器で使われる針、急所を的確に刺せば死に至る、逆に急所に当たらなければ殺傷能力はゼロに近い。

針は上空で鷹に乗っている晴季めがけて飛んでく、晴季は政音に集中して気付く気配がない、数百本の針は完全に晴季を包囲した。

晴季がそれに気付いた時には晴季は落下していた、晴季がいた針に包囲されてる中央には次郎がいる。

次郎は晴季を針が包囲する前に気づき、自分が侵入し晴季を落とす部分だけ刀で弾き、晴季の足を掴んで地面に向かって投げ飛ばした。

次郎に針を避ける術はなく、全てが命中した、次郎は針で作った人形のようになって地面に落ちた、そこにあるのが次郎だとは思えない、触れるスペースすらない。


「次郎さん!次郎さん!!」


晴季が呼びかけても返事はない、晴季と次郎の周りは白い球体で包まれる、晴季が振り返るとそこには四奈がいた。


「まだ死んでない!晴季ちゃんも何か蘇生術は無いの?」


晴季の耳に四奈の声は届かなかった、次郎に刺さっていた針は徐々に抜け落ち次郎の素肌が見えてくる、息していない、生きてるようには思えない。


「刺される前に氷で体を覆ったから致死の急所は避けたみたい、でも運が良いのか悪いのか、今は仮死の急所にいったみたい、そんなのがあるのかどうかは分からないけど、砂にならないから死んではいないよ」


四奈が次郎の手当てをしてる時、十子と政音の前に巴嘩が立っていた、うつ向いて顔は見えないが頬を涙がつたってるのは分かる。


「巴姉、一人で二人を相手にするつもり?」


「……………………」


「降参してこっちに来はりますか?」


「………………………」


「巴姉、黙ってたら分からないだろ、死ぬかそこにいる奴らを裏切るか、簡単な事だろ」


巴嘩は顔を上げてうるんだ瞳で二人を睨む、その時始めて巴嘩が殺気を放った。


「四奈、晴季と次郎を守り抜いて」


「巴嘩ちゃん!?」


四奈は何故か出ていく気にはなれなかった、次郎がいるとはいえその気になれば助けにいける、だが巴嘩の殺気がそれをさせない。

巴嘩の魂脈の流れが急激に速まり薙刀が弾けて消えた、十子と政音はその状況が理解できなかった、辺り一帯に桜の花びらが舞い始める、そこには桜どころか木すら見当たらない、桜の花びらが舞うはずがない。

そして無風なのに全ての花びらが巴嘩の周りで渦を巻き始める、徐々に渦が小さくなり、完全に巴嘩を覆った。

暫くの静寂の後、強い光と共に桜の花びらが弾け飛ぶ。


「巴、魂玉段階終式、桜森巫女おうしんのみこ


十子と政音が目を開けるとそこには着物姿の巴嘩がいた、巴嘩の髪の毛と瞳は桜色をしている、武器と思えるものは何も無く、佇んでいるだけ。


桜森おうしん


巴嘩が囁くように言うと、そこは桜の森が出来た、十子と政音はあまりの光景に驚き、辺りを見回し巴嘩に目を戻すとそこに巴嘩はいなかった。


「巴姉は?」


「さぁ」


「巴姉!怖くて逃げたのか!?この桜はただのフェイクかよ!?」


政音は森全体に響き渡る大声で叫んだ、しかし反応は無く静寂が支配する。

政音はイライラして木に寄りかかった時、後ろから巴嘩が現れた、手には小刀が握られ喉元に刃がつきつけられている。


「な、何だよこれ?」


「‘コレ’なんて酷い、巴嘩だよ」


「巴嘩ちゃん!?ホンマどすか?」


「酷いなぁ、幼馴染みの顔も忘れたの?」


顔は変わらない、変わったのは瞳と髪の毛の色と服装だけ、しかし巴嘩の現状に問題があった、桜の木から上半身だけ出している、木から体が生えている。


「良いこと教えてあげる、私の魂玉は装備型、本来は薙刀の形をしてる、でも今はこの森全てが私の魂玉、そしてこの森全てが私、私と魂玉は一つになったの」


「でもそこから出てるのは生身でっしゃろ!?」


十子は言葉と共に巴嘩に向かって針を放った、巴嘩は小刀で針を弾く、それを見計らって政音は巴嘩の手を払い抜け出した。

巴嘩は再び木の中へと消え、再び身を隠した。


「出てこいよ卑怯者!」


“次に出る時は殺すわよ”


森全体から巴嘩の声が響き渡る、声だけでは相手の居場所は分からない。


「出てこないんなら隠す所を無くしてやるよ!」


政音は体制を低くした、魂脈の流れが速まり爪と牙が伸びる、体には徐々に鱗がつき始め瞳は縦に割れた、高く響くような声で鳴く。


「政宗!状態応龍!」


光と共に政音は完全に龍になった、空を飛び上空から桜の森を眺めている。

十子は木の無い所に立ち、傘をさして周りに意識を集中する。


「桜もろとも凍れ」


透き通るような声が降り注ぐ、政音は口を大きく開けると口から冷気を放った、しかし桜の花びらが集まり盾となり冷気を防いだ。

政音は尻尾で森を薙払おうとした、木を2・3本折ると悲鳴に似た叫びと共に止まった。


「何しやがった!?」


政音の尻尾には所々ピンク色に染まっている、染めているのは桜の花びら、政音に桜の花びらが刺さっている。


“言ったでしょ、桜達は魂玉だ、って。桜の花びら一枚一枚が全て刃よ”


「政音、近づかんといて!」


「けど……………」


「ええから!」


十子は森の真ん中で巴嘩の気配を探す、しかし森全てが巴嘩故に気配に包まれている、十子は辺りを見渡しす。


“トコちゃん、桜は枝や花びらだけじゃないよ”


「えっ?」


十子の足に何かが絡まる、十子の足には地面から突きだした木の根が絡まっていた、木の根は十子を逆さまに持ち上げ、そのまま地面に叩き付ける。


「ガハッ!!」


「十姉!?」


十子の悲鳴と叩き付ける音しか聞こえない政音、不安と苛立ちだけが溜まるが成す術はない。

十子は何度か地面に叩き付けられ木に向かって投げられた、木に叩き付けられるとそこには巴嘩がいる、喉元に刃をつきつけられ逃げ出せない。

十子の命を握っている巴嘩は泣いていた、手元に力を込めれば幼馴染みを殺せる、そうなってしまった事に泣いていた。


「殺しなはれ」


「こっち側に来る気は無いの?来れば生きれるんだよ?」


「もう戻れないんどす」


「なら次郎の苦痛をあじわって死んで」


巴嘩は十子を突き飛ばして木から出る、巴嘩の瞳は冷たく悲しい、目の前にいる幼馴染みは自分が殺す。

巴嘩の髪がなびき木がざわめく、巴嘩が大きく目を見開くと花びらが一斉に舞い散る、その様は上空からでもハッキリと確認出来た。


「桜の花びらは美しき凶器、目の前に立ち憚る者をつんざく狂気。美しく散れ、朱の桜」


花びらは渦を巻き十子に近づく、十子は避けることもせずにただ座り続ける。

十子は目を瞑り覚悟した、轟音と共に近づく花びら、それが体に当たり身が切れる音、飛び散る血霧が体を朱に染める、辺り一面は桜の花びらと血で染められた。

しかし十子の体は傷一つない、十子の感覚は何かの液体に濡らされた生暖かい感覚のみ、痛みはない。

恐る恐る目を開けると十子の周りは龍で覆われていた。


「政宗!?」


「…………十姉、…ゴメン………………」


政宗は体が人間に戻った、体の花びらは抜け落ちたが体中に切傷がある、とめどなく血は流れ十子の着物を染める。


「何で助けはったんや!?何で死にはるんや!?」


「…………何で…だろうな………何か、眠い……起きたら………また、戦うから…………待って………………………」


「ま、政音?政音、起きてぇな……………、政音!!」


政音は十子の腕の中で息絶えた、十子が流す涙は顔に付いた血を流し、頬を落ちる頃には真っ赤に染まる。

二人の光景を巴嘩は無表情で見つめる、流れる涙は無く、虚無の器と化した。


「巴嘩ちゃん、もうダメ、殺して」


「……………………」


「殺してよ」


「……………………」


「殺せゆうとりますやろ!!」


巴嘩の瞳が僅かに動く、今度は確実に二人を見ている、その瞳に未だ感情はなく、目の前の光景をそのまま捉える事しかできなかった。


「消えて、もう殺したくない」


「私に生きろ言いはるんどすか?」


巴嘩は無言で頷く。


「もう生きたくない、殺さないんなら死ぬ」


十子は傘から仕込み刀を抜き出し喉元に突き付ける、目を瞑り僅かに微笑む、しかし亀裂から手が伸びて小刀の刃を掴んだ、血が滴り落ち刃を伝う、無理矢理引き離し掴んだまま亀裂から出てきた。

髪が極端に長く艶やか、顔は中性を通り越して美しい女性と見間違うくらいの青年、それが蘭。

笑顔を崩さずに小刀を投げ捨てた、傷口を舐めて血を拭き取り呆気にとられてる十子を立たせる。


「十子さんは生きてよ、僕が悲しいだろ」


「でも………………」


「帰るよ、信征様も待ってるし」


蘭は巴嘩の事を全く気にせずに話を進める、巴嘩はさすがに嫌気がさしていた、十子がこの場からいなくなるのは良い、でも連れていかれるのは嫌、蘇った感情は矛盾していた。


「貴方誰?」


「あらら、初対面なのに漢字三文字で済ましちゃった、怖いなぁ」


「話をはぐらかさないで」


「あはっ、怒られちゃった…………」


頭に手を当てて舌を出すと、一瞬巴嘩の視界から消えて至近距離に顔がある、角度によっては顔が触れ合うくらいだ。


「僕は蘭、よろしくね巴嘩ちゃん」


「何で私の…………んむっ!」


蘭は左手の親指で唇を押さえ、右手の人指し指を立てて左右に振る。


「別に可愛い娘の名前くらいは知ってるよ」


「それはとんだ変態さんなのね」


「そんな事言うとチューしちゃうよ」


「ふざけないで!」


巴嘩は蘭を思いっきり突き飛ばす、あまりの力によろけながら後退した、蘭は胸を押さえながらむせる。


「痛いなぁ、でもそんなツンツンした娘も嫌いじゃないよ。次に会う時は笑ってね、僕は怒ってる顔よりも笑ってる顔の方が好きだから」


蘭は巴嘩に背を向けながら一人で話す、十子を抱き抱えてそのまま亀裂に消えていく。

巴嘩は森を消して今までの姿に戻るとそのまま倒れた、地面につく前に四奈の球体に持ち上げられる、上空には白い平な板の上に三人がいる。

巴嘩を乗せるとそのまま飛行して行った。

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